黒いハイヒール

交番にはパトカーとミニパトの２台が停まっていました。
今日は間違いなく、駐在のお巡りさんが居るはずです。

こんにちは、とドアを開けて中に入っていきました。

変な話で申し訳ないですが聴いてもらえますか？

ほぼ毎日夕方散歩に出かけます。
今頃ですと少し暗くなりかけた６時半近くに出かけます。

若いお巡りさんはメモを取り始めました。

散歩コースは大体決まっていて、
以前ダルメシアンの燦とよく歩いたコースです。

家を東向きに出て時計方向にぐるっと回って帰って来ます。
途中神社を過ぎて、Ｓ印刷会社の所を右に折れ山側に進みます。
坂を上って少し行った所に溜池があります。

溜池の上には高速道路が通っています。
溜池に沿った道を歩いていきますと、
高速道路の橋げたの部分が右際に現れます。

白っぽい橋げたの下に、何やら黒い物体が有りました。
辺りが白い橋げたでそこに黒ですから小さいものでもよく分かります。
歩きながら近くまで来たときに、嫌な予感がしてハッとしました。

それは、溜池方向に向かって一足の真っ黒なハイヒールが、
綺麗に揃えて置かれていました。

見える所に置いてあるので事件性は無いと思われますが何とも言えません。
溜池の水面にも、一週間ばかり通っていましたが不審物は確認されていません。
悪戯にしては誰が何の目的で置いたのかも不明です。

汚いズック等では適当にビニール袋に入れて持ち帰り処分をするところですが、
里山では殆ど見かけない黒いハイヒールですから、
どう処理をしていいか分からずご相談に来ました。

３５℃の猛残暑の中、
少しでもクールな話題を提供しようと近くの交番に出かけたのでした。

若い巡査は、この周辺は大体分かりますので調べてみますと言って、
地図を出し確認を取ってから、お暇して来ました。

その日の夕方の散歩時には、
黒いハイヒールは亡くなって、いや、無くなって居ました。

ここで、頭脳明晰だったダルメシアンのワントソン燦が姿を現しました。
彼の鋭い推理をここで少し披露しますので皆様も一緒に考えてみて下さい。

推理１
足が無くなり、不要になって幽霊が、
履物を何の記念かは知らないが置いて行った。
橋げたの下だけに、下駄ではまんまだから、冠婚葬祭で使用したいっちょらの黒いハイヒールにしたのではと思われる。

推理２
里山のシンデレレ、慌てたのなんのって、
深夜営業に間に合わせるため大急ぎでその場に置いて駆け出した。
でも、慌てた割には何で揃っていたのか更に謎は深まってしまった。

推理３
里山のパンクシー、
瀬戸内芸術祭の出品準備のために、その現代アートとしての作品を。
密かに目立たないこの場所で展示したのではないかと思われる。


猛残暑お見舞い申し上げます。

少しは涼しくなりましたなら幸いです。