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ヒーロー「スペシャルマン」・17

2022年04月14日 | スペシャルマン
 オレは「スペシャルマン」と呼ばれる正義のヒーローだ。常人の及ばない様々な特殊能力を秘めている。この力で悪を倒し続けているのだ。
 さて、ヒーローの条件の一つとして認識されているものに、ヒーローが持つ、特殊能力と言うのがある。
 垂直の壁を上れるとか、からだがゴムのように伸びるとか、空や海中を何の装置も無く行き来できるとか、他にも色々とあるだろう。しかし、ここで気がつく事がある。それは、特殊能力と言うものは、一ヒーローに一つずつ備わっている、言ってみれば「一芸ヒーロー」だ。一人で幾つもの特殊能力を持つヒーローなんていないだろう?
 では、オレはどうかと言うと、残念ながら、突出した特殊能力は待っていない。どうだ、素直に言えるオレって、正直者だろう?
 とは言え、どの能力も平均よりは高いのだ。自己紹介で「常人の及ばない様々な特殊能力を秘めている」と言っているくらいだ。つまり、ある程度は壁を垂直に上れ、ある程度はゴムのようにからだが伸び、ある程度は何の装置も無く空や海中に行ける。これが出来てあれが出来ないと言う、中途半端なヒーローどもより、はるかに良いとオレは思っている。そうは思わないか? それに、いま世界を脅かしている悪の組織「ブラックシャドウ」には、オレが闘う相手としてはちょうど良いのだ。他のヒーローたちも挑んでいるようだが、オレの足元にも及ばない。「ブラックシャドウ」が平均的に強いからだ。一つだけ突出したヒーローでは弱点を突かれてしまえば、何ともあっけない事となってしまう。はっきり言って、完敗するのだ。ヒーローが悪の組織に負けるなど、決してあってはならないのだ。確かに、オレも幾度かは負けた(どうだ、正直だろう?)。しかし、その度に修練し、次には勝利を収めた(どうだ、偉いだろう?)。
 今日もオレは「ブラックシャドウ」を倒すべく奮闘している。そこへ政府の某要人から連絡があった。
「スペシャルマン、大変な事が起こった」
 大変な事と言いながら、口調はいつもの冷静な事務的なものだった。
「どうしたんですか? オレはこれから闘いに出向くんですけど?」
「実はな、新たな敵が現われたのだ」
「え? どう言う事ですか?」
 某要人が言うのはこうだ。悪の組織である「ブラックシャドウ」とは全く違う、地球を侵略すべく異星人の軍団が現われたと言うのだ。圧倒的な武力と科学力とで、全世界の首脳陣たちに降伏か戦闘による敗北かを迫っているのだそうだ。
「じゃあ、『ブラックシャドウ』はどうするんですか? ヤツらと対等に戦えるのはオレだけですよ!」
「それに関してだが、こちらの方がより喫緊だ。『ブラックシャドウ』で蒙る被害には目をつぶる。大至急そちらに向かってくれたまえ」
 後ろ髪を引かれつつも、オレは新たな敵に向かった。そこには、一芸にのみ秀でた、烏合の衆の様なヒーローたちが集まっていた。オレの足を引っ張るなよと、オレは思っていた。
 闘いが始まった。新たな敵は、どいつもこいつも異様なエイリアンと言った外見だ。建物の壁を這い上るヤツ、ゴムのようにからだを伸ばして絡みついてくるヤツ、海中深く潜るヤツ、音速で空を飛び回るヤツ、そんな変なヤツらばかりだ。
 その時、気がついた。オレは平均よりも全体的に優れているが、一つに特化した敵を倒すのは難しいのだと。逆に、オレが一芸ヒーローと馬鹿にした連中は、その特化した技で、自身が倒せる敵に挑んでいる。弱点は別の連中がカバーしている。結局、オレは、成り行きを見守っているしかできなかった。
 敵はヒーローたちの活躍で降参し退散した。一芸ヒーローどもは互いに協力し合うと言う技を手に入れ、全世界の人気者となった。
 オレはすごすごと戻り、宿敵「ブラックシャドウ」と闘う。
 迂闊だった。平均的なヤツは平均的なものしか相手に出来ないのだ。そのレベルが多少高かったとしても、平均は平均だろう。自分ではかなり出来るヤツだと思っていたのは、実は思い上がりだったと知らされた。なんだか、やっていられないって気分だ。
 こんなんじゃ、オレが悪のヒーローになってしまうかもしれない。

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