「会長!」
そう言って一番にさとみに前に立ったのはアイだった。さとみを見ながら目に涙を浮かべる。
「会長…… 昨日はすみませんでしたぁ!」アイは言うと上体を九十度に折り曲げてさとみに深々と頭を下げた。「結局は、会長や姐さんに助けてもらっちゃって……」
「そんな……」さとみは戸惑う。アイの瞳から落ちる涙が屋上のコンクリート床に二つの染みを作る。「でもね、アイのおかげで難を逃れることが出来たのよ」
「……え?」アイが顔を上げる。溢れた涙が頬を伝う。「でも、会長、わたしは何もしていません。むしろ、最初にぶっ飛ばされて気を失っていました……」
「いいえ、十分な助けになったのよ」
「……そう、なんですか……」アイは怪訝な顔をしている。「……まったく覚えていないんですけど……」
「アイ先輩、凄いじゃないですかあ!」しのぶがアイの左腕にしがみついてきた。「覚えていなくっても、会長の助けになるなんて!」
「……そうなのか?」
「そうですよ!」
「そうか」
「はい!」
良く分からない遣り取りだったが、アイに笑みが戻った。右手で涙を拭う。朱音は何故か感動したらしく涙ぐんでいる。
「……それで、何しに来たのよ?」麗子は怒ったような声でさとみに言う。弱虫麗子と言われてむっとしているのだ。「今日は休むんじゃなかったの?」
「そのつもりだったんだけど、ちょっと気になる事があって」
「気になる事?」麗子は少し青褪め、一歩下がる。本能的に自分にはイヤな話だと悟ったらしい。「今話していた骸骨の事?」
「正解!」さとみは明るく答える。麗子がイヤそうな顔をするのが楽しくてしょうがない。「昨日の感じだと、骸骨を操っていた権左って言う霊を封じていたお札が剥がされたみたいなのよね。その辺の事を、生物の井村先生に訊いてみようかなって思ったの」
「え? 会長、それって何の話ですか?」朱音が割り込んできた。「そこの所、詳しく!」
しのぶとアイもさとみを囲む。しのぶはまだアイの腕にしがみついている。
麗子は離れてフェンス越しに周りの景色を見ている。それでも「権左を操る霊が」とか「黒い影が」とか言う不穏な言葉が聞こえてくる。逃げ出したい麗子だったが、そんな事をしようものなら「弱虫麗子」とさとみに馬鹿にされてしまう。さとみに馬鹿にされるくらいなら、イヤな話でも聞いていた方が良い。実際、さとみの小馬鹿にしたような視線をびりびりと背中で感じている麗子だった。振り返ると、やはり、さとみがにやにやしてた。
「ねえ、さとみ」麗子はフェンスから離れてさとみの所に行く。「それで、井村先生にこれから訊きに行くつもりなの? 昼休み終わっちゃうけど?」
「どうしたんだ、麗子?」アイが驚く。「何怒ってんだ?」
「別に……」
「あっ、わたしがアイ先輩にしがみついているからですか?」しのぶは言って慌てて手を離す。「すみません……」
「それは関係ないわよ、しのぶちゃん」麗子は笑顔をしのぶに向ける。「ただ、さとみがね……」
「わたしのせい?」さとみがわざとらしくきょとんとした顔をする。「ま、いいわ。これからじゃ無理だから、午後の授業が終わってからね。……そこで、しのぶちゃんに井村先生と放課後に会えるように話をしておいてほしいんだけど……」
「分かりました」しのぶはあっさりと言う。「午後一が生物だから、話しておきます」
「放課後、迎えに行きます」朱音が言う。「麗子先輩も一緒に行きましょうね」
「えっ?」麗子はちらとさとみを見る。さとみの唇が動く。麗子は一瞬むっとした顔をするが、すぐに笑顔になって朱音を見る。「分かったわ。さとみと待っているわ」
つづく
そう言って一番にさとみに前に立ったのはアイだった。さとみを見ながら目に涙を浮かべる。
