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霊感少女 さとみ 2  学校七不思議の怪  第一章 北階段の怪 2

2021年10月25日 | 霊感少女 さとみ 2 第一章 北階段の怪
 そんなわけで昼休みのうたた寝に賭けていたさとみだったが、それが出来なくなった。
 教室で自分の机に頬杖をついて、得意の目を開けたまま寝ると言う体制を取ろうとした時、クラスメイトの麗子が目の前に立ってばんと机を叩いてきたのだ。
「さとみ! ちょっと聞いてよ!」
 さとみがいつものようにぽうっとしているのを眠いからとは思わない麗子は、何度も机を叩く。
「……何よう」
 さとみは眠いと機嫌が悪い。むっとした顔で麗子を見上げる。しかし、麗子には通じない。
「何が『何よう』よ! いつも通りにぽうっとしているだけの癖に!」
「大きなお世話よ! わたし、昨日あんまり寝てないから、眠いの!」
「知ったこっちゃないわよ! それよりさ、話を聞いていよう!」
「昨日もそれで眠れなかったのよ!」さとみは昨夜の竜二の事を思い出し腹を立てる。あの後、竜二と虎之助がどうなったかは知らない。知りたくもない。「とにかく、わたしは、眠いのよう!」
 急に廊下が騒がしくなった。さとみが顔を向けると、アイが立っていた。麗子をじっと睨みつけている。それでも、さとみと視線が合うと、ぺこりと頭を下げ、ずかずかと教室へ入って来た。教室の連中は慌てて出て行く。アイが三年生の札付きの不良だったからだ。
 アイと麗子の間に何かあったのね…… さとみはやれやれと言った顔で、机の列と列の間の通路に立った。
 いつもだと麗子とアイは並んで立ち、さとみと向かい合うのだが、今日は麗子はさとみの後ろに立っている。さとみを挟んで向かい合い、完全に二人は敵対関係になっている。
「さとみ姐さん……」アイが麗子を一瞬睨みつけ、それからさとみに顔を向ける。ある出来事がきっかけで、アイはさとみの舎弟を自認し、さとみを姐さんと慕っている。「聞いてくださいよ」
「麗子も聞いてくれって言っていたけど、二人に何かあったんでしょ?」さとみが言いながら麗子を見る。「二人で何とかできない話なの?」
「出来るんなら、姐さんのお手を煩わせやしません」アイが言う。「悪いのは麗子なんで……」
「ちょっとお!」麗子がさとみの後ろで怒鳴る。さとみはびくんと肩をすぼめる。「悪いのはアイの方じゃない!」
「おい、姐さんが驚いているだろうが!」
 アイは言うと、さとみの手を取って自分側に引いた。さとみは、とっとっとと片足で跳ねながらアイに引っ張られた。
「何やってんのよう! さとみをおもちゃみたいにしないでよ!」
 今度は麗子がさとみの手を取って引いた。さとみはまた、とっとっとと片足跳ねをしながら麗子の側へと行く。
「そっちこそ、姐さんをおもちゃにしてんじゃねぇか!」
 アイがさとみを引っ張る。さとみはアイの側へとっとっと。
「アイがどれだけさとみを姐さんって慕ったってね、わたしの方がさとみと付き合いが長いのよ!」
 麗子がさとみを引っ張る。さとみは麗子の側へとっとっと。
「長さじゃないだろう! どれだけ気持ちがあるかって事だろうが!」
 アイがまたさとみを引っ張る。さとみはアイの側へとっとっと。
「幼馴染パワーの前ではアイなんか敵じゃないわ!」
 負けじと麗子がさとみを引っ張る。さとみは麗子の側へとっとっと。 
 そんなやり取りが幾度か繰り返された。
「ちょ、ちょっと、待ってよう!」さとみが悲鳴を上げる。さとみの右手をアイが、左手を麗子が握りしめている。「何が何だか分からないわよう!」
「何で分かんないのよう!」
 麗子が言ってさとみの左手を引っ張る。
「そうですよ、姐さん! 分からないんですか!」
 アイが右手を引っ張る。
「え? え?」
 さとみは麗子とアイを交互に見る。すると、廊下から覗いている生徒たちの中から一人の女生徒が教室に入って来た。小柄で可愛らしい娘だ。ポニーテールにしていて、ぴしゃぴしゃしたくなるような広めのおでこが丸出しになっている。
「これはどう見ても、取り合いですよ」その女生徒は言う。「さとみせ~んぱい」


つづく

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