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私の好きなものについて

映画 ■■レ・ミゼラブル■■

2013年01月06日 09時46分40秒 | 映画
映画鑑賞、今年第一作目は
「レ・ミゼラブル」



映画 ■■レ・ミゼラブル■■



yahoo映画の評価(2013年1/4現在) 4.4(5点満点)



今回は全部、ネタバレ感想です



この映画の元となったミュージカル(舞台版)
2回観たことあります。

1回目は日本で90年代に
初演からあまり年が経っていない頃だと思います

鹿賀丈史のジャンバルジャンと
村井国夫のジャベール
素晴らしかった

フォンティーヌは岩崎宏美か
元宝塚の女優さんか、記憶があいまい

野口五郎がマリウス
彼は何を歌っても「私鉄沿線」に聞こえた

当時は島田歌穂のエポニーヌが
とても評判になっていたけど
私が観たのは比企理恵さんの方
でも、彼女も素晴らしかった



日本版で一番印象に残っているのは
鹿賀丈史と村井国夫の素晴らしさ
二人の男の存在感と名演と歌唱力の対決

あとは、フォンティーヌの
子どもを思う心
一緒に観ていた友達はもう
フォンティーヌに感情移入してしまって
泣きじゃくって大変なことになっていた



2作目は、アメリカのブロードウェイ

役者さん達の名前は全部忘れてしまったが
日本版とは比べものにならない完成度だと思いました

歌唱力というか、迫力が全然違う...

そして、やはりフランスが舞台の作品
西洋の生活スタイルの中育った白人達が演じることで
物語のリアリティが感じられた
やっぱり、お茶漬けや漬け物食べてる
謙虚が美徳の日本人たちが
あの物語を演じるのは難しいと思いました



アメリカ版で一番印象に残ったのは
フォンティーヌの描き方が
日本版とは全く違っていたこと
衝撃的なくらい違うのだ



日本版フォンティーヌは
控えめで、はかなく、か弱く、けなげで
「守ってあげたいタイプ」なのです

90年代の日本では
こういう控えめな女性の方が
魅力的だと思われていたかな、と思います



一方アメリカ版フォンティーヌは
恐ろしいほど強い母親で
「子どもを守るためなら、何だってしてみせる!」
という覚悟に満ちている

身体を売る決断をする時も
悲しい運命に導かれ、仕方なく...とは見えない
自分の意思で選んでいるかのよう

子どものために
自分の手でしっかりと未来を選択して
自分の足で歩いて行く、自立した女性がいました

売春婦として生きる自分に
「でも、これは愛する子どものためなのだから!」
と、誇りを持っているかのような力強さ



日本版では
哀れで、はかなくて
それでも子どもを自分の命よりも大切と考える姿に
涙したのですが

アメリカ版フォンティーヌは
同情の涙も引っ込むというか
哀れむ必要が無いというか

まず第一に
ものすごいたくましそうで
殺しても蘇ってきそうなゴキブリのような生命力を感じて
(言い過ぎ?(;^ω^A)
呆れてしまいました

当時は違和感を感じたけど
今になってみると
とても魅力を感じる女性として
演じられていたな~と思います



さて、アン・ハサウェイのフォンティーヌですが
あまり「母の強さ」を感じませんでした

日本版のような
か弱いけれど、母親の芯の強さは持っている
最後の最後まで
子どものことをまず第一に心配している母親では
ありませんでした

そして、アメリカ版フォンティーヌのような
自分の足でしっかり立って
「子どもを守るためには
売春婦だって何だってやってみせる!」
という強い意志、強い母性もなく

ただただ、運命に翻弄され
嘆き悲しんでいる女性に見えました
母親の愛より、悲嘆ばかりが伝わってきたように思うのです
何だろう?
泣いてばかりみたいな?
運命や、周りの人たちを恨んでいるような?

フォンティーヌは確かに惨めな運命を生きているのですが
でも、日本版でも、アメリカ版でも
「全ては子どものため」と受け入れ、覚悟している姿に
聖母のような神々しさがあり
尊敬し、誇らしく思う気持ちが湧いてきました

子どもへの愛、母性が
痛い程伝わってきて
感動を呼ばずにはいられなかったと思います



アン・ハサウェイには
そういう感動があまり感じられませんでした



人によっては
「いや、痛い程母の愛が伝わって感動した!」
という方もいらっしゃると思いますが
...私が鈍感なのかも知れません



このストーリーは
◆フォンティーヌの子どもへの愛
◆ジャンバルジャンとジャベールとの対決
(倫理上の善と、法律・治安を守る善の対立)
◆コゼットとマリウスの恋
◆エポニーヌの行き場のない片思い
◆世の中の不条理に対する怒り(革命)
などなど
実にいろいろな要素が盛り込まれています

