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ジェシル、ボディガードになる 83

2021年04月08日 | ジェシル、ボディガードになる(全175話完結)
 ジェシルがサンドイッチを食べきると、ノラは他の部屋にユニホームを配るために、ワゴンを押しながら出て行った。
 一人になったジェシルはシャーを浴び、それから、物凄くイヤな顔をしながら、大会用のユニホーム(と言えるかどうかは疑問だが)を着てみた。意外と厚手の生地だった。「しっかりした生地なので防護性も高い」とのノラの言葉を思い出す。……嘘じゃなさそうね。ごわごわした感じも無い。右脚を蹴り出してみた。風を切る音がしんとした室内に響く。続いて両拳を交互に撃ち出してみる。先ず右。これも風を切る。次に左。利き腕の右に負けずに風を切る。からだを低くし、それから思いきり跳躍する。高い天井に背中が当たった。……うん! 動きに支障はないし、何よりも動きやすいわ。ジェシルは笑みかけ、慌てて真顔を作る。ジョウンズが癪だったからだ。姿見の前に立ってみる。ピンク色なのが不満だが、それ以外は我慢できそうだ。
 姿見に映るラインネックレスに手をやる。オーランド・ゼムがくれた紫色のパレイリウム鉱で出来たものだ。……ハービィはちゃんとわたしの位置を把握してくれているかしらねぇ。ジェシルは今一つ頼りがいの無さそうな、油切れのような音を立てているハービィを思い出し、くすりと笑う。
 ジェシルは午後をそのユニホームを着て過ごした。着心地も良かったし、少しでもからだに馴染ませる必要もあったし、何より、何日も同じ下着をつけているのが良い気分ではなかったからだ。
「……まあ、良いわ」ジェシルはベッドに転がる。「今日はこれ以上の事は出来そうもないわね。後はのんびりとさせてもらいましょう……」
 いつしかジェシルは眠ってしまった。

 ドアのノックで起こされた。ジェシルは寝ぼけた顔のまま半身を起き上がらせる。ぼりぼりと頭を掻く。首を左右に傾ける。両腕を大きく上げて、大きなあくびをする。次第に意識がはっきりしてきた。その間もドアはノックされ続けていた。ジェシルはだらだらとベッドから降りてドアへ向かう。ノックの音から相手がノラだと知れた。
「……ノラ? どうしたの?」
「あっ、ジェシルさん! 開けて下さい!」
「何? 何があったの?」ノラの声の必死さに苦笑しながら、ドアロックを外す。「良いわよ、入って」
 ノラが入ってきた。ジェシルの大会用のユニホームを姿を見てうなずいている。
「良かったです! それを着てくれていて!」
 ……下着姿の時は真っ赤になって下を向くのに、この格好だと平気なのねぇ。ジェシルにはノラの判断の基準が分からなかった。
「これ? 色は最悪だけど、着心地や動きやすさはまあまあね」ジェシルは答える。「それで? わざわざそれを言いに来たのかしら?」
「そうじゃありません! 行きましょう!」
「行くって…… どこへ?」
「ああ、やっぱりアナウンスを聞いていなかったんですね!」
「アナウンス……?}
「一時間ほど前に宿舎エリアの全室にアナウンスが流れたんですけど……」
「さあ、知らないわ。寝ていたから」
「ジェシルさん……」ノラは呆れ顔で言う。「寝るのが好きなんですねぇ」
「あら、ひどい事を言うわねぇ」ジェシルは言うが、顔は笑っている。「でも当たっているかもね。宇宙パトロールなんて一日中、いえ、一年中休み無しみたいなものよ。ここにこうしているのって、わたしには休暇みたいなものだわ。ついついからだがおやすみモードになっちゃうのよねぇ」
「明日からの試合には緊張しないんですか?」
「緊張しても仕方ないじゃない? 試合って、その時になってみなきゃ分からない事もあるんだし」
「そうですか……」ノラは言ってから、はっとする。「いえ、そうじゃないんです! 一緒に来てください! わたし、呼びに来たんです!」
「事情がさっぱり分からないんだけど?」
「ジョウンズさんが、明日の大会のために前夜祭を催す事にしたんです。出場者全員が大会会場に集まっています」
「何それぇ? 面倒くさいわねぇ」ジェシルはうんざりした表情をした。「わたし、パスするわ」
「ダメですよう!」ノラはジェシルの腕をつかむ。「ジェシルさんだけ居ないんで、呼んで来るようにって、ジョウンズさん直々に言われて来たんですから!」
「分かった、分かったわ……」ジェシルはノラの必死な様子に負けた。「じゃあ、着替えるから、ちょっと待って……」
「いえ、その恰好のままで良いんです。出場者の皆さん全員、そのユニホーム姿です」
「あらまあ……」ジェシルは呆れる。「でも、こんな格好でうろつくのはイヤだわ。せめてパトロールの制服だけでも着て行くわね。向こうで脱げば良いでしょ?」
「……ええ、そう言う事なら、良いんじゃないでしょうか……」ノラはしぶしぶと言う。「とにかく早く行きましょう! それに、会場には食事も用意されるそうです」
「あら!」ジェシルが言うと、腹がぐうと鳴った。「イヤだわぁ、寝てばかりいるのに、お腹だけは空くんだから……」
 ジェシルはノラにせかされながら宇宙パトロールの制服を着ると部屋を出た。


つづく

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