読む、書くの雑多な日々、気まぐれな日常

好きなこと、雑多な日々、小説などを色々と書いていきます

ボタン付けとコートのカスタム、結婚したらとラストに言われたこと

2021-03-29 11:36:31 | 二次小説

 ボタン、取れかかっていますよ、彼女の言葉に視線を落とす、確かに白衣の真ん中の胸ボタンがゆるくなっている、まあ、今日一日ぐらいは大丈夫だろうと思っていると、付け直しますと行って針と糸を持って、そのままじっとしていてくださいと声をかけてきた。
  脱がなくてもいいですから、イスに座ると、素早く自分の隣に座って針に糸を動かす、器用なものだと感心すると同時に自分でやらずにすんで良かったとマルコーは、内心ほっとした。
 料理や簡単な掃除はできても裁縫は正直、得意とはいいがたい、得手不得手というものは人間誰しもあるが、裁縫は、その中でも特にといってもいい。
 
 「ありがとう、助かったよ」
 
 そのときドアが開き、ひまーっと女の声が響いた、入ってきたのはラストとスカーだ。
 
 あら、お邪魔だったかしらというラストだが、ボタンつけてただけよという言葉に、何を思ったのか部屋から慌てて出て行った、そして戻って着たときには、これ、お願いとばかりにスカートやシャツを山ほど抱えてきた。
 
 「何、これ、まさか、やれと」
 
 「いいじゃない、あっ、スカート丈は少し詰めて」
 
 「自分で」
 
 「裁縫は駄目、ホムンクルスにも得手不得手があるのよ、それともドクター、マルコーだけ、依怙贔屓ってやつ、ほら、貴方も出しなさいよ、コートのボタン、とれかかっていたでしょ」
 
 そういってラストは隣の大男、スカーの体を肘で突いた。
 
 「あっ、ボタンの糸がゆるくじゃなくて太ったんだったわね、やだわー、ボタン、全部付け替えた方がいいんじゃない、ほほほーっ」
 
 その言葉に、むっとした顔になったスカーだが、美女は気にする様子もない。

 袖口がすり切れている、だけじゃない裾もだよ、それに、背中の部分を障ってみると中に綿が入っているのかもしれないが薄い、せんべい布団みたいで、こんなコートを着ていて寒くないのだろうかと思ってしまう。
 まあ、筋肉の塊が服を着ているような感じだから、もしかして寒さなんか感じないのかもしれない、だが、これではあんまりだと思ったが、このとき、山のように積まれた女物(ラスト)の服が目にとまった。
 
 「これ、ばらしてもいい」
 
 女物のコートというのは防寒もだが、体の線を綺麗に出す為に素材も薄く軽く、結構質のいい物を使っている、中綿を使うのよと行ってコートの裏地をほどいて中身を引っ張り出して、スカーの大きなコートに詰めはじめた、適当に型を取って詰めて止めるだけなので手間も時間もかからない。
 
 「それ、まだ二回しか着てないんだけど、まあ、いいわ、好みじゃなかったし」
 
 結構いいコートだと思うのだが、高かったんでしょというと男からプレゼントされたものだから値段は忘れたと言われて、はあっという顔になった、その人とは今でもお付き合いが続いているのかと聞いたら、当然、別れたわと、当たり前のような返事だ。
 
 まあ、相手の男は気の毒としか言いようがないが、コートは役に立ったのだからいいことにしようと思いながらふと、この時気づいた。
 
 「先生のコート、見せてください」
 
 女なら破れたり、ほつれに気づいたりしたら、その時点で直したり修理に出したりするのだろうが、怪我人、病人もいないし、暇だから、ついでにカスタムしてしまおう。
 
 
 
 先生はどうですと聞かれてマルコーは羽織ったコートが軽い事に気づいた。
 
 「腕周りとか動かしづらくありませんか」
 
 「ああ、大丈夫だ、背中が以前より温かい気がするが、それに軽い」
 
 「彼女のコートの中綿を使ったからです、殆ど着てないから、新品同様ですよ」
 
 「だったら新しいコート買ってくれない」
 
 ラストの言葉に、その男に、また買って貰ったらというと、むっとした顔になった、多分、いい別れ方ではないのだろう、目が疲れたなあとごろりと床に寝転がると、冷えるからと言われてしまった。

