お話

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ヒーロー「スペシャルマン」・12

2011年01月03日 | スペシャルマン
 オレは「スペシャルマン」と呼ばれる正義のヒーローだ。常人の及ばない様々な特殊能力を秘めている。この力で悪を倒し続けているのだ。
 さて、ヒーローの条件の一つとして認識されているものに、いついかなる時でも敵の事を考えておかなければならないと言うのがある。
 当然だ。「ではこれからお伺いいたします」なんて言って現われる悪の組織などいるわけが無い。突然、全く思いもかけない所から現われるのが定石だ。
 それに備えているのがヒーローだ。だから普段からハメを外さないように心がけている。これが正義のヒーローの自覚と責任だ。どうだ、真似できないだろう。
 敵である悪の組織「ブラックシャドウ」の出現が効果的なのは、多くの人々が寛いでいたり、楽しんだでいたりしている時だ。幸せの絶頂からいきなり不幸のどん底へと叩き落す。これで人々はすっかり参ってしまい、無力になる。無力になれば、どのようにでも料理できる。オレが悪の組織の大首領なら、必ずそうする。
 だから、この正月と言う時期が、出現の危険度が一番高いはずなのだ。今年一年の幸せを願っている最中に「ブラックシャドウ」が現われて、散々な目に遭ったとしてみろ。それこそ、人々は立ち直れないくらいの衝撃を受け、簡単に征服されてしまう。そうなってしまったならば、さすがのオレでも苦しい。絶望に打ちひしがれた人々は、その辺の粗大ゴミよりも邪魔で厄介な代物なのだから。
 そのようなわけで、オレは年末年始には警戒を強化している。幸い会社は休暇に入るから、オレは公然と「ブラックシャドウ」の出現しそうな、大きな神社(賽銭は入れない、オレは仕事をしているのだ)やデパート(福袋は買わない、オレは仕事をしているのだ)やイベントホール(白組が優勝したようだ。オレはナントカ48を応援していたのだが)などを巡回する。
 恋人の翔子は連れてはいかない。当たり前だ。もし、何かあって巻き添えになったらどうするんだ。オレは愛する者を守る。そのためには危険なところへは連れて行かないことが正しいのだ。どうだ、頭が良いだろう。
 正月も無事に過ぎ、そろそろ明日から会社も始まると言う日、オレはある神社へ向かった。考えてみれば巡回ばかりしていて、初詣をしていなかった事に気がついたからだ。近所の小さな神社だったが、行かないよりはマシだろう。
 一歩境内に踏み入れた途端だった。四人の人影が地の底から湧き上がるように出現した。「ブラックシャドウ四天王」と呼ばれる大幹部達だった。一対一ならば何とか倒せるが、四天王がまとまって現われたとあっては、はっきり言ってオレに勝ち目は無い。残念だが、スペシャルマンの最終回となってしまうだろう。今まで応援してくれて心から感謝している。
 すっかり覚悟を決め、全身の力が抜けてしまったオレを四天王が囲んだ。
「おい、スペシャルマン・・・」
 軍服姿の「ゲル中佐」が気取った声で言った。オレは顔だけ向けた。無駄な抵抗は無駄なのだ。
「お前に言いたい事がある」
 白いスーツにマントを羽織った「死体博士」がかすれた声を出す。それに合わせて、原始人のような皮衣を着た「ドクトルH(ハー)」と、出来損ないのスフィンクスの被り物をした「あの世大使」が一歩俺に近づく。オレは目を閉じた。・・・これで最期か。なぜか翔子の大笑いしている顔が浮かぶ。
「スペシャールマン!」
 変なニュアンスで「ドクトルH」がオレの名を呼ぶ。オレは覚悟と共に目を開けた。
 なんと、四天王が一斉にオレに向かって頭を下げたのだ。
「新年明けましておめでとうございます。今年もどうかよろしくお願いいたします」
 四人は声を揃えて、そう挨拶をしたのだ。オレは呆れ果ててしまった。
「悪の大幹部が、何を暢気な事を言っているんだ・・・」
 やっとの事でオレは言った。四人は途端に大笑いをし始めた。
「新年のめでたい時に、争う馬鹿な礼儀知らずがいると思うのか、スペシャルマン? そんな奴は戦いの好きな単なる野蛮人だぜ!」
 四人は笑い声を残し、地の底へと吸い込まれるようにして消えた。
 迂闊だった。戦いにも礼儀があったのか。それを知らなかったオレは、本当は野蛮人なのか? こんなんじゃ、オレが悪のヒーローになってしまうかもしれない。



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