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霊感少女 さとみ 2  学校七不思議の怪  第二章 骸骨標本の怪 17

2021年12月07日 | 霊感少女 さとみ 2 第二章 骸骨標本の怪
「ふざけた事をぬかすな!」しゃれこうべの下顎が激しく鳴る。「どう見てもお前はあの時の小娘だ!」
「あのさあ……」さとみはうんざりした顔をする。「あなた、封じられて長い年月が経ったって言っていたじゃない? 霊は齢を取らないだろうけど、生身って齢を取るものよ。長い年月が経ったんなら、小娘でいられるわけないじゃない?」
「あの時、オレは小娘と思い油断した…… まさか封じられるとは思わなかった……」
「……ダメだわ、全く話を聞いていない……」
 さとみは困惑する。しゃれこうべの鬼火の瞳が揺れる。
「簡単に殺せるだろうと思っていた。だが、封されてしまった。小娘のくせに強力だった…… 恨んだ。呪った……」
「自分が悪いとは思わないの?」
「ふざけやがって。何も見えず聞こえず、暗い中にずっと居た。憎しみだけがオレの支えだった……」
「やっぱり、話を聞いてくれない……」
「封が解かれた今、お前を滅してやる!」
「だから!」さとみは声を荒げる。さすがにしゃれこうべもぎょっとしたようだ。「わたしは、お婆ちゃん、綾部冨じゃないのよう!」
 しゃれこうべは無言でさとみの周りを飛び交った。その間中、下顎がかたかたと音を立てていた。……うるさいなぁ。さとみはそう思い、ぷっと頬を膨らませる。しばらくして、しゃれこうべはさとみの正面に戻った。
「……確かに富ではない」
「分かってくれた?」
「では、お前は何だ?」しゃれこうべが言う。「お前からは富と同じ気が感じられる……」
「それはね、さっきも言ったけど、あなたの言っているのは、わたしの、お婆ちゃんなのよ」さとみは噛んで含めるように区切りながら言う。「わたし、孫なのよ。お婆ちゃんも、わたしみたいに、霊と話が出来たの。だから似ているわ。それで、あなたは勘違いしているのよ」
「富は何処だ……?」
「お婆ちゃん、もう亡くなったわ」さとみが少し悲しそうに言う。「優しくって、わたしに霊について色々と教えてくれたわ」
「富は何処だと聞いている!」
「あなた、人の話はちゃんと聞くものよ。お婆ちゃんはね、もう亡くなっているのよ!」
「死んだだとぉ……?」
「そうなのよ。あなたが封じられている間に、時代も世代も変わっちゃったのよ」
「じゃあ、オレは……」
「もう恨んだり呪ったりする相手はいないって事よ」
「じゃあ、オレの、この恨みは、呪いは、どうすれば良いんだ?」
「忘れる事よ。もう相手が居ないんだもの。今なら、まだ清くなれそうよ。色々あっただろうけどさ、もう良いんじゃない?」
「もう、富は、小娘は、居ない……」
「そうよ」
 さとみの説得に、しゃれこうべの瞳の揺れが収まって来る。濃かった闇が少し薄れてきたようだ。 
「……あなた、封されたって言っていたけど、どこに封じられていたの?」
「大きな石があって、その中だ。封じられた時はそこいらに転がっていた石だったが、封が解けた時には、なんだか高い場所にあった」
「……正門の所の大石ね」
 さとみはつぶやく。学校を建てる時に、敷地に在った立派な石の幾つかを記念にと正門の所に見栄え良く並べたと聞いた事があった。その中の一番上にでも並べられていたのだろうか。
「封って事は、お札か何か?」
「そうだ。屈辱だった。あんな小娘に……」
「でさ」さとみは慌てた様に言う。しゃれこうべの鬼火の瞳が揺れ、下顎がかたかた鳴り出したからだ。また怒りに燃えだしたら面倒だ。「誰が封を解いたの?」
「それは分からん……」
「そう…… まあ、それは良いわ」さとみは軽く咳払いをする。「でもね、今言った様に、恨む相手はもういないの。だから、もうあの世に行かないと……」
「……そう言えば、あの小娘も、そんな事を言っていたな。もうあの世へ行けとな……」
「そうよ、それが良いのよ。特に、あなたのような強い霊は、清くなれば清い方へ強くなれるわ。邪悪さじゃなくって清さで強くなるのよ」
「清さで、か……」
 しゃれこうべの雰囲気が穏やかになって来た。骸骨標本を操っている霊自体が少しずつ浄化しているようだった。
 と、そこへ、さとみの背後から強い風が吹き抜けた。あまりの強さにさとみはよろめいた。何とか踏み止まって顔を上げる。
「うわっ!」
 さとみは小さく悲鳴を上げて、今度は数歩下がった。
 しゃれこうべの脇に、北階段で見た黒い影が見えたからだ。
「……小娘……」しゃれこうべが低くつぶやく。眼窩の青白い光が強まり、中の赤い鬼火の瞳が大きくなった。さとみはその瞳を見つめている。「オレを封じやがった、許さん。許さんぞぉぉぉ……!」
 みつを押さえつけている腕が、百合恵を踏みつけている脚が、散り散りになっていた他の部分が、宙を舞い、しゃれこうべの下に形を成して行った。骸骨となったからだは不気味に白く光り始めた。
「許さん…… 殺してやる……」
 骸骨はさとみに向かって両腕を伸ばし、歩み寄る。さとみは魅入られたように動かない。 


つづく

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