とりあえず汎用性は高く

色んなことを投稿するブログ。現在は「東方野球の世界で幻想入り」を投稿したり、きまぐれに日々のことについて綴ったり。

エクストラⅢ「キーパーソンの天人と記録員」

2011-07-20 23:42:34 | 東方野球幻想入り物語
前回の話

前回の話が1年前とか、どういうことなの?w



ここから~~

 案内してもらったブルペンは非常にきれいで、ホームベースは5つ、つまり、同時に5人の投手が投げ込みできるという場所だった。
 私は捕手の後ろ、ネット裏に陣取って準備を始めた。
 しばらくはメモを取りながら、選手の投球を観ていただろうか。
 そんなブルペンで事件はいきなり起きた。
「ちょっと誰かいないの?」
 突然、怒りの声が響いた。
 ん、と思って声のした方に目を向けると、イライラした様子の選手が一人。
 今のブルペンを見渡すと私以外には彼女しかいない。
 どうやら察するに捕手陣が一旦休憩に入ったため、たった今来た彼女の相手をする捕手がこの場にはいないようである。つまり、彼女は投げ込みをしたくてもそれができないという状況であった。
 私の方としては一通りの投手を見終わったので、すぐ移動する予定であったが、片づけをしているうちに彼女がやってきたようだった。
「私がやりましょうか?」
 思い切って私の方から声をかけることにした。
「誰よ、あんた? 何、相手をしてくれるの?」
「はい。腕に覚えがありますので」
 主に最近にかけて。しかも、研修現場はかなり高レベルの場でしたよ。
「本当? なら頼むわ」
 さっきまで不機嫌そうな表情だったのが、ぱっと明るくなる。
 態度・口調からして性格はきつそうだが、顔をよくよく見るとなかなか美少女であ――また、このパターンか。
 どうにも幻想郷はかわいい女の子が多いのだが、話をしてみるとやたら癖があるのばかりである。私を含む幻想郷にいる男性がこうやって甘やかしてしまうからつけあがるのであろうか。考察する余地はありそうだが、私自身やる気はない。誰か適当に調査してほしい。
「急いで準備してきて。道具はそこらへんにあると思うから、勝手に使ってくれいいわ」
 私が承諾すると美少女はテキパキと指示を出す。
「は~い」
 私はカバンの中からミットを取り出し、ベンチにあった捕手道具を身につけると、彼女の向かい側にあるホームベースへと小走り。
 そして、私のタイミングなんか関係なく、ミットを構えたらいきなり投げ始めた。
(え、ちょっと待って)
 危うくボールをこぼしそうになる。
 注意しようかと思ったが、彼女のボールを目の前で見えるという体験ができる手前、揉め事を起こすことは得策ではないと判断し、黙って返球した。こちらは肩すら暖まっていないので、山なりのボールだ。
 無言で受け取ると、フォームを確認するように、ゆったりとしたフォームで投げてくる。
 ただ、ボールは力強く、いい音を立ててミットに収まる。
 しばらくの間、キャッチボールと立ち投げをやった後、座るように言われた。
 本格的な投球練習が始まる。さてさて、どんな球を投げるのか。
 ま、立ち投げの段階でかなり速い球を投げていたので、速球派だと思っていた。
 これが実際に受けてみると印象も変わったりして、などと考えながらミットを構えると、「真ん中」とだけ私に伝え、プレートに足をかける。そして、思い切り投げ込んできた。
「!」
(バチーーーン)
 構えたミット向かって飛んできたボール。それはいつも使っているボールと同じなのだが、その衝撃たるは鉄の鉛が高速でぶつかってきたようであった。
 ――痛っ! そして、速っ。
「ナイスボール」
 とりあえず、そう言って返球する。
 なんとか捕球できたが、このボールはすごい。魔理沙さんとか速球派のボールは大分前から受けており、速い球を受けることには慣れているはずだった……。だが、そんな私でも今彼女の投げたボールが一番速かったと思う。
 おいおい、このボールを打つのか? これはちょっと厳しくないか。
「コントロールがいいわね。じゃ、もう少し力を入れるわ」
「…………」
 マジかいっ。
 まだ速くなるらしい。ああ、こんな球を放る投手をどうやって打ち崩そうか。
 そんな事を考えながら球を受けていた。

