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霊感少女 さとみ 2  学校七不思議の怪  第三章 窓の手形の怪 26

2022年01月11日 | 霊感少女 さとみ 2 第三章 窓の手形の怪
「……さてっと、わたしは帰るわ」百合恵は職員専用出口でハイヒールに履き返ると、大きく伸びをした。「ちょっと寝不足だから、帰って寝るわ。美容のためにもね。さとみちゃんも一緒に来る?」
「何言ってんですか!」さとみは呆れたように言う。「わたしたちはこれから授業がありますから、このまま残ります!」
「ほほほ、分かっているわよ。からかっただけよ」
「もうっ!」
「あら、もうっは牛よ」百合恵は笑う。それから松原先生に顔を向ける。「今夜はダメと言う事ですけど、明日の夜は、どうでしょうか?」
「明日なら、大丈夫ですよ」松原先生はどんと自分の胸を叩いて見せた。「と言う事で、我が心霊サークル『百合恵会』の深夜活動は明日と言う事にします。みんな、良いかな?」
 アイと朱音としのぶは「へ~い」と、気の無い返事を返す。松原先生は満足そうにうなずく。
「じゃあ、段取りは北階段の時と同じって事で。深夜十二時ごろ校門で。、ボクが中沢と栗田をボクの車に乗せますんで、百合恵さんは綾部と……」
「あ、わたしたちなら大丈夫。麗子と一緒に来るから」アイが答える。「な? 良いだろ、麗子?」
 麗子は憮然とした表情のまま小さくうなずく。
 皆は解散し(当然、アイと朱音としのぶは百合恵に対して「百合恵姐さん! ありがとうございましたぁぁぁ!」と大きな声で挨拶し、上半身を直角に曲げる)、松原先生は数学準備室に、さとみたちはそれぞれの教室へと向かう。ぼちぼち、生徒たちも登校して来ていた。
 同じ教室のさとみと麗子は並んで歩く。不意に麗子が立ち止る。さとみは気がつかないのか、とことこと歩いている。
「さとみ!」麗子が先を歩くさとみに声をかける。語気が強い。「ちょっと待ちなさいよ!」
「は?」さとみは振り返る。麗子はむっとした顔をしている。「どうしたの? 何怒ってんの?」
「さとみ、あなた、わたしに言いたい事があるんでしょ? いいわよ、言いなさいよ!」
「え?」
「な~にを知らばっくれてんのよ! 言いなさいよ! わたし、用具室へ入れなかったんだからさ!」
「そうだっけ?」
「そうやって知らないって振りするのやめてよね! ずっと思ってんでしょ? さっきからずっと黙っちゃってさ! 言いたきゃ言えば良いのよ!」
「う~ん……」さとみはおでこっぴしゃぴしゃする。その手が止まる。「……ごめん、何の事?」
「あ~あ、白々しい! はっきり言えば良いのよ! 『弱虫麗子』ってさ!」
「ああ……」さとみは今気がついたと言う顔をする。「すっかり忘れていた」
「ふざけないで! 本当はずっと思っていて、わたしの事を小馬鹿にしていたんでしょ?」
「いや、本当に、すっかり忘れていたわ」さとみはじっと麗子を見つめる。「今、それどころじゃないの……」
「……」さとみの表情から察した麗子は青褪める。しかし、麗子は努めて平静を装って言う。「ふ、ふ~うん…… それは大変ね。さとみの考えの邪魔しちゃいけないから、先に教室に行っているわね」
 麗子は言うと、小走りに教室へと向かって行く。さとみはその後ろ姿を見ていた。麗子をからかう気にもなれない。頭の中がみつを助け出す事でいっぱいだからだ。
 ……百合恵さんは、学校のどこかに潜んでいるだろうって言っていたけど。さとみはてこてこと歩きながら考えを巡らせる。……どこでも潜んでいられそうで、いられなさそうな気がする。こっそりと学校から抜け出てしまってはいないだろうか。あの黒い影の強力な力があれば、何でも出来そうだし。ふと足を止める。……明日みつさんを助けるって言っても、豆蔵たちは学校に入れないのよね。と言う事は、わたしと百合恵さんとだけで頑張るわけ? ミツルって、剣とか空手とか使うんでしょ? そんな凄いのを相手に勝てる? 百合恵さんは強いけど、生身じゃない? だとしたら、ミツルに直接手出しするのは難しい。じゃあ、何? わたしが相手するの? その、ミツルって霊と?
「ひえええっっ!」
 さとみは変な声を上げた。登校してきた生徒たちが驚いてさとみを見る。しかし、さとみはそれに気づかない。
 ……でも、それでも、みつさんを助けなきゃ! わたしの大切な仲間なんだから! さとみは決意を新たにする。
「ようっしゃああああっ!」
 さとみは雄叫ぶ。周りの生徒たちが更に驚く。さとみはとてとてと小走りしながら教室へと向かった。 


つづく

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