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霊感少女 さとみ 2  学校七不思議の怪  第二章 骸骨標本の怪 25

2021年12月15日 | 霊感少女 さとみ 2 第二章 骸骨標本の怪
「……それじゃあ、行きましょう」しのぶが言う。「井村先生には放課後すぐに行くって言ってあるんです。せっかちな先生でもあるんで、遅れると中止になっちゃうかもしれません」
「うわぁ! じゃあ、急ぎましょう!」
 ぽっちゃりめのしのぶと、とことこ走りのさとみは、全力で急いで(これは本人たちの意識の問題だ。傍で見ているとちょっとだけ急ぎ足に見えるだけだった)理科の準備室へと言った。息を切らしながら、しのぶはドアのノックし「失礼…… しますぅ……」と息も絶え絶えに言ってドアを開けた。井村先生はいなかった。
「……井村先生はどちらに?」
「第一理科室に行くって言って出て行った」年配の物理担当の男の先生が言った。「待っていた生徒が来ないから、用事を済ませて来るって言ってね」
「第一理科室、ですか」しのぶはつぶやく。「もう少し、待っていてくれてもよさそうなのに」
「本当にせっかちなんだ……」さとみがうんざりしたように言う。「とにかく、第一理科室へ行きましょう」
 二人は全力で急いだ(傍目では、やはりちょっとした急ぎ足にしか見えなかったが)。
 理科室の出入り口は開いていた。
「失礼、しま~す……」
 しのぶがやっとの事で言う。同じような状態のさとみが続く。
 白衣を着たひょろっと背の高い後ろ姿が見えた。肩まである髪の毛の右側が膨らんでいる。両手を腰に当てたまま窓を見ていた。
「……あの、井村先生……」しのぶが声をかける。「理科準備室でこっちにいるって聞いたんで……」
「ねぇ、どう思う?」井村先生は背中を向けたままで言う。その声はちょっと高めだ。「窓が開いたのよ」
「先生、先輩のさとみ会長が話があるんです」しのぶは井村先生の質問を無視して話す。「骸骨標本についてですけど」
「窓が開いていたのに、警備会社には連絡が無かったのよ? 故障でもしていたのかしらね?」
「グラウンドで壊れていた骸骨標本なんですけど。ほら、寒がったり震えたりって言う」
 二人の話は全く噛み合っていない。そんな中ではさとみも口を差し挟むタイミングが無かった。
「骸骨標本?」井村先生が言う。やっと話題が合ってきたのだろうか。「そうそう、そうだったわね」
 井村先生が振り返った。鼻先にまでずり落ちてきた眼鏡を、ずいっと左人差し指で押し上げた。
「栗田さん、そっちの生徒は?」
「さっきも言いましたけど、先輩のさとみ会長です」
 しのぶが答える。こういう遣り取りはいつもの事のようで、しのぶは平然としている。
「ふ~ん……」井村先生は分厚い瓶底眼鏡の奥から妙に大きく見える瞳を、さとみにぎろりと向けた。「見た事の無い生徒だけど?」
「あの、わたし、先生の授業が無いので……」さとみは言う。なんだか言い訳をしているような口ぶりになる。「それよりも、ちょっとお聞きしたい事があって……」
「わたしに?」井村先生は不思議そうな顔をする。「あの骸骨標本は壊れちゃったから、寒がったり震えたりって言うのは証明できないわ」
「ええ、それは分かっているんです」
「それよりも、どうして外にあったのかよねぇ。しかも窓が開いていて。昨日、栗田さんからここの鍵を返してもらってから、確認に来たのよ。窓も全部チェックしたし、骸骨も相変わらずだったし。誰かが校内に侵入して窓を開けて骸骨を持ち出してグラウンドで粉砕したとしか考えられないわ。変な犯人よねぇ……」
「先輩……」しのぶがさとみに小声で話す。「昨夜の出来事を話した方が良いんじゃないですか?」
「いいえ、あんまり話を広げたくないわ」さとみも小声で答える。「とにかく、聞きたいのは別の事よ。……あの、先生」
 考え事をしていた井村先生はさとみの呼びかけに我に返ったような顔をする。
「先生、正門の傍に石が積み上げられているのをご存知ですか?」
「ええ、知っているわよ。元々ここの土地にあった石でしょ? 地学の大石先生が興味を持っていたわね」
「じゃあ、大石先生が登ったんだ……」
「それは無理ね。あの先生、凄いおデブだから」井村先生は自分の言葉にうなずく。「だから、わたしが登ったのよ。一番上の石の地質が気になるとか言ってね。わたしが登ったのよ」
「その時、札みたいなのを見ませんでしたか?」
「札……?」井村先生は髪の毛に手を突っ込んでがりがりと掻き回し始めた。思い出す時のくせなのだろう。「……ああ、思い出した。なんだか古びた細い紙切れが貼り付けてあったわ。邪魔だから剥がしちゃったけど。今頃はごみ処理場で処理されちゃっているわね」
「何か書いてありましたか?」
「う~ん……」井村先生はまた頭をがりがりし始めた。「……そうそう、薄くなっていたけど『剥がすな』って書かれていたわね。何で書いたのかは分からないけど、筆字っぽかったかなぁ。でもさ、剥がすなってあると剥がしたくなるじゃない?」
「そうですか…… ありがとうございました」
 さとみは言うとぺこりと頭を下げた。権左を封印していた祖母の札を剥がしたのは井村先生だったのだ。そのせいで、先生の身近だった骸骨を操る事になったのだろう。ただし、操るようにしたのはあの黒い影だ。
「あ、そうだ、栗田さん」井村先生がしのぶに声をかける。「あなた、怖い話が好きだって言っていたわよね?」
「はい」しのぶがうなずく。「骸骨の事もその流れで話してもらいました」
「じゃあさ、三階の窓に浮かぶ手形の話って知っている?」
「えっ! 何ですかそれは?」
 しのぶの瞳がきらりと光る。


つづく

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