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霊感少女 さとみ 2  学校七不思議の怪  第三章 窓の手形の怪 5

2021年12月21日 | 霊感少女 さとみ 2 第三章 窓の手形の怪
「この学校の各階に、僕達用務員が使う道具をしまってある小さな部屋があるんだけどね。そうだなぁ、教室の広さの五分の一くらいの細長い部屋なんだけど……」
 高島の話によると、三階の用具置き場の部屋の窓に手形が付いていたのだそうだ。窓は横開きのサッシ窓で二面付いている。
「どんな手形なんですか?」さとみが訊く。「大きくって人の物とは思えない、とか……」
 言いながらさとみはちらちらと麗子を見る。麗子は無表情だったが、内心は逃げ出したいと思っているはずだと、さとみは思っている。それが楽しくて仕方がない。本当に今日は「いじわる少女 さとみ」だった。
「確かに、手の平から指までしっかりとハンコの様に跡が残ってはいたんだが、そんな変なものでは無く、普通の人のサイズだね。僕はその手形に自分の手を重ねてみたから」
「え~っ……」麗子は絞り出すように唸るとイヤな顔をする。「薄気味悪くなかったんですか……?」
「その時はそうは思わなかったなぁ。なんだか重ねてみたくなったんだよね」
「……」
 麗子は黙って下を向いた。……ふっふっふ、麗子、怖いんでしょ? 「弱虫麗子」だもんね。「いじわる少女 さとみ」に拍車がかかる。
「そうそう、その手形、サイズは変わっていなかったんだけど、別の意味で変わっていたな」
「どんな風にですか?」さとみは麗子を見ながら訊く。「手形でなんかの『恨めしや』って文字を作っているとか?」
 麗子が肩をびくんとさせる。さとみは楽しくてたまらない。
「文字は作ってはいなかった。でもね……」高島は一呼吸おいて続けた。「窓の内側と外側に付いているんだよ」
「え?」
 さとみは驚いた顔を高島に向けた。
「内側のはやや小さくて、外側のは大きいんだ」高島は言ってさとみの手を見る。「そうだなあ、内側は君の様な女性の手、外側は僕の様な男性の手って感じかな」
「手形はべたべたと付いているんですか?」
「それがね、面白と言うか不思議と言うか、両方が重なっているんだよ。まるで、両側から手を合わせているかのようにね」
「そうなんですか……」さとみはおでこをぴしゃぴしゃと叩き始めた。「どう言う事だろう……」
「さとみ、そんな事も分かんないの?」
 突然、麗子が言い出した。さとみは驚いて麗子を見る。麗子は目に涙を浮かべていた。
「どうしたの麗子? 怖すぎて泣いちゃったの?」
「さとみ、あなたって馬鹿なの?」麗子は言う。「手形の意味が分かんないの?」
「何よう! じゃあ、麗子は分かるって言うの?」
「わたしじゃなくったって、分かる事だわ! さとみが疎すぎるのよ!」
「何を言っているのか分かんないわよう!」
「ふん、『お子ちゃま少女 さとみ』には、永遠に分からないわ」麗子は勝ち誇ったように言う。「これはね、アイよ。アイだわ!」
「どうしてアイが出て来るのよう!」
「アイじゃなくって、愛、愛情の方よ」
「……さっぱり分かんない……」
「良い事? 窓の内側は小さい、つまりは女性の手。外は大きいから男性の手。それが窓越しに重なり合うなんて、お互いを想っているって言う愛の証しよ」麗子は言う。「でもね、窓が邪魔して直接に触れ合えないのよ。姿は見えているのに、手が届かないのよ。こんな悲しい事ってあると思う? 二人の心を想うと、泣けてきちゃうわ!」
 そう言うと、麗子は涙をぽろりと流した。さとみは呆れる。
「でもさ、これは霊の話よ?」
「さとみ、あなた霊が見えるって言う話だけどさ……」麗子はさとみを睨む。「霊って愛し合っちゃいけないの?」
「いや、そんな事はないけど……」さとみは竜二と虎之助を思い出す。「色々ありそうだけど……」
「きっと、この二人は生きている時からずっと仲が良かったのよ。きっと結婚していたのよ。それで、お互いが亡くなって、霊として再び出会えた。それが、何かのせいで窓の内側と外側に隔てられちゃったのよ! さとみ、何とかしてあげてよ!」
「そんな事言われたって、本当にそうかどうかなんて分からないし……」
「じゃあ、調べりゃ良いじゃない?」麗子は高島を見る。「手形って毎日窓に付くんですか?」
「そうだねぇ。一週間前くらいからかねぇ。校長先生や教頭先生に話したんだが、実害が無いうちは清掃をしておくだけにして、様子を見ようと言う事になったんだ」
 ……井村先生が言っていた通り、学校側の態度ってこう言う感じなのね。さとみは思った。
「今日もですか?」
「ああ、三階の窓拭きは最近の朝の日課だよ」
「聞いた、さとみ?」麗子はさとみに振り返る。「明日、高島さんと一緒に行って調査しなくちゃね」
「……麗子、あなた、怖くないの?」さとみはまくし立てる麗子を見て言う。「いつもの『弱虫麗子』は、どこへ行っちゃったの?」
「何を馬鹿な事言ってんのよ! 愛はね、全てを凌駕するのよ!」麗子は強い口調で言う。「分かったら、明日、ちゃんと調べるのよ!」
「分かったわよ……」さとみはため息をつく。「……と言う訳で、高島さん、明日朝またこちらへ寄りますから、お願いできますか?」
「ああ、良いよ」高島はうなずく。「もし本当なら、何とかしてやりたいね」
「そうですね」さとみもうなずく。それから麗子を見る。「麗子、あなた『弱虫麗子』を返上ね」
「え? 何を言ってんの? そんな恐ろしい現場なんか見られるわけないじゃない。あなた一人で行くのよ」
 麗子は当然と言った顔でさとみに言う。 


つづく

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