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コーイチ物語 3 「秘密の物差し」 61

2020年06月10日 | コーイチ物語 3(全222話完結)
「嘘ね! 嘘つきね!」
 アツコはコーイチの言葉を否定する。……こんな呑気な顔をしていて、とんでもない嘘つきだわ! アツコはじっとコーイチをにらみ付けた。
「あなたは自分の身を守りたくて、そんな事を言っているんだわ!」
「え?」コーイチは驚く。しかし、すぐに考え込んでしまう。「う~ん…… そうかあ…… そう思われちゃったか……」
 考え込んでしまったコーイチは、じっと床を見つめて動かなくなった。
「何考えてんのよ!」
 しびれを切らしたアツコが怒鳴った。我に返ったコーイチはぼうっとした顔を上げて、アツコをじっと見つめ、話し始める。
「そうですね。ボクが嘘をついているって言う、その考え方は決して間違ってはいませんね。ボクも必死にしゃべりすぎて、胡散臭く思われちゃったのかもしれませんね。でも、しかし、これは事実なんですよね。例えて言うと、東から太陽が昇るように、トマトは赤く、バナナは黄色く、ピーマンは緑色であるように、水は高い所から低い所へ流れるように、後は、ええと、ええと……」
「もう良いわ!」
 アツコがコーイチを遮る。うんざりした表情をしている。コーイチは戸惑っている。
「あの…… 分かってくれました?」
「何をよ!」
「いや、そう怒られても……」コーイチは困った顔をする。「とにかくですね、何度も言いますけどね、ボクはタイムマシンには一切関わりの無い、単なるコーイチなんですよ。歴史的にはどうなっているのかは分かりませんけどね。真実とはこう言うものですよ。ですからね、ボクなんかに手間をかける理由はないんですよ」
「でも、それが本当かどうかは分かんないじゃない!」アツコはぷりぷりしながら言う。「単なるコーイチなんて、あなたの作り話かもって可能性はまだ消えていないわ。知っているのに知らんぷりする方が、知らないのに知ったふりするより簡単でしょ?」
「そうかもしれませんけどね、ボクにはそんな演技ができる才能はありませんよ。小学校の学芸会で道端の石の役ですら下手で交代させられたんですから、演技の下手さは折り紙つきですよ」
「何を変な自慢してんのよ! そんな事で胸を張るなんて……」アツコは呆れてしまった。「……あなた、本当に何にも知らない、単なるコーイチなの?」
「さっきからそう言っているじゃないですか!」さすがにコーイチもむっとし始めた。「人って、一度こうと思いこむと、別の意見に耳を傾けなくなりますけどね、その若さで、そんなに頑固に周りを否定して、自分が正しいなんて思うのはどうかと思いますね。それとも、未来の人って言うのは、みんなそんなタイプなんですか? 未来を描いた映画や小説では、機械文明が発達して便利になって、過去の人より利口になったって思っていて、過去の人と会うと、ついつい自分の方が偉いとか優秀だとか思うんだけど、実際はマッチが無けりゃ火も起こせない無能だって言う話があったりするんですけどね。君もそんなタイプですね。間違いを素直に認めるっていうのは、人として本当に大切な事じゃないですか? 君はまだ若いしね。心を入れ替えるには遅くはないですよ」
「大きなお世話よ! それに何よ、大の男がぺらぺらぺらぺら、おしゃべりにも程があるわ!」
「あのね、ボクは基本おしゃべりなんかじゃないんだよ」コーイチは言い返す。ついに言葉遣いに気を回せなくなった。「ボクの状況を理解してほしいから、一生懸命話しているんじゃないか。それをおしゃべりだなんて、ひどいことを言うもんだね。それとさ、こうやって人を連れ去るって言うのはどうなんだい? どう言うつもりでこんな事をするんだい? ボクには理由は分からないけれど、単なる楽しみとか娯楽とか、そんなつもりでやっているんなら、未来人の奢りとか、タイムマシンを所持している事での優越性の誇示とか、決して良い事ではないよね? もしそうなら、君やその仲間たちは間違っていると思う」
「偉そうな事言わないでよ!」
「じゃあ、どうしてこんな事をするんだい? 他にもこんな事やっているのかい?」
「関係ないじゃない!」
「あるよ! ボクはここにこうして連れ去られたんだよ? しかも、勘違いだって言うボクの話も聞かないでさ」
「でも、まだ証明できていないわ! あなたが嘘をついていないって証明できていないじゃない!」
「じゃあさ、ボクが本当にタイムマシンに関わる伝説のコーイチだって証明できるのかい?」
「歴史がそう言っているわ!」
「だから、その歴史が間違っているって事は考えないのかい?」
「そこまで言うんなら、間違っているって証明してよ!」
「何言ってんだよ! それは、そっちが証明することじゃないかあ!」
 平行線は続いて行く。


つづく

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