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霊感少女 さとみ 2  学校七不思議の怪  第一章 北階段の怪 6

2021年10月29日 | 霊感少女 さとみ 2 第一章 北階段の怪
「それで、先輩、どうなんですか?」 
 朱音が唐突に切り出す。
「え? 何の話だっけ?」
 さとみは言う。言い方がぎごちなく、白々しい。
「ほら、お昼休みに訊いた事ですよ!」
 朱音がじれったそうに言う。言葉の裏には「もう分かっているんです! 諦めて認めて下さい!」との圧が強くにじみ出ている。
 しかし、さとみは白ばっくれる。そもそも、さとみが霊体と話が出来る能力は、困っている霊体の心配事を解決して無事に成仏してもらうためだった。だから、他の人に知ってもらおうなんてつもりは無い。だから、ここで認めるつもりは無かった。とは言え、根が正直なさとみは口には出さないが、態度で朱音にはほぼバレていた。それでもさとみは白を切り通す。
「ああ、霊体が見えるとか話せるとか言うヤツ?」
「そうです。……先輩、話が出来るんでしょ?」
「出来ないわ。朱音ちゃんのお友だちの勘違いよ。わたしは平凡な高校二年生の綾部さとみよ」
 さとみは話はおしまいとばかりに、カバンを手にして教室を出ようとした。
「……あ、先輩……」朱音がさとみの後ろ姿に声をかける。さとみの足が止まった。しかし、さとみは振り向かない。「……先輩……?」
 教室の壁の所に竜二がいた。その竜二にしっかりと抱きついている虎之助もいた。竜二は硬直しきったまま半泣きな顔だ。それとは対照的に虎之助は満面に笑みを湛えて竜二に頬ずりをしている。ぱっと見には、すんごい美人に抱きつかれて羨ましいと言われそうだが、実際はそうでは無い。竜二は何やらさとみに向かって言っている。さとみは霊は見えるが、言っている事は分からない。自分の霊体を抜け出させなければ話は出来ないのだ。いつもなら、すぐにでも霊体を抜け出させて竜二をからかったりするのだが、朱音がいる。しかも、霊体と話が出来るなんて事は無いと言ったばかりだ。……本当、竜二って、いっつもいっつもタイミングが悪いわ! さとみは思わずぷっと頬を膨らませる。
「……先輩、どうしたんですか?」朱音が声をかけてきた。「壁を見ているようですけど…… まさか、見えているとか?」
「はあ?」
 さとみは驚いて朱音に振り返る。朱音はにこにこ笑っている。
「朱音ちゃん…… あなた、怖くないの?」
「と言う事は、先輩、やっぱり見えているんですか!」朱音が壁とさとみとを交互に見る。「すごいなぁ! わたしには全然見えない!」
「す、すごいって……」さとみは呆れる。「どう言う神経してんのよ?」
「のぶの言った通りだわ! さすが、オカルトっ子ねぇ!」
 朱音ははしゃいでいる。さとみは困惑している。……あ~あ、もうバレバレね…… さとみは観念した。と同時に開き直った。……じゃあ、もう良いかな!
 さとみは自分の霊体をからだから抜け出させた。
「竜二! あんたが湧いて出たせいで、大変な事になっちゃのよう!」さとみは竜二を睨む。「どうしてくれんのよう!」
「さとみちゃんこそ、さっさと出て来てくれなくて、何してたんだよう!」竜二が顔同様に半泣きな声で言う。「さとみちゃんさあ、昨日、オレが消えた後、虎之助に居場所を教えただろ?」
「あなた、本当に近くの公園に居たの?」
「あそこがオレの縄張りだからね」
「な~に、犬みたいな事を言ってんのよ!」
「あら、あなた、さとみちゃんって言うのぉ?」虎之助が竜二にしがみついたままで言う。野太い声さえなければ、すんごい美人で色っぽい。「おかげで竜二ちゃんを捕まえることが出来たわ。ありがとね」
 虎之助は言うとさとみに投げキスをした。さとみは笑っていた。……あまり関わらないでおこう。笑顔の裏でさとみはそう思った。
「なあ、さとみちゃんさぁ……」竜二が情けない声を出す。「助けてくれよう。こんなのにずっと付きまとわれたんじゃ、成仏した方がましだよう!」
「そんな事を言ったって、もうこの世に留まるって決めたんじゃない。成仏は無理よ」
「そんな冷たい事を言わないでさぁ…… だったらさ、虎之助をどこかにやる方法は無いのかい?」
「まあ! 竜二ちゃん、なんて事を言うのよ! あなたから誘ってきたんじゃないの! それなのに、ひどいじゃないのさぁ……」
 虎之助は言うと、竜二から離れて顔を両手で覆いしくしくと泣き出した。
「竜二、泣かしちゃったじゃない。どうすんの?」さとみは言う。「そんな綺麗な人を泣かせちゃうなんて」
「おいおい、さとみちゃん、しっかりしてくれよ、こう見えたって、こいつ、男なんだぜ……」
「何よ!」虎之助がすっと顔を上げて竜二を見る。「からだは男でも、心はその辺の女には負けないわよ!」
「オレは心もからだも女が良いんだけどなぁ……」
「竜二!」さとみが語気を強めて言う。竜二は、はっとしてさとみを見る。「……とってもお似合いよ!」
 さとみは言うとけらけらと笑った。虎之助は嬉しそうに竜二の抱きついた。竜二は泣き出しながら姿を消した。
「あっ、竜二ちゃん、待ってよう!」
 虎之助が竜二の後を追いかけるようにして消えた。


つづく

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