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霊感少女 さとみ 2  学校七不思議の怪  第四章 女子トイレのすすり泣きの怪 30

2022年02月26日 | 霊感少女 さとみ 2 第四章 女子トイレのすすり泣きの怪
「うわっ!」
 そう叫んだのは葉亜富だった。金色のさとみに突き入れた脇差が、何か硬いものに当たったかのように弾かれたのだ。その反動で葉亜富は大きく仰け反った。
「天誅!」
「覚悟!」
 みつと冨美代が同時に声を上げ、刀と薙刀を葉亜富に討ち込んだ。
「うっ……」葉亜富はよろよろと後ずさる。「やりやがったなぁ……」
「卑怯な真似をしたのはお前だろう!」
 みつが刀を正眼に構え直す。
「さとみ様の優しさにつけ入るとは、言語道断! 自業自得と思いませ!」
 冨美代も薙刀を八相に構える。
「おい、もう良いだろう……」流人が言う。声が弱々しい。「葉亜富を許してやってくれ……」
 流人の声に只ならぬものを感じた二人は構えを解いた。
「流人……」葉亜富が流人に振り返る。「……わたし、綺麗なままか?」
「ああ、最高だよ」流人が笑む。「今までで最高に綺麗だ。こりゃあ、世界中の男が誑し込まれるぜ」
「ははは……」葉亜富は力なく笑う。「そりゃ嬉しいや……」
 葉亜富の姿が薄れて行き、霧散した。
「葉亜富……」流人がため息交じりにつぶやく。「……馬鹿なヤツだ。敵わないのは分かっていたはずなのに…… でも、分かるよ……」
「……あの、流人、さん……」さとみが声をかける。流人はさとみを見る。「葉亜富さんには気の毒だったけど、流人さんだけでも、どこかで静かに居て、機会があればあの世へと旅立ってほしい……」
「ほう……」流人が驚いた顔の後に笑む。「……お嬢ちゃんは、本当に優しいんだな」
「わたし、みんなを助けたいの。葉亜富さんは出来なかったけど……」さとみは涙を流す。「でも、どうしてあんなに意地を張ったのかしら?」
「それはね……」流人が言いかけた時、流人の全身を黒い煙のようなものが包みはじめた。「ちっ、やっぱりこうなるか……」
 煙は流人をすっかりと包んだ。しばらくするとそれは消えた。そこには全身を切り刻まれて、着ている物もずたずたにされ、血まみれになった流人が立っていた。特に顔は元が分からないまでにされていた。冨美代は短い悲鳴を上げると顔を伏せ、さとみは思わず顔をそむける。
「ははは、驚かせてしまったね……」流人が言う。笑っているのかもしれないが表情は分からなくなっている。「話しただろう? 危ない組織に捕まったってさ。僕がその組織の親分の奥さんに手を出したからなんだけどさ。ついでに葉亜富まで捕まっちゃってね。酷い殺され方をしたんだよ。それがこの姿ってわけさ」
 霊体は死んだときの格好のままで彷徨う。それが今までは影の力で元の姿になっていたが、今はその力が切れたと言う事なのだろう。
「葉亜富は捕まった後に親分を誑かそうとした。自分だけでも助かりたかったんだろうな。でもね、親分の奥さんが怒ってね。自分は僕に誑かされたってのにさ。で、葉亜富は僕以上にずたずたにされたんだ。僕が言うのもあれだけど、見られたもんじゃなかったよ……」
「それで、綺麗かどうかって気にしてたんだ……」さとみは顔をそむけたままでつぶやく。「なんだか、可哀想ね……」
「まあ、仕方がないさ」流人は言うと、みつを見る。みつだけが顔をそむけずにいたからだ。「……さあ、話は終わりだ。どうにでもしてくれ。こんな姿で彷徨うのは僕の本意じゃないしね……」
 その時、今まで倒れて動かなかった虎之助が呻きながらゆっくりと起き上った。
「……あら? どうなっちゃったの?」事態が全く把握できていない虎之助は、座り込んだまま、ぼうとっした眼差しを周囲に向ける。その眼差しが一点で止まる。「……まあ!」
 眼差しが止まったのは流人の姿にだった。流人が虎之助に振り返る。虎之助は立ち上がった。
「まあ、まあ、まあ!」虎之助は言いながら流人に近づいて行く。そして、すぐ前に立った。「あなた……」
「そうだよ、君を突き飛ばして気を失わせた流人だ」流人は虎之助に向かって正面を向け、両手を広げる。「さあ、好きにしてくれ。君の強烈な蹴りや突きを喰らえば、僕も消えて無くなれるだろうさ」
「流人ちゃん?」虎之助はつぶやくと、いきなり流人に抱きついた。「良い! なんてワイルドなの! ああ、男の中の男って感じだわ! 幾つもの戦場をくぐり抜けていたようなこの悲壮感! 素敵だわあ!」
 抱きつかれた流人は直立した固まった。さとみたちは呆れ顔で虎之助を見ている。
「おいおい……」流人がやっとの事で言う。「恐ろしかったりしないのかい? こんなずたぼろなんだぜ」
「それが良いんじゃない! さっきまでの優男より数倍良いわぁ!」虎之助は言いながら流人に頬擦りをする。「もう敵も味方も無いわ! 素敵よぉぉ!」
 さとみたちは呆れ顔で成り行きを見ている。
「……あの、みつさん……」さとみはみつを見る。「これって……」
「……蓼食う虫も好き好きと言いますから……」
 みつは呆れ顔で答える。
「ねえ、さとみちゃん!」虎之助がさとみを見て言う。腕は流人の首に絡んでいる。「わたし、この流人ちゃんと一緒に居る事にするわ! 竜二ちゃんにはそう伝えてね!」
「え? そんな急に……」
「良いのよ。竜二ちゃん、どうもわたしを嫌っているようだしさ」
「あのさぁ……」抱きつかれている流人が言う。「僕だってオカマは嫌いだよ」
「何を言うのよ! わたしは女だって言ってんじゃないの! からだの事は瑣末な事よ!」
 そう言うと、虎之助は流人を抱きしめた。流人は苦しそうに呻いた。
「じゃあ、さよなら!」
 虎之助は笑顔で言うと、流人と共に消えた。


つづく

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