「次、90球です」
 球威の衰えないボールを受け続け、その数は百まで近づいていた。アップで投げた分まで含めると相当数のボールを捕り続けたことになる。
「投げ過ぎるなって言われたからな~。あと10球くらいで」
 ようやく終わりが見えてきた。本来の目的からしても、これだけ球筋を見られれば、十分である。
「わかりました。コースや球種はどうしますか?」
「1球ごとに言うから」
 彼女は実に嬉しそうに答えた。
 …………。
「ラスト、外角低めのまっすぐね」
「はい」
(ズドン)
「よし、終わり。今日は調子よかったわね」
 結局103球を投げ込んで、投球練習は終わった。余力はまだまだ残っているようで、最後の球が球威球速ともに一番だったと言ってくらいだった。
「でも、驚いたわ。私の球を簡単に捕り続けられるなんて」
「ま、なんとか」
 受けた感想を言えば、真っ直ぐは間違いなく一級品であることがわかった。
 一方で、変化球や制球と言ったものに欠点を見出せそうで、ポイントはここを如何に打つかにありそうだった。
 ただ、これが適度に荒れるとなると完璧に抑えられそうではある……。
「助かったわ」
「どういたしまして。ええっと……」
「名前? 『ひなないてんし』よ」
(ひなない……てんし……?)
 変わった名前の持ち主のようで、新しく加入した選手の名前が覚えやすいのはありがたい。ちなみに、漢字でどう書くのかを知ったのは大分後になってからである。
「どういたしまして、ひなないさん」
「そっちで呼ばれるのは慣れないから『天子』でいいわよ」
「では、天子さんで」
「ま、それでいいわ。他の人たちは私とキャッチボールとかやりかがらないんだけど、あんたは一体何者なの?」
「ええっと……」
 先程の姉妹とのやり取りもあったし、どうしようかなと思っていると――。
「じゃ、諏訪子様、お願いします」
「はいはい。お願いされたよー」
 早苗さんと諏訪子さんがブルペンにやってきた。
 早苗さんが天子さんに気付いたのか声をかけてくる。
「あ、今終わったんですか?」
「ええ。今日は、ね」
「すいません。捕手事情が厳しくて」
「別にいいわよ。ファンの人に受けてもらっていたから」
「ファン? ……どこにいます?」
「何言っているの、隣にいるで……って、消えた?」
 はい、消えました。物凄い勢いで逃げて今は物陰に隠れています。
「誰もいませんね」
 はい、そこにはいません。
「おかしいわね。さっきまでは確かにいたのに……」
 はい、さっきまではいました。
「…………」
「…………」
「何、その痛い子を見るような目は! いたのよ、本当に。今日は調子が良かったんだからっ」
 最後に、ふんっと言ってそのままブルペンを後にした。
 すまない。なんとなく早苗さんとはこうした形で顔を合わせるのは嫌だったんだ。
(数十分後)
「こんにちは~。お久しぶりです」
 さも知らないですよ、みたいな体で再登場。やはり、あの日リベンジを誓った早苗さんがどれ程の能力を身に付けたのか、間近でチェックしておきたかったのが理由である。
「…………」
 私の声に反応したらしく、偵察対象は無言で警戒度を強め、
「お、やっぱり来たね」
 早苗さんの投球を見守っていた神奈子さん――いつの間に現れたのか――の方はそれまでの厳しい表情を崩してくれた。
 そして、軽く挨拶をした後は、お互い視線を合わさず、早苗の投球を見ながら立ち話へと移行した。
「私がいたのは最初から知っていたのですか?」
「あの姉妹から君が来ているという話を聞いたしね。そろそろそっちから顔出してくれるんじゃないかなって思っていたのさ。君でしょ、天人のキャッチャーやってくれたのは?」
(バレてる)
 こちらから言おうかタイミングを計っていたところ、向こうはそんなことお見通しだった。
「ええ、ま~」
 私は少し気まずさがある返事をした。しかし、神奈子さんはちっともそんなことを気にしていない。
「速いだろ。白黒あたりにも負けていないはずだ」
「はい、おかげでまだ手が痛いです」
「天子の練習付き合ってくれてありがとう。おかげで助かったよ」
 逆に感謝される始末。
「あれ、怒らないんですか?」
 てっきり、色々と言われると思っていただけに、私は肩すかしをくらった。
「練習のお手伝いをしてくれたからね。役得だよ。ま、あのボールは受けたくらいではそう簡単に打ちこまれるものでもあるまい」
「確かに」
 相当自信のある発言だ。
「まだこのチームは人数も少ない。今回のような事態があったら、手伝ってくれるかい」
「いいですよ。それなら、早苗さんのボールも私が……」
「調子になるな」
「痛っ」
 さすがに、それはダメらしい。
「そうだよ。早苗は私が受けているんだから」
 声のした方を向くと意外な光景があった。
「あれ、諏訪子さんが捕手……?」
 プレイヤーなんだ……。今までの言動見ると、とても野球をやる感じではなかったけれど。
「そうだよ~」
 私と会話をしながら、諏訪子さんは早苗さんのボールと軽々とキャッチして見せた。
「おお、キャッチングもうまい。さっきのボールとか途中までストレートみたいで捕球が難しそう」
 途中からスッと落ちたから、こちらとしゃべりながら捕球するのは簡単ではない。
「でしょでしょ。このスライダーは捕るのに苦労したんだ」
「ふむふむ。あれはスライダーだったのか」
 素直に褒めたらあっさり情報をくれた。ちょろいもんだ。
「……はっ。かなこ~」
「全く何やってんだい。ほら、忠実くん、これ以上は投球練習の邪魔になるから」
「なんとかなりませんか?」
 私も必死に食い下がる。
「…………私としては別にいいんだが、向こうが手元を滑らせてしまいかねない」
「向こう?」
「た・だ・み・さん」
 私は神奈子さんの指差した方向に視線を移す。
 今はプレートの真後ろにいるから20メートルくらい離れているだろうか、そこにはマウンドで黒いオーラを纏った『何か』がいた。いや、何者なのか知っているはずだが、いつもと様子が違う。怖い。怖い、早苗さんマジ怖い。
「お疲れさまでした。失礼します」
 ということで、即逃げました。初日の視察はこれにて終了しました。