 仕方ない、医療用のベッドにごろんと寝転ぶとお茶にしようかといわれてしまった。
 
 「甘い物がいいだろう」
 
 「ココアにミルクと砂糖を少し多めで」
 
 「あっ、あたしも、傷男は珈琲でいいのよね」
 
 三人でお茶を飲んでいるとラストが呟いた。
 
 「結構うまくできてるわよ、コートのカスタム」
 
 褒めてくれるのは嬉しいが、これは他の服もなんて言われそうで黙っていた。
 
 「医者の助手より、路線変更した方がいいんじゃない」
 
 どこに、路線変更なんて今更キツイと思いつつ、手渡されたココアを飲もうとすると、ラストはにやりと笑ってマルコーを見た。


    いいんじゃない、もう、結婚しても」
  


ガニマール刑事の恋、らしいです 私立探偵とリュパンは蚊帳の外、とか

2021-03-24 11:55:13 | 二次小説

「確かに、これは奴の予告状ですな、間違いありません」
 
 指紋を調べたところで無駄だろうと思いながらも、ガニマールは手袋をはめた手で丁寧に封筒をひっくり返すと中を改めた、一週間後、フランヴァル侯爵家の宝である青い紅玉を頂きに参ります、アルセーヌ・リュパンと署名を見てガニマールは内心、腹が立った。
 ここ数年、アルセーヌ・リュパンはなりを潜めていた、もしかして死んだのではないかと噂まで流れたほどだ。
 その理由は簡単、恋人が亡くなったからだ、女性はリュパンの犯罪の協力者でもあったが、病気で長くは生きられないとわかっていようなのだ彼も覚悟はしていたのだろう。
 ここ数年、パリが静かだったのは彼女を連れて離れ小島に生活の拠点を移していたからだ、だが、それを知っているのは限られた人間だけだ。
 
 
 「やあ、警部、お元気ですか」
 
 数日前、リュパンは堂々と現れた、しかも花束まで持ってだ、それを自分に手渡し、奥様が亡くなられていたとなどと殊勝な顔つきでいうものだから、毒気を抜かれてしまった。
 
 「三年だよ、もう、慣れた」
 
 そうですかと頷いたリュパンは真面目な顔で、だが、それはすぐに、別の表情に変わった。
 
 「捕まえたいですか、僕を」
 
 当たり前の事を聞くなと言いかけたガニマールは何を狙っていると聞いた。
 
 「ご存じでしょう、美しいものが好きなんです、僕は」
 
 分かっている、そんな事は重々、いや、百も承知だと言いかけてガニマールは、はっとした、今、パリでは古物市が様々な場所で開かれている、規模の大きな物から小さなものまで、週末ごとにといってもいい。
 そしてリュパンは強欲だ、絵画、宝石、アンティーク家具、正直、この男が何を狙っているのか、見当がつかない、そんな矢先のことだ。
 
 侯爵家にリュパンから、予告状が届いたというのだ。
 
 
 「ガニマール警部さん、私、この宝石、青の紅玉が盗まれても構わないと思ってます」
 
 宝石の持ち主である女性、ジェニーナ・フランヴァルの言葉にガニマールは驚いた、大事な話があるので二人きりで話したいと言われて館の彼女の部屋に呼ばれたガニマールは宝石が偽物であると聞かされて驚いた。
 恥ずかしい話だと前置きして彼女の話を前置きすると、半年ほど前に亡くなった夫というのは、かなりの浪費家だったらしく、今、住んでいる屋敷の殆ど、金になりそうな物は借金のかたに売り払ってしまったのだという。
 そして、月末には屋敷も他人の物になるという話にガニマールは驚いた。
 