「会長…… 昨日はすみませんでしたぁ!」アイは言うと上体を九十度に折り曲げてさとみに深々と頭を下げた。「結局は、会長や姐さんに助けてもらっちゃって……」
「そんな……」さとみは戸惑う。アイの瞳から落ちる涙が屋上のコンクリート床に二つの染みを作る。「でもね、アイのおかげで難を逃れることが出来たのよ」
「……え?」アイが顔を上げる。溢れた涙が頬を伝う。「でも、会長、わたしは何もしていません。むしろ、最初にぶっ飛ばされて気を失っていました……」
「いいえ、十分な助けになったのよ」
「……そう、なんですか……」アイは怪訝な顔をしている。「……まったく覚えていないんですけど……」
「アイ先輩、凄いじゃないですかあ!」しのぶがアイの左腕にしがみついてきた。「覚えていなくっても、会長の助けになるなんて!」
「……そうなのか?」
「そうですよ!」
「そうか」
「はい!」
良く分からない遣り取りだったが、アイに笑みが戻った。右手で涙を拭う。朱音は何故か感動したらしく涙ぐんでいる。
「……それで、何しに来たのよ?」麗子は怒ったような声でさとみに言う。弱虫麗子と言われてむっとしているのだ。「今日は休むんじゃなかったの?」
「そのつもりだったんだけど、ちょっと気になる事があって」
「気になる事?」麗子は少し青褪め、一歩下がる。本能的に自分にはイヤな話だと悟ったらしい。「今話していた骸骨の事?」
「正解!」さとみは明るく答える。麗子がイヤそうな顔をするのが楽しくてしょうがない。「昨日の感じだと、骸骨を操っていた権左って言う霊を封じていたお札が剥がされたみたいなのよね。その辺の事を、生物の井村先生に訊いてみようかなって思ったの」
「え? 会長、それって何の話ですか?」朱音が割り込んできた。「そこの所、詳しく!」
しのぶとアイもさとみを囲む。しのぶはまだアイの腕にしがみついている。
麗子は離れてフェンス越しに周りの景色を見ている。それでも「権左を操る霊が」とか「黒い影が」とか言う不穏な言葉が聞こえてくる。逃げ出したい麗子だったが、そんな事をしようものなら「弱虫麗子」とさとみに馬鹿にされてしまう。さとみに馬鹿にされるくらいなら、イヤな話でも聞いていた方が良い。実際、さとみの小馬鹿にしたような視線をびりびりと背中で感じている麗子だった。振り返ると、やはり、さとみがにやにやしてた。
「ねえ、さとみ」麗子はフェンスから離れてさとみの所に行く。「それで、井村先生にこれから訊きに行くつもりなの? 昼休み終わっちゃうけど?」
「どうしたんだ、麗子?」アイが驚く。「何怒ってんだ?」
「別に……」
「あっ、わたしがアイ先輩にしがみついているからですか?」しのぶは言って慌てて手を離す。「すみません……」
「それは関係ないわよ、しのぶちゃん」麗子は笑顔をしのぶに向ける。「ただ、さとみがね……」
「わたしのせい?」さとみがわざとらしくきょとんとした顔をする。「ま、いいわ。これからじゃ無理だから、午後の授業が終わってからね。……そこで、しのぶちゃんに井村先生と放課後に会えるように話をしておいてほしいんだけど……」
「分かりました」しのぶはあっさりと言う。「午後一が生物だから、話しておきます」
「放課後、迎えに行きます」朱音が言う。「麗子先輩も一緒に行きましょうね」
「えっ?」麗子はちらとさとみを見る。さとみの唇が動く。麗子は一瞬むっとした顔をするが、すぐに笑顔になって朱音を見る。「分かったわ。さとみと待っているわ」
つづく
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます