お話

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ジェシルと赤いゲート 13

2023年02月08日 | ジェシルと赤いゲート 
 ジャンセンの粘土照明のお蔭で、かなり遠くまで見る事が出来た。ジェシルはためらうことなく壁を熱線銃で撃つ。その度にジャンセンのかすかなうめき声が聞こえてくるのが、ジェシルには妙に楽しかった。やがて階段が終わり、平らな石を敷き詰めた踊り場のような場所に立った。ジャンセンは粘土を少しちぎってこねくり回すと床に抛った。発光し回りがより鮮明に見えてくる。
 正面には金属製の両開きで黒色の丈の高い扉があった。
「……ここが地下一階の部屋への扉のようね」
「その様だね……」
 ジャンセンは言うとジェシルの前に立ち、扉に触れようとする。
「ジャン!」ジェシルは語気を強める。「階段であれだけの仕掛けがしてあったのよ! この扉だって怪しいものだわ!」
「え? あ、そうか……」ジャンセンは慌てて手を引っ込めた。「危なかったよ。……でもさ、この扉の金属って……」
「扉の材質なんてどうでも良いじゃない?」
「いや、そうかも知れないけど……」ジャンセンは言いながら、扉に顔を近付ける。「……それにしても……」
「ジャン! 危ないって言っているじゃない!」ジェシルは言うと、ジャンセンの襟首をつかんで引っ張った。ジャンセンは短い悲鳴を上げて床に座り込んでしまった。「あなた、扉と心中でもしたいの?」
「いや、そんな気はさらさらないけど?」座り込んだジャンセンはジェシルを見上げる。「ただ、この金属って、ぼくの知る限るでは、見た事が無いものの様なんだ」
「どう言う事?」
「歴史的に見て、未知の金属って事かなぁ」
「意味が分からないわ」
「うん、ぼくも分からない……」ジャンセンは立ち上がり、扉を指差す。「この地下室が作られた頃の金属と言えば、ゼラマー鉱かバデスラ鉱だ。この扉はそのどちらでもなさそうなんだ」
「じゃあ、どっか遠い惑星で見つけたものなんじゃなの?」
「惑星間航行は出来ていただろうけど、今みたいに広範囲の航行出来ていたわけじゃない。どっか遠い惑星ってのは、全く持って不可能な話だ」
「ふん!」全否定されたジェシルは面白くなさそうに鼻を鳴らした。「でもさ、この扉の向こうにあなたの目指す物があるんでしょ? だったら、ここでごちゃごちゃ言ってても始まらないわ」
「まあ、そうなんだけどさ……」
「でしょう?」
 ジェシルは言うと、にやりと笑み、熱線銃の銃口を扉に向けた。
「おい、何をするんだよ!」
「こうするのよ!」
 ジェシルは引き金を引いた。銃口から熱線が撃ち出され、右側の扉に当たる。黒色の扉が赤く変色した。
「おい! ジェシル! ちょっと待てよう!」
「待ってたって埒が明かないわ!」
「押したり引いたりしたら開いたかも知れないじゃないかあ!」
「扉に触った途端に串刺しになっても良いわけ?」
「……いや、それは、イヤだ……」
「だったら、黙っていてよね!」
 熱に耐えられなくなった扉は溶け出した。通れるくらいの穴が開いたので、ジェシルは撃つのをやめた。穴から見える室内は暗かった。
「あああ……」ジャンセンが情けない声を出す。「ジェシル、君は歴史と言うものが分かっていないんだなぁ……」
「ふん! 大きなお世話だわ!」ジェシルはむっとする。「それに、わたしはここの持ち主なんだから、どうしようと勝手じゃない!」
「でもさ、こういう歴史的に価値のあるものは……」
「何よ! 通れるだけの穴を開けただけじゃないのよ! 左側はは残っているんだから、後で好きなだけ調べれば良いんだわ!」
 ジェシルは言うと、開けた穴から室内へと入って行った。
「ジャン! 中は真っ暗だわ!」ジェシルの声が響く。「早く入ってきて粘土の照明を点けてちょうだい!」
 ジャンセンは大きなため息をついた。それから、諦めた表情で穴へと向かう。と、ふと思いついたように左側の扉をそっと押してみた。扉は軋みも無くすっと開いた。
「……ひょっとして、罠の仕掛けなんか無くって、軽く押すだけで開いたんじゃないのかなぁ……」
 ジャンセンはつぶやいた。
「ジャン! 何をのろのろしているのよう!」
 ジェシルの怒声にジャンセンは大慌てで穴から室内に入って行った。


つづく

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