 「マダム、お気持ちはわかります、ですが、あなはリュパンという男を知らない、もしかすると彼には他の目的があるのかもしれません」
 
 リュパンのことだ盗みに入るにしても下調べをしている筈だ、だとしたら、青い紅玉が偽物ということも知っているのではないか、それでもだ、わざわざ予告状を出し、それを撤回しないことは奴は間違いなく、現れる。
 もしかしたらと思う、その時、ドアがノックされ男が顔を出した。
 
 「マダム、お客様が、その、ロンドンからいらしたと仰って」
 
 ロンドン、心当たりが亡いと言いたげに女性は不思議というよりは不安そうな顔でガニマールを見た。
 
 
 「ハーロック・ショームズ」
 
 客間で待っていたのは知らない顔ではない、ロンドンの探偵が、何故、ここにとガニマールは驚いた、するとリュパンの予告状と聞きましてねと立ち上がった長身の男は女主人の前に立つと恭しく頭を下げて手を取り、挨拶のキスをした。
 
 「マダム、ここに来るまでに色々と調べたんです、予告状を出し、盗むと彼がいった宝石、青の紅玉が偽物ということ、一度拝見させて頂けませんか、勿論、警部も一緒にです」
 
 
 ケースから取り出した青の紅玉を見たショームズは偽物にしてはよくできていると呟いた。
 
 「鎖と宝石の台座ですが、これは最近、交換されたものでしょうか」
 
 「元々古くて、それに宝石は偽物なのだから構わないと思って、一ヶ月ほど前に古道具屋で見つけたものと交換したです」
 
 「ほう、古道具屋、ですか」
 
 ショームズの目が細くなったのをガニマールは見逃さなかった、その時、玄関の方から喚き出すような言い争うような声が聞こえてきた。
 
 
 「お帰りください、ただいま来客中で奥様は」

 メイドの声に怒鳴りつけるような男の声が被さる、
  
 「うるさい、あいつが亡くなったからって」
 
 
 玄関に行くと男がメイドと言い争っている、騒がしいなと一括したのはショームズだ。
 男はショームズ、ガニマールの顔を見ると、ぎょっとした顔になった。
 
 「借金の取り立て買い、それも他の要件でもあるのか」
 
 男は何か言いかけようとしたが、ちらりと視線を外した、その様子にショームズは、ふふっと笑いをもらした。
 
 「私の、いや、君は警部の顔も知っているようだね、後ろ暗いところがあるんじゃないか」
 
 「有名人だからな」
 
 ショームズはガニマールにチラリと視線を向けた、それに気づいたのか、ガニマールも、この時、男をじっと見た。
 
 (こいつの、いや、どこかで)
 
 「少し話を聞かせてもらおうか」
 
 ガニマールが一歩踏み出し、近づこうとした、その瞬間、男はくるりと背を向けると脱兎のごとく、駆けだした。
 
 

 「ですが、偽物ということは本物も存在するということになりませんか、警部」
 
 「本物だって、だが、そんな物があっても」
 
 侯爵家は没落同然だ、本物があっとしても意味はないのではガニマールは思った。
 
 「当主の噂をご存じですか、表の顔ではなくて」
 
 
 
 数日が過ぎた、ルパンが予告情話取り消したことは初めての事で、ベル・エポック紙を騒がせたのは、彼が真摯な謝罪をした挙げ句、本物の青の紅玉を女主人のジェニーナ・フランヴァルに返したことだ。
 ところが、彼女はこれを不要として貧民街の子供達を世話する教会に寄付をした、全てだ、それだけではない、屋敷も売り払い、爵位も返上してしまった。
 
 
 その日、ガニマールは久しぶりにシャトレ広場のスイス酒場を訪れた、妻が亡くなってから酒量は減った、だが、今日は事件が解決したことで気分がよかったのだ、二杯目のビールのお代わりを頼む、だが、運んできてくれたメイドを見て驚いた。
 
 「マ、マダム、ジェニーナ」
 
 「ガニマールさん、お元気ですか」
 
 働いているんですと言われてガニマールは、えっとなった、彼女は元、貴族、いや、爵位を返上したからといって酒場で給仕などをするような女性ではと思った。
 
 ビールをジョッキで二杯、いつもなら酔っぱらって気分は、だが、その酔いもさめてしまった。
 
 
 