 ここからひたすら練習を視察する日々であった。
 ときに紅魔館から撮影機器を借り、打撃練習の様子を撮れば、塁上で行われる走塁練習をストップウォッチで計測し、ブルペンで投球練習となればスピードガンで球速を測る。
 練習後は過去の試合を観て、レミリアさんあたりと移籍組のデータの洗い直し。
 …………軽く死ねる。
 これを繰り返していくうちに、リーグ戦に先だって練習試合が組まれることになった。
 練習試合当日。開場から5時間以上も前。
 私はスタッフ専用のロッカーにいた。
 そろそろレギュラー組がアップに来るから、それに合わせて着替えを行う。
 久しぶりにアンダーシャツに袖に通し、最後に帽子を手に取った。
 もう二度と被らないと思っていた帽子。外の世界に帰ったら、押入れの奥に放り込む予定であったが、この帽子がその場所に落ち着くのはもう少し先のこととなりそうだ。
 着替えが終わり、時間を確認する。余裕があるようで少し休んでいても問題はない時間帯だ。
「は~」
 腰を落とすと溜息がもれた。
 着替えている最中は色んなことを考えていた。
 試合前ミーティングのこと。何を話そうか。移籍組とはどう接するべきか。一言目はどうしようか、無難に挨拶か。世間話をしてもいいか、避けられたらどうしようか。
 もちろん、今日の試合のことも頭に浮かんだ。先発予定は天子さんということになっているが、あの日受けたボール――あれをうちの選手たちは打ってくれるのか。ここで苦手意識を持ってしまうことや、相手の自信になるようなことがあったら、今後の戦いは不利な立場になりかねない……。
 悩みは尽きないし、まだどれに対しても答えは出ていない。
 半日もすれば試合は終わっているだろうが、その時の私はどういう気持ちでいるんだろう。今の不安を杞憂だったと笑っているのか、やはり的中したとへこんでいるのか。
「は~」
 先が思いやられ、再び溜息。
 そろそろ時間であることを確認し、私はロッカーの出口へと向かった。
 今日から再び始まる私のスコアラー業は不安だらけだった。

~~ここまで

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