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霊感少女 さとみ 2  学校七不思議の怪  第三章 窓の手形の怪 4

2021年12月20日 | 霊感少女 さとみ 2 第三章 窓の手形の怪
 昼休み、弁当箱を入れた巾着袋を持ってさとみは席を立った。
「何、さとみ?」麗子が声をかける。「どこかへ行くの?」
「うん、ちょっとね。話を聞きたい人がいて……」
「お弁当持って?」
「うん、話を聞きながら食べようかなって思っているのよ」
「ふ~ん」麗子は開いたばかりの弁当箱に蓋をした。「わたしも行くわ」
「え?」
「どうせ、あれでしょ?」麗子は何気ない風を装って言う。しかし、声が若干震えている。「霊がどうしたこうしたって話でしょ?」
「ええ、まあ、そうだけど……」さとみは戸惑う。「どうしたの? 熱でもあるの? あの『弱虫麗子』が?」
「うるさいわねぇ」麗子がむっとする。「わたしだって心霊サークルのメンバーよ」
「今、心霊サークルって言った?」さとみは目を丸くして麗子を見つめる。「え? あの麗子が? あの弱虫麗子が? 心霊?」
「やかましいわ!」麗子は言いながら弁当箱を小さな手提げの弁当袋に入れて立ち上がる。「さあ、行くわよ!」
「行くって、場所を知っているの?」
「知っているわけないじゃない! さとみって馬鹿なの?」
「何よう、その言い方はぁ!」
「さあ、さっさと行って! 時間が無くなっちゃうわ!」 
 麗子はさとみの背中を押しながら教室を出た。
「で? どこへ行くのよ?」麗子が怒ったように言う。「まさか、学校の外じゃないでしょうね?」
「違うわよ。用務員室の高島さんっておじいちゃんの所」
「用務員室ね。知っているわ」
 麗子が先に進む。……麗子、本当は怖いくせに、無理しちゃって。さとみはくすっと笑う。
 用務員室に来た。中からテレビ番組らしい音が聞こえている。さとみがノックする。高島がドアを開けてくれた。
「おや、ええと、綾部さんだったかな?」高島はさとみを見て言う。それから麗子を見る。「君は?」
「この娘は高瀬川麗子って言います」さとみが紹介する。「一緒にお話が聞きたいそうです」
「ほう……」高島は首辺りで両手をだらりと下げた格好をした。「じゃあ、君も心霊サークルかい?」
「え、ええ」麗子は無理矢理な笑顔を見せる。「わたし、興味がありまして」
 さとみは麗子を見ながらにやにやする。それに気付いた麗子がぎろりと睨み返す。
「そうかい、まあ、入りなさい。いつもはもう二人いるんだけど、二人とも体調不良でお休みなんだ」
「一人じゃ大変ですね」
「いや、やる事もそうないから、大丈夫さ。いざとなったら外注に頼むから」明らかに外注を害虫と勘違いしていそうなさとみたちを見て高島は笑む。「まあ、入りなさい」
「はい、失礼しま~す」
 用務員室は八畳ほどの広さで、入口辺りに一口コンロが置かれた小さな台所があった。会議などで使う脚を折り曲げて積み重ねられる二人掛けのテーブル一つに、向き合うようにして椅子が四脚置かれいる。部屋の奥には三畳の畳を敷いた小上りがあって、そこの設置された小型のテレビからお昼の情報系エンタメ番組が流れていた。
「へぇ~っ。学校でテレビが観れるんだ……」さとみは妙な関心をしている。が、すぐに我に返る。「あ、じゃあ、朝に話したことなんですけど……」
「ああ、三階の手形だったね」高島は言うと、さとみと麗子が手に弁当入れを下げているのに気がついた。「おや、お弁当はまだだったのかい?」
「はい、お話聞きながら食べようかなって思って……」
「そうかい、じゃあ、食べると良い。今、お茶を淹れるから」
「え、そんなお構いなく」
「いやいや、僕が飲みたいんだよ」
「じゃあ、お言葉に甘えて……」
「はっはっは」高島はさとみを見て笑う。「君は若いのに、『お構いなく』とか『お言葉に甘えて』なんて古臭い言葉を知っているんだねぇ」
「それは、亡くなったおばあちゃんが良く言っていたから……」
「そうかい。良いおばあちゃんだったんだねぇ」
 高島は言うとお湯を沸かしに台所に向かった。さとみは自分が褒められたような気分になって鼻歌を歌いながら弁当を広げた。麗子も弁当を広げる。少し食べていると、湯飲みが置かれた。さとみと麗子は礼を言う。さとみは一口飲む。飲み込む直前に鼻腔に緑茶の爽やかな香りが漂った。なんだかほっとする気分だった。……おばあちゃんも、お茶を飲むとほっとするって良く言っていたわ。やっぱり、わたしっておばあちゃん似なのね。さとみは思った。
「……それで、窓の手形なんですけど」
 さとみが唐突に訊く。麗子は飲んでいるお茶を吹き出しそうになった。
「さとみ、何よ、突然に!」麗子はむせそうになったのを何とか抑えて文句を言う。「お弁当も食べ終わっていないのにぃ!」
「だって、それが目的なんだもん」
「だからって……」
「まあま、二人とも、喧嘩はしなでくれよ」高島が笑いながら割って入る。「はっはっは、喧嘩するほど仲が良いなんて言葉もあるけどね」
 さとみと麗子は恥ずかしそうにして黙った。
「……では、話をしようか」
 高島はこほんと軽く咳払いをする。


つづく

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