逢瀬の行方

女性たちとの遍歴を

彼女が心配で、離れられなくなったわたし

2021-09-03 19:04:56 | 日記
二度目の会食以降、小中学校の同級生の再会を祝し、初恋の君とサシで飲める幸せと感謝を伝えながら、幾度も杯を重ねた。ぼくが彼女と逢えて嬉しいのはもちろんのこと、惚れた弱みであったが、そんなぼくに彼女が付き合ってくれる理由が、はっきりと見えてきてしまったのだった。



当時日本最大のメーカーは、管理職であった彼女が勧奨退職を希望した際、なんと退職金に55ヶ月分を上乗せし支給した。彼女の旦那も同じ会社で同時に勧奨退職に手を挙げ、同様の額を手にしたのだ。だがそこで、彼らに軋轢が生じた。彼女はライスワークからライフワークに移行するために、母校の大学院に通信制で入りニッチな研究を始めつつ芸術施設の契約職員として横浜を離れない生活を選び、旦那はお二人がかつて夢見ていたデュアルライフ実現のため、沖縄に生活拠点をつくり、生活を始めようと彼女に提案したようだ。それに対して、ライフワークを進めたい彼女は、今はついて行かないことを選択し、彼女は横浜に、旦那は沖縄で生活をすることとなったという。
ぼくらが飲み歩きを始めたのは、ちょうどその時期であった。



まったく因果なものだった。彼女夫婦が別居を選択したことは、聞いているぼくには、意地の張り合い、ボタンのちょったしたかけ違い、としか思えなかった。
彼女もその口から、
「わたしはさみしくて、とても一人で暮らすことは出来ない」
と、途方にくれていた。
けれど、どんどんと時間だけが経ち、とうとう彼女は広い高層マンションで一人、生活を初めることとなったのだった。



ぼくは怖かった。

なにより彼女は美しく、魅力的で、品があり、笑顔がステキだ。ぼくのように彼女に好意を持つメンズはいくらでもいるだろう。
それに、その頃には、彼女の深酒具合をぼくは度々目の当たりにしていたから、そのうち何か起きて、何かの拍子に男を連れ込んでしまうのではないか、と。
彼女は身持ちが硬い女性であった。が、淋しさに耐えられないのではないか。
ぼくはそんな事態を怖れて、より頻繁に彼女を飲みに誘うようになった。

そして、ついに、その日がやってきてしまった。