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霊感少女 さとみ 2  学校七不思議の怪  第一章 北階段の怪 4

2021年10月27日 | 霊感少女 さとみ 2 第一章 北階段の怪
「ここじゃ、ちょっと……」
 朱音が困った顔をして周りを見る。確かに、二年生の教室に一年生がいると言うのは、ちょっと、である。さとみは廊下に出た。不思議なもので、一年生はやはりどこか初々しい。制服がまだ新しさを失っていないからなのか、学校の空気に染まりきっていないからなのかは、分からないけれど。
「……それで?」さとみが偉そうに言う。一年生相手だと、何となく先輩風を吹かしたくなる。「話って言うのは?」
「実はですねぇ……」朱音は意味ありげな笑顔をさとみに向けた。「わたし、知っているんです。さとみ先輩の秘密を……」
「わたしの秘密?」さとみはきょとんとする。「何の事?」
「ま~たまたまたぁ!」朱音がくすくすと笑う。「隠してもダメですよぉ。……ほらぁ、例の……」
「例の……?」さとみは本当に見当が付かない。おでこをぴしゃぴしゃやりだした。「何だろう……」
「先輩……」
「え?」朱音の言葉でさとみの手が止まる。さとみはおでこに手を当てたままで朱音を見る。「なあに?」
「それ……」朱音はさとみの真似をして自分のおでこを叩いてみせる。「止めた方が良いと思います。なんだかおかしくって……」
「あ、そう?」さとみはおでこから手を下ろす。すでにおでこは赤くなっていた。朱音はくすっと笑う。「あ~っ、ひどいわぁ!」
「あ、すみません……」朱音は言うが、まだ口元が笑っている。「それで、先輩の秘密、分かりました?」
「う~ん……」
 さとみは思いを巡らす。さとみよりもやや背が高く、制服の上からでもなかなか発育の良さそうな朱音を見る。……わたしの秘密って? まさか、ちんちくりんで寸胴でぷにぷにでぺちゃパイな所とか? でもこれって秘密でも何でもないし…… じゃあ、駅前のパン屋さんの「さざなみ」のメロンパンが好きだとか? でもあれはみんなが好きだしなぁ…… さとみの手がおでこへと向かう。
「先輩!」朱音が大きな声を出す。さとみが思わずびくんとする。「手、おでこに向かってますよ」
「あ、ああ……」さとみは手を下ろす。「降参よ、わたしの秘密って何?」
「さとみ先輩、本当に分からないんですか……?」
 急に朱音が真顔になった。さとみもつられて真顔になる。
「わたし、知っているんです」そう言うと朱音がすっとさとみに近寄り、耳元で囁いた。「先輩が霊体と話が出来る事……」
「ひえっ!」
 さとみは変な声を上げた。廊下を歩く何人かがさとみを見る。
 さとみは朱音を見る。朱音はにこにこしている。
「……あの、中沢さん……」
 さとみは慌てる。……誰も知らないはずなのに、どうして? 
「あ、わたし、友だちから『かね』って呼ばれているんで、そう呼んでくれて良いです」朱音が言う。笑顔を崩さない。「そんなさとみ先輩にお願いがあるんです」
「ちょっと待ってよう」さとみが言う。「わたしが、その、霊体と話せるなんて、誰から?」
「同じクラスに、栗田しのぶって娘がいるんです。通称は『のぶ』なんですけど、その娘が『さとみ先輩は霊体と話が出来るわ』って言うもんだから……」
「わたし、その娘、知らないけど……」
「のぶは良く知っているみたいですよ」
「ここには居ないの?」
「今日は休んでいます。昨日の体育でバレーボールをやってたんですけど、ボールを顔面で受けちゃって……」
「怪我したの?」
「いえ、格好悪いからって、休んじゃいました」
「何それぇ!」さとみは呆れる。そんな事で一々休んでいたら、さとみは留年してしまう。「変な娘ねぇ」
「はい、わたしもそう思います。でも、そっちの知識は豊富なんです」朱音は『そっち』を強調する。「それで、のぶは分かったって言うんですよ」
「……そうなんだ……」
「それで、先輩、どうなんですか? のぶの言う通りなんでしょ?」
 そこで昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。
「聞こえたでしょ?」さとみは朱音を急かす。「さあ、教室に戻って。わたしも戻るわ」
 さとみはそそくさと教室に入った。
「あ、さとみ先輩……」
 朱音は言うが、さとみは振り向かなかった。


つづく

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