イーディアが出て行って少ししてから、看護士の女が入ってきた。
私たちの話が終わるのを待っていたのかもしれない。
こちらに柔らかい笑みを送ってから、窓を開いて、右手に持った箒で掃除を始めた。
車椅子を少し動かしては掃き、掃いたら箒を肘掛に載せてまた車椅子を動かす。
右腕一本でも車椅子を動かせるのは、左の車輪が軸と歯車で右と連動しているからだ。右の肘掛の外側あたりにレバーがあり、それで両輪の順回転と逆回転を切り替えられるらしい。
と、私の視線に気付いたのか、
「どうかした? ユビーちゃん」
「ちゃんはやめろ」
そろそろお決まりになってきたやりとり。
というかこの女、私の言うことを聞く気なんてないんじゃないだろうか。
「珍しいなと思っただけだ」
「ああ、この車椅子ね」
どこか嬉しげな口調で彼女は続ける。
「普通の車椅子だと、右手一本じゃ無理だからね。特注なのよ?
そもそも私たちがこの町に来たのも、この車椅子を作ってもらうためだったの。
北の方の町に、こういう車椅子とか、義手なんかの一品物をオーダーメイドで作ってくれる工房があるって聞いてね。
それを作ってもらう間だけ滞在するつもりだったんだけど、私もあの人もここが気に入っちゃって、結局そのまま居座っちゃったんだな」
ふふ、と笑う彼女。
白い右手が、肘掛や車輪を漕ぐための外側のリング――正式名称は私にはわからない――を撫でる。
……イーディアあたりなら、今の彼女の姿を言葉で上手く表現するのだろうな。
私には、無理だ。
黒い艶やかな髪とか、長い睫毛とか、白い肌とか、細い指とか、それこそ眼帯の白さや、不足を抱えたままの在り方まで含めて、……なんと言ったら良いのだろう。
――綺麗。そう、とても、
「綺麗だな」
思わず口に出してしまうくらいには、私は彼女に見惚れてしまっていた。
私たちの話が終わるのを待っていたのかもしれない。
こちらに柔らかい笑みを送ってから、窓を開いて、右手に持った箒で掃除を始めた。
車椅子を少し動かしては掃き、掃いたら箒を肘掛に載せてまた車椅子を動かす。
右腕一本でも車椅子を動かせるのは、左の車輪が軸と歯車で右と連動しているからだ。右の肘掛の外側あたりにレバーがあり、それで両輪の順回転と逆回転を切り替えられるらしい。
と、私の視線に気付いたのか、
「どうかした? ユビーちゃん」
「ちゃんはやめろ」
そろそろお決まりになってきたやりとり。
というかこの女、私の言うことを聞く気なんてないんじゃないだろうか。
「珍しいなと思っただけだ」
「ああ、この車椅子ね」
どこか嬉しげな口調で彼女は続ける。
「普通の車椅子だと、右手一本じゃ無理だからね。特注なのよ?
そもそも私たちがこの町に来たのも、この車椅子を作ってもらうためだったの。
北の方の町に、こういう車椅子とか、義手なんかの一品物をオーダーメイドで作ってくれる工房があるって聞いてね。
それを作ってもらう間だけ滞在するつもりだったんだけど、私もあの人もここが気に入っちゃって、結局そのまま居座っちゃったんだな」
ふふ、と笑う彼女。
白い右手が、肘掛や車輪を漕ぐための外側のリング――正式名称は私にはわからない――を撫でる。
……イーディアあたりなら、今の彼女の姿を言葉で上手く表現するのだろうな。
私には、無理だ。
黒い艶やかな髪とか、長い睫毛とか、白い肌とか、細い指とか、それこそ眼帯の白さや、不足を抱えたままの在り方まで含めて、……なんと言ったら良いのだろう。
――綺麗。そう、とても、
「綺麗だな」
思わず口に出してしまうくらいには、私は彼女に見惚れてしまっていた。