※大ネタバレです。未鑑賞の方はご注意ください
こんにちは。
今回は『花束みたいな恋をした』を観て来ましたので、感想を書きたいと思います。
とは言っても僕、この映画の後半、特に80分〜115分くらいまでの間、ずっと頭を抱えていてスクリーンを直視できていなかったんですよね。怖すぎて。残酷すぎて。観るのが辛すぎて。一人で観に行ったんですが、「この映画を作った人たちは僕になぜこんな酷い仕打ちをするのか?こんなに気持ちを掻き乱して何がしたいのか?」ということばかり考えて悶絶していました。
「純愛モノ、美しいラブストーリーは好きです!菅田将暉も有村架純も好きです!キャピ!」みたいな軽いノリで観に行ったら痛い目観るでほんまに…特にそこの交際3年のカップルさんよ…
この映画は、1組の男女が出会い、恋に落ち、そして恋が終わるまでの4年間を描いた作品です。
ひょんなことから出会った麦と絹は、趣味が悉く一致することがわかり、あっという間に恋に落ちます。(※天竺鼠の単独に行くような綺麗な女性がいたら恋に落ちざるをえない。あのシュールさが好きと共感できる人とはもっと深く分かり合える気しかしない)
どんどんと愛を育み、就活もそっちのけで同棲を始め、フリーターではありながらも一緒に好きなことを好きなときに楽しみ、二人の世界を築いていきます。
「僕の人生の目標は、絹ちゃんとの現状維持です」と話す麦。嬉しそうに応じる絹。
これ以上の幸せはないという様子の二人。
潮目が変わるのは、両親からの仕送りを止められた麦が、生活のために就職を決めた時です。
苦労の末に就職には成功します。最初は「仕事は5時に終わる」「絵も続けられるし、絵が軌道に乗ってくればそちらに戻れる」と喜んでいましたが、そうは問屋がおろさない。
いざ仕事が始まってみると、話と違う不規則な勤務とストレスによって麦の心は枯れていきます。
絵を描く余裕がなくなるのはもちろんのこと、今まで絹と一緒に楽しんでいたものが楽しめなくなります。これめちゃくちゃわかる。仕事で忙しいと感受性もへったくれもなくなっていくんだよね。ストリートビューで大興奮していたかわいい麦くんが…。
それまで絹と一緒にこの小説面白いねって言ってたのに、『人生の勝算』なんていう自己啓発本を立ち読みし始める始末。(※ちなみに僕は自己啓発本で殴られて親を殺されたレベルで自己啓発本が嫌いです)
こうなったらそりゃ絹の心も離れる。「人生は、責任だ。」
僕が個人的に胸が傷んだのは、二人とも嫌だなと思うことがあっても、気を遣って現状を保とうと取り繕うところです。最高につまらなさそうに映画を観たクリスマスの夜、「映画面白かったね」「そうだね」という渇き切った会話。麦が絹の転職を否定したことから喧嘩になったとき、お互い少し謝った後、「お茶飲む?少し苦くなっちゃった」「これくらいの方が好きかも」なんていう上っ面だけのやりとり。あれ、これ僕の生活見られてる?っていうくらい心当たりしかない。リアリティの鬼。このあたりからスクリーンが恐怖の壁面になってきます。
極めつけは、おそらく相当久しぶりのセックスをした二人の、事後の無表情です。この後のシーンで「何も感情がないんだよね」という言葉が出て来ますが、それとリンクする場面。恐ろしいほどの演技力です。
友人の結婚式の日、二人はお互いに胸の中で別れを告げることを決意しています。
その思いを胸に秘めながら、最後の日を楽しく過ごします。
そして最後にやって来たのは二人が最初に付き合ったファミレス。この映画の一番の見どころです。
どちらからともなく別れを切り出し、絹は現実的な後処理の話をし始めた…と思いきや、麦が「絹ちゃんと別れたくない」と言い出します。いきなりどうしたとは思いますが、ここからの麦のアンチテーゼはなかなか考えさせられるものがあります。
「恋愛感情は確かにいつまでも同じではないけど、世の夫婦たちもそうだと思う。ある程度嫌なところには目を瞑りながらとは言え、家族として『空気みたいな』幸せを作ろうよ」と話します。僕はまだ結婚していませんが、現実を見るにこういった夫婦は実際多いのではないかと思います(人生の先輩、実際のところどうなんでしょう?)。
初めのうちは小さく首を横に振っていた絹ですが、麦の論に押されたのか次第に「そうだね、確かに…」と言い始めた矢先。隣の席(4年前に二人が座っていた席)に、初々しい男女が座ってきます。巡る命。ちょうど4年前の二人と同じように、これから始まる素敵な出来事への予感に胸をときめかせる彼らの会話を聞くうちに、今はもう無くしてしまったものをまざまざと見せつけられ、涙が止まらなくなってしまう麦と絹と僕(※友情出演)
もうね、このあたりは劇場のそこら中で手首から血が流されていてもおかしくないと思いました。観ているのが辛すぎる。
「こうして僕たちは、別れた。」
この映画は、先ほどの「世の中の夫婦も恋愛感情はなく、我慢しながらなんとなくの幸せを享受している説」に対して答えを出していません。夫婦の形として、賞味期限のある生モノたる恋愛感情の形として、何が正しいのかは教えてくれません。
だからこそ、「思うところは色々あるけどなんとなくこのまま結婚するのかなあ、でもそれでいいのかなあ」と思っている、少しマンネリ気味のカップルには危険なのです。この映画を観て「諦めとしての結婚」が怖くなって別れてしまうカップルも中にはいるんじゃないかと思います。
一方で、観ている途中は感情がぐちゃぐちゃになっていた僕ですが、終了後は不思議とすっきりした気持ちになったんですよね。別れた二人がなんやかんや楽しそうに過ごしているポップな後日談が緩和してくれたのか知らないですけど。
この映画の随所で出てくるAwesome City Clubがこの映画のインスパイアソングとして書き下ろした『勿忘』のMVがYouTubeにアップされていて(2021年の傑作MV暫定1位なので知らない人がいるはずはないのですが)、そのコメント欄でも同じようなやり取りをしている方がいました。
「映画見て別れを決意するカップルいそう」
「逆じゃね?もっと大切にしよって思った」
これ、どっちもわかるんですよね。この映画に辛い未来を投影してしまって別れるカップルと、こうならないように、すれ違わないようにお互いを大切にしようと思うカップル。できれば後者でありたいとは思っています。でも、そこは本当に気持ちの問題、ですからね…
長々と書いてきました。多分まだまだ重要な点があると思いますが、きりがないのでこの辺で…。
結論として、この映画は近代稀に見るレベルで胸を抉る危険な映画です。この「誰のせいでもない、必然的な流れとしてのすれ違い」は『秒速5センチメートル』を彷彿とさせます。この映画はじわじわと後半にかけて痛めつけてくるお化け屋敷で、『秒速5センチメートル』は楽しい白雪姫のアトラクションだと思ったら最後えげつないフリーフォールだった、みたいな違いはありますが。
ただ、ここまで抉られるのは当然ながら映画としての完成度が抜群に高いからで、坂元裕二のリアリティ溢れすぎる脚本と、菅田将暉と有村架純の異次元の演技力が破壊力を極限まで高めています。
ご視聴後の破局や傷心については誰も責任を取れませんのでご注意ください。
結局はみんな、幸せになりたいだけなんだよね。
それではまた、ごきげんよう。
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