悲しいとき〜

待ち遠しいとき〜。

電車で立っている時、

前の席の人が席を立とうとするとき〜。

 

 

こっちは一刻も早く座りたい。

グリーン車代1,000円ケチッているのだから、

座れたら得した気分。

 

で、駅に着くアナウンスが流れる。

前に座っている人が立とうとするそぶり。

スマホをカバンにしまった。

きたっ。

 

さぁ、立ちなさい。

私は半身になって彼女の歩くスペースを作る。

 

彼女はなかなか席を立たない。

そして、カバンからペットボトルを取り出した。

あれ？降りないの。

オレの半身は？

 

私は何事もなかったように体勢を戻す。

ミスタービーンのように、

素知らぬ顔をしながら。

 

と、その時、彼女は一口飲んでから

ペットボトルをカバンにしまった。

きたっ。

 

今度こそ。さぁ、さぁ。

立たない。

まだ電車が完全に停車していないからかな。

フェイントかもしれないので、

今度は私の体勢はそのまま。

 

 

やっと電車が停車した。

立った。

私は網棚からカバンを下ろす。

隣に立っている彼に席をとられないように、

立ち上がる彼女のボディラインスレスレに

隣の彼の行手を阻みながら、

体を滑らして即座に彼女と入れ替わり、

とうとう座席を手に入れた。

 

 

勝った。

 

 

悲しいとき〜。

電車で座れた時にしか

運の良さを感じられないとき〜。