一つの映画で数本の映画を観ているくらいの満足感
これはやっぱり
ビクトル・ユゴーの原作が素晴らしく
本当によく練られている名作だからだと思います

エピソードの一つ一つが実によく磨かれていて
しかも、それらが少しずつリンクしていて
全体的に、非の打ち所のないくらい見事にまとまっています



今回の映画版で一番印象に残ったのは
ジャンバルジャンとジャベールの対決

「善」とは一体何なのか?と
とても考えさせられました。



ジャンバルジャンは
聖書の教えにも、法律にも、道徳にも背き
人の物を盗み、脱獄し、嘘をつきます

法律による裁きや、刑務所での贖罪を拒否し
逃亡を続けます

でも、彼の原動力となっているのは
最初のパンを盗んだ罪の時からいつも同じ
「人を助けたい、守りたい」という気持ち
人を労り、愛する気持ちです

法律に背いているという意味では悪人ですが
その行動は誰よりも人道的
倫理観の強い人間に見えます

実際彼の周りは感謝、信頼、尊敬に満ちています



一方、ジャベールは
「法律を守ること=善」という
絶対的な価値観に支配されています

ジャベールには人間としての暖かみがなく
罪人に対しては情け容赦ない
冷酷な死神のように見えます

そんなジャベールが
幸せであるとはとても見えません

そこで「法律=善=幸福」なのだろうか?
という疑問を感じました



ジャベールのように、一切の曖昧さを許さず白黒ハッキリさせ
罪人を罰していくことが
社会の幸福につながるのか?

ジャベールの信じる法律は
そこまで万全なものなのか?



実際、刑務所に服役することは
ジャンバルジャンに「憎しみ」しか与えず
犯した罪を反省させることは出来ませんでした

ジャンバルジャンを改心させたのは
法律ではなく
彼をかばうために嘘をついた司祭の方でした



善と悪の判断は非常に微妙で
社会のしくみには沢山の矛盾や
グレーなものが存在します

善と悪の中間、白と黒の中間
さまざまな矛盾を受け入れ、容赦することに
多くの人が共存していく道があるように思いました



ジャンバルジャンとジャベールの対決は
ジャベールが、自分のそれまでの信条に疑問を感じたことで
終わりを迎えます

自分の信条に矛盾を感じたとしても
そこから考え直して
また新しい自分を発見して生きていけば良いのに

「信条=自分自身」を失った今
死しかないと判断するところ
これまた、曖昧さを受け入れない
白か黒かしかないジャベールらしい決断だと思いました

グレーの中、混乱の中、迷いの中、矛盾の中
それでも生きていくという選択は
彼にはないのだな、と思いました



さて!



今回の映画で、特に印象に残ったのは
エポニーヌです

マリウスを痛い程愛しているけど
ただ、マリウスの幸せを思って
自分は身を引き
自分の気持ちは伝えない

そして、彼をかばって
自分は命を落とす

こういう所、実に日本人好みのキャラクターだと思います



アメリカ人だったら
「どうして好きなのに伝えないの?
誰に遠慮することもないのに」
と思う人が多いのではないかな?



詐欺と窃盗を生業にして
路上で生活しているエポニーヌが
愛するマリウス(育ちの良いおぼっちゃま)が
コゼットに恋していると知ったときのショック
自分と正反対(衣装や髪色も、白と黒で対照的)の
コゼットには、かなわないと一瞬で悟り

でも、コゼットを嫉んだり、憎んだり、嫌がらせしたり
悪戯な運命を罵ったりしないで
とても自然に、愛する人の幸せだけを願う

育ちや、暮らしぶりの劣悪さの中で
その気持ちはただひたすらにピュアで純白



「善き心」というのは
どうやって作られるのかな?
教育か、信仰か、環境か、生まれつきか
人との出会いか

そんなことをエポニーヌやジャンバルジャンを見て
考えました



最後に、「革命」について

舞台版ミュージカルを観たのは
いずれも90年代
バブルははじけたと言っても
日本はまだまだ景気が良く
デフレも始まっていなかった



それから20年近く経ったことになりますが
こんな風に経済状況が変わってしまうとは...



怠け者が職にあぶれ
生活に困るのなら理解出来るが...

一生懸命正直に働いている人は
その働きぶりに見合った生活を送る権利がある

盗みをしなくても
物乞いをしなくても
暖かい部屋で眠る毎日を送る権利は
みんなにある

そんな思いを強くしました



今、アメリカでも、ヨーロッパ各国でも
同じような怒りが湧きつつあるように思います



Do you hear the people sing?
Singing a song of angry men?




高らかに歌い上げる民衆の歌が
今という時代の空気とリンクして
20年前よりもより強く胸に響きました



やはり名作だな、と再認識した映画でした
更に、役者さんによって
観るときの社会情勢によって
自分の置かれている立場によって
誰に感情移入するか
どのシーンが印象的か
毎回変わってくる作品だな、と思いました



また舞台の方も観たいと思いました

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