千曲川のうた

日本一の長河千曲川。その季節の表情を詩歌とともに。
人生は俳句と釣りさ。あ、それと愛。

私が捧げたその人にあなただけよとすがって泣いた

2013年08月30日 | 千曲川とは無関係
今朝の新聞に「天皇に捧ぐ憲法改正」という本の広告が載っていた。
中身には全く関心を持てないが、このタイトルは大いに気にかかる。「捧ぐ」はガ行下二段活用だから、連体形は当然「捧ぐる」でなくてはならない。

あえて「天皇に捧ぐ憲法改正」とした理由を考えてみると、

1,文法の誤り。つまり作者と編集者の無知。
2,「天皇に捧ぐ! 憲法改正」って感じで、切れている表現。
3,「捧ぐる」が正しいことは分かっているが、現代人の語感に「ぐる」はマッチしないという商業的配慮。

いずれにせよ、三島由紀夫が生きていたらご立腹のことだったろう。
ムカシの右翼は真面目に万葉集研究などしたものだったが……。


捧ぐるものなし墓前にて日傘たたむ 津田清子


いたちごっこ

2013年08月10日 | 千曲川の植物
 ちょっとみるとニセアカシアのようだが、これはイタチハギ。



千曲川の河川敷でもこの頃多くなったように思われる。暗い紫色の花が上向きの穂のような形状で咲き、その花序をイタチの尾に見立てた名だというのだが本当だろうか。この花を見てイタチの尾を連想するもんだろうか。

イヌタデ、イヌサンショウ、イヌツゲ、イヌウド、イヌガラシと並べていくと、「イヌ」の意味が何となく浮かんでくる。つまり、人間に有用な植物と似ているけど役に立たない、というような感じだろう。
しかしイタチハギ、イタチグサ、イタチシダ、イタチウリ、とならべても共通性が良く分からない。



夏になると小さな莢がたくさん着いている。間違いなくマメ科の植物だ。





イタチハギを季語としている歳時記は見たことがなく、これを詠んだ例句も知らない。
動物のイタチなら冬の季語。

  振り向きつつ鼬去りたる露の畦 佐藤干城

  鼬鳴く柱の油抜けにけり    宮坂静生

  鼬傷片目に受けし緋鯉かな   茨木和生



もはや千曲川ともイタチハギとも全く関係なく、鼬文学館を。


―――― 平家物語巻第四 「鼬沙汰」 ――――

同じき五月十二日午刻ばかり鳥羽殿には鼬夥しう走り騒ぐ。法皇大きに驚かせ賜い給ひて御占形を遊ばいて近江守仲兼その時は未だ鶴蔵人にて候ひけるを御前へ召して、これ持つて安倍泰親が許へ行ききつと勘へさせて勘状を取つて参れとぞ仰せける。


―――― アナイス・ニン 「エレーナ」 ――――

 ピエールはたった一度、明るい陽光の下で彼女の肉体を眺めたことがある。コーで、それも午前中のことだった。そのとき目のあたりにした彼女の肉体の色つやの素晴らしさに、彼は狂喜したものだった。それはまさしく透き通るような白磁色で、セックスに近づくにつれてその肌は、年老いたイタチのそれのような黄金色に染まっていた。


―――― 柴田宵曲編 「奇談異聞辞典」 ――――

 鼬の火柱を立てるとて、世に妖とする事あり。いたちは夜中樹上にのぼりて焔気を起し、また地上に柱の如く煙気を発する事あり。これをいふ。


―――― 桂枝雀口演 「宿屋仇」 ――――

若い者にしてはえろう頭が禿げておるな。
御念の入りましたこってございます。こういう所に奉公しておりますと幾つ何十になりましても若いもんでございます。
左様か。名はなんと申す。
エー伊八と申します。
何じゃ、その方であるか、鶏のケツから生き血を吸うという大胆な奴は。
あれはイタチでございます。


胡桃

2013年08月01日 | 千曲川の植物
  青胡桃しなのの空のかたさかな  上田五千石

千曲川の流域は胡桃の産地である。






普通に栽培されている胡桃はこんな感じ。今年は実の着きが悪いようだ。


こちらは川筋でよく見掛ける鬼胡桃。野生種で実はひとまわり小さくて先が尖っている。



  はるか来て雨の信濃の鬼胡桃   数馬あさじ



  蓼科は山なみやさし鬼くるみ   峰尾北兎



鬼胡桃は水辺に自生するのでその実は川に流されることも多い。川岸や中州の石に混じって落ちているのもよく見掛ける。
  あさきゆめみし水中の鬼胡桃   宮坂静生
  簗番の掃き残したる鬼胡桃    西村英子
  最上川簗簀に躍る鬼胡桃     粕谷容子

これらの句はよくその感じを捉えている。

鬼胡桃の実を拾い集めるのは難しくないが、これを割って食うのは大変だ。ともかく硬くて綺麗に割れないし、中の部屋割りが複雑なので上手く取り出せない。爪楊枝で僅かな身をほじくり出していると嫌になってくる。
ネットを検索すれば上手な割り方とかが出ているけれど、実際はどうやっても駄目なのだ。

  鬼胡桃割れぬを石と思ひ見る   山口波津女



知人から、丁寧に洗って干した鬼胡桃を1箱頂いたのだが、結局諦めた。
普通の胡桃を買った方がずっと良い。胡桃を入れた焼き菓子、胡桃だれの蕎麦。いいなあ。

ところで私はこの鬼胡桃を別名サワグルミとも呼ぶのだと思い込んでいた。しかしサワグルミは全く別のもので、そもそも食べられるような実はつかない。
世間には私同様これをサワグルミだと思っている人が多いようだ。あるいは地方的な名称としては定着している場合もあるかも知れない。

  野猿すら取らず鈴成り沢胡桃   某氏

例えばこれは、サワグルミと言いながら実際は鬼胡桃を詠んだものだと思われる。

  岩すべる水音へ垂る沢胡桃    伊藤敬子

こちらは多分サワグルミを詠んでいる句だ。

最後にオニグルミをもう1句

  痛きまで握り一茶の鬼胡桃    藤沢紗智子