「俺に言えるのは可能性と蓋然性の話だけだ。言語の存在は俺でない『他者』の存在の証明にはなっても、お前がその『他者』の一人であり、ゆえに俺の妄想の産物でないという証明にはならない」
「それでいいわ。聞かせて」
「いいだろう。雑に言えば結論は二つで、どちらが正解らしいかの確率も判断できない。要するに、お前があのとき俺が『喰』った『キィエルテディス』かどうかということだが」
頬はつかまれたままだ。
「この問題を便宜的に身体と意識という二つの観点から整理してみようか。さっきから仄めかしているように俺は心身二元論否定派だが、それは今は置いておこう。一つ目。『身体も意識も同一である』。これならお前は紛れもなく『キィエルテディス』だということになる」
続けて、と眼が言う。
「二つ目。『身体は同一だが意識は同一でない』。この場合お前は『キィエルテディス』と同じ身体を持った別の個体ということになる」
「……待って。アンタの言う『身体』は何を指してるの?」
聡いね。
「お前の元の体は確かになくなっている。現状に即するなら『同一』と言うより『連続している』と言うほうが正確だな。つまり以前の俺が信じていたようにお前の体を分解し情報化したと考えるのではなく、単に俺の内部に物質的に取り込まれたものと考えて、そこに『自分はキィエルテディスだ』と勘違いした意識がある場合になるか」
吐く息が白い。
「ここで問題が出る。『単に俺の内部に物質的に取り込まれる』とはどういうことか、ということだ。言い換えれば、通常の食事と俺の『喰』との間の差異として、俺の『喰』に対象の生物的連続性の担保機能を認められるかどうか、ということだな。一つ目の場合にもこれは同様に当てはまるが、ここで議論は行き詰まる。心の証明と同様、生物的連続性の証明も不可能だからだ。それらしさの推測は可能かもしれないが」
「同じ生き物かどうかなら、アレが使えるんじゃないの? えー、……ディー……ディー……DHA?」
それは魚類に多く含まれる不飽和脂肪酸だ。
「DNAか。そのあたりは詳しくないが、確かあれは生物の構成要素の配置パターンの記録として機能する分子と理解すればよかったはずだ。つまりDNA型鑑定は生物としての構成の同一性検証には有用だが、そこ止まりだ。初期構成が同一な別個体である一卵性双生児の事例を考えればいい」
「何で急に腸詰めの話になるのよ」
「ソーセージじゃねぇ。……あれだよ、すげえよく似た双子いるだろ。あれだよ」
「だったら始めからそう言いなさい」
負けた気分になった。何故だ。
「それでいいわ。聞かせて」
「いいだろう。雑に言えば結論は二つで、どちらが正解らしいかの確率も判断できない。要するに、お前があのとき俺が『喰』った『キィエルテディス』かどうかということだが」
頬はつかまれたままだ。
「この問題を便宜的に身体と意識という二つの観点から整理してみようか。さっきから仄めかしているように俺は心身二元論否定派だが、それは今は置いておこう。一つ目。『身体も意識も同一である』。これならお前は紛れもなく『キィエルテディス』だということになる」
続けて、と眼が言う。
「二つ目。『身体は同一だが意識は同一でない』。この場合お前は『キィエルテディス』と同じ身体を持った別の個体ということになる」
「……待って。アンタの言う『身体』は何を指してるの?」
聡いね。
「お前の元の体は確かになくなっている。現状に即するなら『同一』と言うより『連続している』と言うほうが正確だな。つまり以前の俺が信じていたようにお前の体を分解し情報化したと考えるのではなく、単に俺の内部に物質的に取り込まれたものと考えて、そこに『自分はキィエルテディスだ』と勘違いした意識がある場合になるか」
吐く息が白い。
「ここで問題が出る。『単に俺の内部に物質的に取り込まれる』とはどういうことか、ということだ。言い換えれば、通常の食事と俺の『喰』との間の差異として、俺の『喰』に対象の生物的連続性の担保機能を認められるかどうか、ということだな。一つ目の場合にもこれは同様に当てはまるが、ここで議論は行き詰まる。心の証明と同様、生物的連続性の証明も不可能だからだ。それらしさの推測は可能かもしれないが」
「同じ生き物かどうかなら、アレが使えるんじゃないの? えー、……ディー……ディー……DHA?」
それは魚類に多く含まれる不飽和脂肪酸だ。
「DNAか。そのあたりは詳しくないが、確かあれは生物の構成要素の配置パターンの記録として機能する分子と理解すればよかったはずだ。つまりDNA型鑑定は生物としての構成の同一性検証には有用だが、そこ止まりだ。初期構成が同一な別個体である一卵性双生児の事例を考えればいい」
「何で急に腸詰めの話になるのよ」
「ソーセージじゃねぇ。……あれだよ、すげえよく似た双子いるだろ。あれだよ」
「だったら始めからそう言いなさい」
負けた気分になった。何故だ。