数か月後、男のもとにアメリカから、一枚の絵はがきが送られてきた。自由の女神の傍らに「ようやく本当の自分に巡り合えた気がします。ありがとう」、とだけ添えられていた。
あれから5年が過ぎようとしていた。しかし、男は現在もあの日のことを、忘れてはいない。それは自分から去っていった女への憎しみを増幅させているのではなく、愛した女への偽りのない気持ちを大切にしていたいからだ。
男はすでに結婚していた。訓話好きの老社長に勧められるままに見合いをし、今では二児の父親である。仕事もうまくいっている。いずれは部長も夢ではない。妻はピアノこそ弾けないが、家庭的な女だ。料理も上手いし、子育てだって楽しんでやっている。男はそんな妻を愛している。妻だって自分に対して不満の欠片すら持っていない。男は、いつもそう思っている。