 
 
 
 仕事が終わり自宅へ戻ろうとしていたのだろう、店を出た彼女にガニマールは声をかけた、振り返った彼女が驚いた顔で自分を見る、だが、ほんの少し前、自分は、それ以上に驚かされたのだ。
 
 「いつから、あの店で働いているんです」
 
 一週間前からですと言われてガニマールは黙りこんだ。
 
 事件の後、館を出て無事に暮らしているのか、どこにいたのか、聞きたい事が色々とあったのに、言葉が出てこない。
 
 「貴方からの手紙を受け取りました、内容を読んで安心しました、だが消印がない」
 
 「もしかしたら、住所を調べて会いに来てくれるかと思って、あのときは色々とお世話になって、また迷惑をかけてはと」
 
 「いや、刑事として、自分は当然のことを」
 
 手紙は何度かきた、近状を伝えるだけの日常的な、まるで日記のような内容だったが、それを読むことが嬉しく、何度も読み返した、ただ、一つ、残念なのは自分から返事を出すことができないことだ。
 
 「どうして、あの酒場に」
 
 「運が良ければ会えるかもと、手紙だと伝わらない事もあるでしょう」
 
 それは、言葉が喉の奥に引っかかるようなもどかしい気分だ。
 
 「生活は大丈夫なんですか、亡くなったご主人は貴方には」
 
 事件後、ハーロック・ショームズに色々と聞かされた亡くなった夫は実は男色家で女性には全く興味がなかったらしいこと、遠縁の親族の遺産の受け取りの条件として偽装結婚したのだろうと聞かされたときは驚いた。
 
 「もしかしたら、マダムは感づいていたのではと思うが、借金で、そこまで気が回らなかったのかもしれないな」
 
 婦人の着ている物を見て気づかなかったね、旦那だよ、愛人と日々放蕩三昧で薬にも手を出していたこと、いずれにせよ、貴族の爵位返上は遅かれ早かれ免れることはできなかったはずだ、彼女にとっては幸運だったろう。

 事件の最中、警官や自分達に紅茶やティーフードを振る舞ってくれたことを思い出す、サンドウィッチ、ショートブレッド、それらは決して高級な物ではなかった。
 自分の生家は貴族ではない、田舎の人間だといっていたことを、
 
 「手紙には住所を書いてください、そうしたら返事を出すことができる」
 
 すると、女性はわずかに困惑した表情になった。
 
 「貴方の家の前、ポストに手紙を投函するの、楽しみなんです」
 
 そんな事を、いや、返事に困ってしまう、思わずガニマールは周りを見た、通りには人影も、まばらだ、だが、あえて彼女の手を取ると建物の陰に隠れるように入った。
 
 「偽物でも、あの宝石は美しかった、あの時、言いたかったのは同じくらい」
 
 貴方がといいかけてガニマールは両腕を伸ばして抱きしめた、それは、あの屋敷の中で貴族で未亡人という彼女相手にはできなかったことだ。
 
 「よ、酔ってるんですか、ガニマール、警部さん」
 
 驚きと焦ったような相手の声にガニマールは真面目に答えた、酔っていない、それに、今は仕事中ではないのだから許される筈だと顔を寄せた。
 
 「マダム・ジェニーナ、私は(あのときから)」

 
  
 女性はくすぐったそうに身をよじらせるが、ガニマールは構わずにキスをした、後で髭の手入れをしなければと、そんな事を思いながらだ。

 
 


ブリックスの朝、クィーンサイズのベッドと男の訪問(キンブリー&アイザック)

2021-02-01 21:39:08 | 二次小説

 ようやく、ブリックスに到着したのは夕方だが、日はとっぷりと暮れていた、軽い夕食をすませたマルコーにオリヴィエは、ゆっくりと休んでください
と言われたのでベッドに入ったのだが、ふと違和感を感じたのだ。
 なんだか妙に暖かい、いや、暑い、汗をかいているのか、暖房が効くまでは寒かった筈なのに。
 目を覚まし、起き上がろうとすると窮屈さに驚く、ベッドはかなりの大きさで余裕がある筈だ、なのにと思ってふと首を動かすと隣で誰か寝ている、し
かも甘い体臭、いや、香水の匂いがする、鼻にかかるような甘い声にマルコーは驚いた。
 
