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霊感少女 さとみ 2  学校七不思議の怪  第八章 さとみVSさゆり 最後の怪 20

2022年07月23日 | 霊感少女 さとみ 2 第八章 さとみVSさゆり 最後の怪
「これは良い助け手を得たようですね」
 片岡は笑みを浮かべて麗子を見る。麗子は筒と蓋を持ったまま、頭を左右に振り続ける。
「麗子! 凄いじゃねぇか!」アイは言うと、麗子の肩をばんばん叩く。「片岡さんのお役に立てるって事は、会長のお役に立てるってのと同じだぜ!」
「麗子先輩! 凄い!」しのぶが瞳をきらきらさせて言う。「臆病だなんて、ひどい事を言いましたぁ! すみませんでしたぁぁぁ!」
 しのぶが麗子に向かい直角になって頭を下げる。朱音も「「わたしも、すみませんでしたぁぁぁ!」と言って直角になる。
「会長の幼馴染だけの事はあるじゃねぇか!」アイはさらに肩を叩き続ける。「わたしじゃ無理だよ!」
「いや、あの……」麗子は青褪めた顔でさとみを見る。「さとみぃ……」
 情けない声を出す麗子を、さとみはにやにやしながら見ている。
「嬉しいわ。麗子」さとみはにやにやしたままで言う。「しっかりと片岡さんをサポートしてね」
「そんなぁ……」
「ははは、麗子さん、心配なさらないで下さいな」片岡が、泣き出しそうな麗子に言う。「実際には、何もして頂く事はありませんよ」
「……本当ですか?」麗子は疑り深そうな顔で片岡を見る。「わたし、蓋を取っちゃったんですけど……」
「蓋を取るだけで封印が出来るわけではありません」片岡は言うと、筒を取り出したのと反対側の内ポケットから、折りたたんだ白い紙切れを取り出した。「これも必要なのですよ」
「それは?」さとみが訊く。「何かのメモですか?」
「そうですね。メモと言えばメモと言えますね」片岡は紙切れをさとみに差し出す。「見てみますか?」
 さとみは受け取って開いて見た。縦書きに並んだ、漢字だけの小さい文字がずらっと印刷されている。さとみは読もうとして、眉間に皺を寄せる。しかし、すぐに皺は消え、諦めたようなため息を漏らした。
「ダメです……」さとみは紙を片岡に返そうと差し出した。「さっぱりです、ちんぷんかんぷんです。頭の悪さを痛感します……」
「ははは、気にする事はありませんよ」片岡は優しく言う。「皆さんも見てみますか?」
 アイがさとみから紙を受け取る。アイもしばらく眉間に皺を寄せて紙を見つめていたが、ため息をついた。頭を左右に振り、紙を朱音に渡す。朱音は紙を見ながらぶつぶつと何かをつぶやいていた。
「朱音、お前、読めるのか?」アイが感心したように言う。「何て書いてあるんだ?」
「……えへへ……」朱音は恥ずかしそうに笑うと、ぺろりと舌を出した。「すみません、実は、さっぱりです」
「何だよ…… 期待しちまったぜ……」
 アイがため息をつく。
「……かね」しのぶが朱音に手を差し出す。「わたしにも見せてよ」
「良いけど…… 漢字ばっかりよ? 理系頭ののぶじゃ、見ただけで卒倒しちゃうんじゃない?」
 朱音はからかう様に言うと、しのぶに紙を渡した。しのぶは印刷されている文字をじっと見つめる。
「ほらほら、からだ中が痒くなってきたんじゃない?」朱音が言う。「数字だったら良かったわね」
「……あのう……」しのぶは朱音の言葉が耳に入っていないようで、片岡に話しかけた。「……これって、『般若心経』じゃ、ないですか?」
「そうですよ、良く分かりましたね」片岡はうなずく。「読めますか?」
「はい、読めます」しのぶは答える。「昔から心霊に関心があって、『般若心経』は入門編ですから。暗記しています」
「ほう、それは素晴らしいですね」片岡は優しく笑む。「もし、おイヤでなければ、諳んじてもらえますか?」
「はい、分かりました」しのぶは言うと、軽く咳払いをし、目を閉じる。「では、始めます…… ぶっせつまかはんにゃはらみたしんぎょうかんじーざいぼーさー……」
 しのぶが息も継がずに続ける。すると、校長室にいる五体の碌で無しの霊体が、五体ともにやにや顔からふっと真顔になり、それからぼろぼろと涙を流し始めたのだ。また、壁の一部が金色に輝き出し、涙を流した霊体たちがその光の中へと入って行った。そして、そのまま姿を消した。姿が消えると金色の光りも消えた。やがて、しのぶの声が止んだ。
 さとみは驚いた顔を片岡に向けた。片岡にも見えていたはずだ。片岡もさとみを見た。
「これはこれは……」片岡は笑む。「良い助け手をまた一人得たようですね」
「え?」しのぶは怪訝な表情だ。「何かあったんですか?」
「しのぶさんの『般若心経』は大した効き目ですね」片岡が言う。「いざと言う時にはお願いしましょうか」
「凄いじゃない、のぶ!」朱音が瞳をきらきらさせて言う。「あ~あ、わたしも何か役に立てないかなぁ……」
「仲良しの朱音さんが一緒だから、しのぶさんの『般若心経』の効き目があったのですよ」片岡が言う。「ですから、わたしには十分な助け手です」
「えへへ……」朱音は照れくさそうな、嬉しそうな顔をする。「わたしも助け手……」
「でも、どうして『般若心経』なんですか?」しのぶが片岡に訊く。「他にも、もっと効き目の高い真言とか呪文とかあると思うんですけど?」
「良くご存知ですね」片岡は感心したように言う。「そうですね、皆さんのお話だと、さゆりはまだ姿が悪鬼のようになってはいないとの事です。まだ、人の心が残っています。ならば、これでも十分と思ったのですよ」
「じゃあ、さっきの金色の光をこの筒で光らせるんですか?」さとみが訊く。「そして、筒に閉じ込めると言うわけですか?」
「そう言う事です」片岡はうなずく。「そのためには、さゆりの姿が見えていなければなりません。でも、今は気配も消しているとか……」
「となれば……」さとみは、顔の前に右手で握り拳を作る。「わたしが屋上に行かなきゃなりませんね!」 


つづく


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