お話

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ヒーロー「スペシャルマン」・10

2009年11月15日 | スペシャルマン
 オレは「スペシャルマン」と呼ばれる正義のヒーローだ。常人の及ばない様々な特殊能力を秘めている。この力で悪を倒し続けているのだ。
 さて、ヒーローの条件の一つとして認識されているものに、有能なブレーンの存在と言う事がある。
 大昔のヒーローは、初めて見る敵の機械を前に、「分からないながらも停めてみましょう」などと平気でぬかして、勝手にいい加減に操作し、見事停めてしまう事が出来た。敵の機械が今より遥かに幼稚だったせいもあるが(何でも、昔のテレビは側面をバンバン叩いて画面の乱れを直す事が出来たらしい)、多分に幸運だっただけなのではないのか? 
 今はそう言う、良き時代ではない。
 科学力の進歩はその頃からは想像もできないほどに進んでいる。口惜しいが、科学力に関しては、悪の組織にはかなわないのが現実だ。だから、ヒーローと言えども、うっかり触って、取り返しのつかない結果を招く事の方が多くなっている。
 それに、ヒーローなんて主に肉体が勝負なのだから、そう言う最新鋭の知識に疎くなりがちなのは否定できない。だが、これは格好の悪いものではないと思う。知らないものを知らないと言える勇気も、ヒーローには必要だと思う。オレは堂々と胸を張って言える。どうだ、勇気があるだろう。
 ある休日、翔子の誕生日を祝っている最中に、政府の要人からの呼び出しを受けた。
「スペシャルマン、今日は君に会わせたい人物がいる」要人はオレの唇に付いていたケーキのクリームを持っていたハンカチで拭き取りながら言った。「君の科学力の不足を補うため、特別に君のブレーンを付ける事にした」
「そうですか、それは助かります」
 オレは素直に喜んだ。要人は机の上のインタホンを操作し、入室を命じた。二枚の大きな扉が、観音開きに開いた。しかし誰も入って来ない。しばらくして、姿を現した。それを見てオレは絶句した。
 大きなハゲチャビン頭をしたチビで萎びたじじぃが、だぶだぶの背広姿で、杖を突きながらよろよろと現われやがったからだ。
「ニノ瀬博士だ」要人は抑揚の無い声で紹介する。「博士は、斯界の権威でいらっしゃる。日々進歩をしている敵組織の科学兵器やシステムを分析し、君に適切なアドバイスをして下さる事になっている」
「・・・はあ・・・」
 オレは困惑の表情を隠さなかった。こんなじじぃが斯界の権威だあ? もう棺桶にあらかた身体を突っ込んでいるようなじじぃに、そんな事が出来るのか?
 要人はそんなオレの態度を無視して、じじぃの耳元で大きな声を出した。
「お願い致します、ニノ瀬博士・・・」
「・・・え? あ、ああ・・・」
 じじぃは一分ほど後になってうめいた。どうやら、耳から伝わった音声が脳に届き、理解し、答えを選択し、口から音声として発するまでに、それくらいかかったらしい。
「ま、よろしくお願いします・・・」
 他に言いようのないオレは、じじぃの耳元で大きな声でそうあいさつをした。一分ほど経って、じじぃは「・・・え? あ、ああ・・・」と返事を返してよこした。
「では、博士。早速ですが」要人は大きな声をじじぃの耳元で出した。「お願いしてありました『ブラックシャドウ』の武器である『アーマーメカ』の弱点の分析結果をお聞かせください」
 じじぃは答えなかった。立ったまま死んだのかと思ったが、五分後に「・・・え? あ、ああ・・・」と答えやがった。そしてそのまま沈黙。いい加減しびれを切らした頃、開いていた扉から、はつらつとした中々な男前の若者が入って来た。
「ニノ瀬博士の助手の本宮光二郎と言います」はきはきとした声だ。「私から『アーマーメカ』の弱点の分析結果をお話させていただきます・・・」
 本宮は的確に、分かり易く、時には冗談も交えて説明をしてくれた。オレはすっかり理解する事ができた。説明し終わると、本宮は一礼して立ち去った。
「では、博士。次に、開発をお願いしてありました、スペシャルマンへの武器の説明をお願い致します」
 要人はまたじじぃの耳元で叫んだ。鼾らしい音を立てていたじじぃは、しばらくして「・・・え? あ、ああ・・・」とうめきやがった。すると、さっきの本宮が颯爽とした足取りで入って来た。
「私の方から、ご説明いたします・・・」
 本宮は現物を取り出して見せながら、はきはきと話し始めた(「ブラックシャドウ」に知られてしまうと困るので、詳細は伏せておく)。説明が終わると、また一礼して去って行った。
「あのう・・・」オレは要人に小声で聞いた。「あのじじぃ、さっきから只居るだけの様なんですが・・・」
「スペシャルマン・・・」要人も小声で答えた。「それは分かっている。今我が国で一番優秀な学者は、実はあの本宮君なのだ」
「じゃあ、こんなまだるっこしい事しないで、直接頼めばいいでしょうが!」
「そうは行かんのだ、スペシャルマン」要人は感情を押し殺した声で言った。「どんな世界にも、上下があり、序列がある。本宮君は若い、若すぎる。そんな若造を、斯界の権威を超えて重用するわけには行かんのだよ」
「・・・って事は、この手柄はあのじじぃの物って事になるんですか?」
「そう言う事になるな」要人は冷めた声で言った。「だがな、こんな事はどんな世界にもあるものなのだ」
「不平不満は出て来ないんですか?」
「出て来るさ。しかし、そう言う連中は、自分を充分に活かせる所、権威へ復讐できる所へと去って行く・・・」
「それはどこですか?」
「・・・分かるだろう」要人はオレを見て、にやりとした。「敵方だよ」
 オレはうんざりした。こんな狭い縦社会じゃ、当然文句も出るだろうが、だからって、何も悪に染まる事はないと思うのだが。しかし、その考えで行くと、優秀なヤツらは皆、悪の組織に入っていると言う事になるのか! あの本宮も、ひょっとして、この要人も・・・ 迂闊だった。正義の組織とは、権威ばかりの無能集団と同義語と化したようだ。そんなのを頼ってやってられるかってんだ! 俺の命が幾つあっても足りないぜ! こんなんじゃ、オレが悪のヒーローになってしまうかもしれない。




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