 「起きたの、ドクター」
 
 何故、隣で彼女が寝ているのかとマルコーは驚いた、するとラストはちょいちょいとマルコーの反対側を指さす、首をわずかに向けると、もう一人、彼
女だ、いつの間に自分のベッドで女二人が寝ているのか。
 
 
 「どういうことだ、いつの間に」
 
 「だって、寒いんですもの」
 
 まるで子供のような台詞だ、何か言おうとしたが、相手の顔を見て、いつもとは違う事に気づいた。
 
 「寒い、のかね」 
 
 かなりとラストは頷くと、冷え性の女二人がベッドに入っても体は全然温かくならない、だから、マルコーの部屋に来たのだという。
  
 「あたしもだけど、彼女もひどかったわよ、ここに来るまでに膝をカクカクさせながら、あー、でも、この部屋、暖房もついているし、ベッドもフカフ
カだわ」
 
 「暖房は、ついているだろう」
 
 「暖かくならないのよ、もしかして、体温が低いせいかしら、女は」
 
 時計を見ると五時、まだ、外は暗い、仕方ないとマルコーはベッドから起き上がると部屋の隅の簡易コンロに向かった。
  
 
 「これを飲んで体を温めなさい」
  
 受け取ったカップからは甘い香りがする、覗き込んでラストは不思議そうな顔をした、珈琲でも紅茶でもない、ココアだ、そして一口飲んで不思議そう
な顔をすると、チョコレートキュールを少し入れているとマルコーが呟いた。
  
 「あっ、なんだかぽかぽかしてきた感じ」
 
 
 ラストはマルコーをじいっと見つめた。
 
 「ところで、起こしましょうか」
 
 「好きなだけ寝かせておいた方がいい、ここに来るまでも大変だったからね、ゆっくりした方がいい」
 
 
 
 
 「先生は、まだ、お休みでは」
 
 アームストロングの長男、アレックスの遠慮がちな言葉にスカーは大丈夫だ、歳だし朝は早いんだと部屋の前まで来るとノックもせずにドアを開けて部
屋に入った、すると、おはようと女の声が返ってきた、思わず視線が釘付けになったのはベッドの上にマルコーとラストが座ったまま、しかも朝食を食べ
ているからだ。
 
 「ミルクティーのお代わり、あっ、スクランブルエッグは固めにしてね」

 ラストの言葉に、わかってるわよと返事をしたのは美夜だ、部屋の隅のコンロで料理をしている、スカーとアレックスは驚いたのか、言葉が出ない、そ
してマルコーは入ってきた二人の男を見ると、どこか気まずそうな視線を向けた。

 
 「うーん、温サラダ、ドレッシングが美味しいわ」

 満足そうなラストに、ふっと得意そうに美夜が笑った。

 「それは先生のレシピよ」

 返事をしながら、この時、初めてスカーとアレックスの存在に気づいたかのように美夜は視線を向けた。


 どういう事だと問いかけるようなスカーの眼差しから、マルコーは思わず視線をそらしたのは無理もない、すると、それに気づいたラストがニヤニヤと
笑いながら視線を返した。

 

 また、雪崩、いや、地震か、オリヴィエはうんざりした顔で窓の外を見た、ここ数日で何度目だ、今まで、なかったのだ、これが人間相手なら別だ、敵
か味方か、判断できるからだ。
 
 「少尉、大変です、昨夜の雪崩で、こちらに来るはずの人間が」
 
 部下の言葉にすぐに救援に向かうと返事をした。
 
 
 

 「参りましたね、運が良かったのか、悪かったのか、どちらだと思います、あなた」
 
 「そんな事を聞くな、大体、何故、おまえとブリックスへ」
 
 運転は自分にやらせてキンブリー自身は後部座席でずっと眠っていたのだ、頭脳労働者にとって睡眠は大事なんですよと、もっともらしいことをいっ
て、そして現在、自分達は雪崩、地震、いきなり地面が揺れて車ごと地面の裂け目に落ちてしまったのだ。
 事前にブリックスに自分達が行くことは知らせてあるので助けを待っていてもいいのだが、いつ、きてくれるか分からない助けを待つというのも正直、
辛い、周りを調べていたアイザックは、突然、キンブリーに目を向けた、静かにしろと視線でだ。
 
 音がするのだ、少しずつ近くなってくる、これが助けなら何かしら向こうから合図なり声かけをするだろう、だが、それがないということは、もしかし
たら敵かもしれないと二人の男は、いつでも錬金術を、相手に対して攻撃できるように身構えた。
  
 
 女は願った、どうしようもない時は人間は神頼みにでも縋るものだが、この場合はどんな人でも、その願いを叶えることはできないだろう、何故なら、
その願いは死んだ娘に会いたいというものだからだ。
 死体を確認してくださいと言われても、判別できない程の損傷だった、確認してください、娘さんですかと聞かれても答えられない、肉の塊を娘だと言
われても信じたくはなかった。
 
 一目だけでもいいんです、姿を見るだけ、お願いします。
 
 その夜、地震が起きた、それは本当にかすかな揺れだったが、遠い、こことは離れた場所では大きな揺れとなって、地面に大きな穴を空けた。
 
  
 


クリスマスプレゼントと生意気な弟、ブリックス行きは本格的

2020-12-17 17:26:00 | 二次小説

 着替えようとして、ベルト穴はゆるゆるな事に改めて気づいた、随分前から

新しく買おうと思いながらも、買い物に行くのも面倒に感じて、そのまま使い

続けていたが、ブリックス行きが本格的になってくると、このままでは駄目だ

ろうと思ってしまった。
 
「先生、ありがとうございます」
 

治療がすむと若い軍人はマルコーに頭を下げた。
 

「気をつけて、私は来週には、ここにはいないから」
 

「ブリックスへ行かれるんですね、ところで先生、珍しいですね」
 

また、言われてしまったな、これで何度目だろうとマルコーは思った。
 

「似合わないかね」
 

とんでもないと首を振る若い軍人は羨ましそうな顔だ、もらい物だよと答えたマルコ

ーだが、それ、限定品ですよねと言われて、えっという顔になった。
 

 クリスマスの限定品、安月給の自分にはなかなか買えませんと言われて、そんな高

い物だったのかと内心驚いた、マルコーは相手の顔を思い出した。

 良かったら使ってくれない、数日前、スーパーの紙袋を手渡されたとき、中身を見

てどうしてという顔になったのは無理もない。
 
 
 本屋のバイトの帰り、自分を待っていたマルコーの姿にラストは驚いた、何かあっ

たのと聞いてもすぐには話そうとはしない、どこか、言いにくそうな感じだ。

 「聞きたいことがある、私にくれた、あれ、その」

 「もしかして、サスペンダー」

 本屋でバイトをしているホムンクルスのラスト、彼女の表情、目がわずかに泳いで

いる。
 

 もしかして男にねだって、いや、貢がせて買ったのか、そうだとしたら、簡単に受

け取ってしまった自分はまずいのではないかと思ってしまう。

 安くはないし、深く考えずに受けとってしまったのだ、使ってしまったので返品な

どできるわけがない。

 「バレたのね、あー」
 
 肩を竦めた彼女は自分の左手を差し出した、薬指には細いプラチナリングが光って

いる。

 「買って貰ったのよ、あなたの助手に」

 ますます訳が分からない。
 
 「それね、まあ、お詫びというか、シン国のリン・ヤオという男の子、知ってるでしょ」

 マルコーは、以前の誘拐騒ぎの事を思い出した。
 

「先日、二人でいるときに会ったのよ、実は最近になってシン国の人間が誘拐騒ぎに

関係していたと色々と分かったみたいで、お詫びがしたいと言われてね」

 そんな事があったのかとマルコーは、内心、ほっとした、だが、釈然としない部分

もある。  

「彼女からプレゼントと言って渡そうとしたら、多分、遠慮したでしょ」

 言われて、マルコーは、そうかもしれないなと思ってしまった、これはもう、あり

がたく使わせてもらうしかないだろう。

 「何もしなくていいから、もしかして、アクセサリーをとか、駄目よ、絶対」

 そう言われて、マルコーは表情をわずかに曇らせた。

 「弱いみたいよ、肌」

 今一つピンとこない相手の顔を見て、男だから仕方ないかとラストは説明した。

 「アクセサリーの金具とかでできものとか、女物の下着でも痒くなったり、かぶれ

たりするっていってたのよ」

 ああ、そういえば以前、自分の下着は綿だからイイと言っていたな、ふと思い出し

たのだ。

 「歳をとると過敏になるのね、嫌だわ」

 「君もかね」

 「そうよ、夜中の焼き肉店でのバイトしたら、肌が荒れたわ、でもね、これ欲しか

ったのよね、ありがと、ドクター」

 礼を言う相手が違うだろうと思いつつ、マルコーは笑った。

 自分は知らないふりをすればいいということか。
 


 「おい、なんで、あんたなんかと」

 文句を言いながらも、エンヴィーはクレープを食べるのをやめようとはしない、一

口、もう一口と食べながらついに最後まで食べきってしまった。
 

 ベンチに座って隣の女を、むっとしながら横目で見る。

 偶然、街中で出会ってしまい、暇なら付きあいなさいよと言われて荷物持ちだ。
 

 下着、菓子、ウェットティッシュやハンカチ、タオルなど買い込んだ女は遠慮なく

自分に持ってと渡してくる、なんで自分がと思うが、ラストから仲良くしなさいと、

珍しくきつく言われているのだ。

 買い物が終わると女は、お礼だと言ってクレープを食べないと言い出した。

 「もう一つ食べる、今度は違うのがいい、ブルーベリー、バナナがいいかな」

 「いらねえよ」
 

 

 

 「遠慮しなくてもいいわよ、弟でしょ」 

 文句を言おうとすると。

 「ラストの弟でしょ、弟は姉の言うことはきくものよ、世間の常識を知らないの」

 「おい、でデタラメだ、何だ、それは」
 

 さっきから、腹の立つ事ばっかり言いやがってと思いながらも、自分は女の言うと

おりにしている、荷物を持ってクレープを食べている。

 来週にはブリックスに行くから、しばらく会えないわと女が、ぽつりと言った。

 「へえっ、じゃ、あんたの顔」

 見なくて済むんだと言いかけたエンヴィーだが、何故か頭の中だけで言葉が出てこ

なかった。

 「ブリックスって年中、雪らしいのよね」

 「ああ、なんだ、もしかして寒いの、苦手とか」

 「まあ、ね、ラストのこと好き」

 なんだよ急に、変な事を聞くんだなと思っていると。

 「自慢できるわよね、美人だし、自慢の姉ですって言えるし」

 なんだよ、それは。

 「綺麗でもなく、偉くもなかったなって思ったの、今更だけど」

 それは独り言のような呟きだった。

 

 「何、これは」
 

 土産だよ、いらないなら俺が貰うと言ってエンヴィーはクレープに手を伸ばした。
 

「いや、食べるわよ」

 スペシャルフルーツサンドとクレープを前にしてミヤと会ってたというエンヴィー

の話を聞いていたラストは話を聞くと微妙な顔つきをした。

 「自慢の姉、か、それで何か言ってた」

 「いや、別に、なあ、あの女」

 言いかけてエンヴィーは黙りこんだ、このとき、自分が何を聞こうとしているのか

わからなかったからだ。  
 
 


今週中には、ハガレンを

2020-12-16 17:59:19 | 二次小説

ここ数日、寒さとだるさで少しダウンしていた、情けない。

小説家になろうとアルファポリスに再登録して、オリジナルに力を入れようと

思っていたんだけど、モデルは先生、というか、オムロさんだ。

だって、声が渋くて、イイんだもの。

モデルにして書くぞー。