「穴」 小山田浩子 著 2014年、第150回芥川龍之介賞受賞作品
夫の転勤にともない、夫の実家のとなりにすむことになった妻がひと夏のあいだに体験した不思議な話です。
主人公のあさひが謎の黒い獣を追いかけるうちに穴に落ちて、それから彼女は奇妙な体験をします。
作者が女性ということもあり、女性ならではの視点で主人公のあさひの働くこと働かないことについての気持ちや考えや、女としての役割等がよく描写されていると思いました。
男の自分が読むと、作者の感性にただただ感心します。「ああ、女性はそのように考えるのかっ」て勉強になります。
また、文章が余計な修飾語を多用しない「~た。」で終る簡潔な短文の繰り返しなので、テンポよく読めるのも良いと思います。芥川龍之介の文調をよく意識しているのだと思います。 ただ芥川作品と比べてしまうと少し物足りなさを感じます。例えば1920年 大正9年の芥川作品「南京の基督」は極貧の春を売る梅毒に罹ってしまう少女の話であり、「羅生門」では死体の髪の毛を引き抜き、それを売ることによってギリギリ糊口を凌いでいる老婆が登場します。いずれも生きていく為にはそうせざるを得ない極限状況の中での人間性が生々しく書かれています。ジャンルは違えども、もう少し登場キャラに人間性や個性を感じられたらと思ってしまいました。
ところでドラマ化するなら個人的には竹内結子さん主演でやってほしいですね。
アニメ化するなら日常の細かなことや心理の微細を描かせたらこの人の右に出る人はいないジブリの高畑監督に作品をつくってほしいですね。
声優はこれまた竹内結子さんがいいと思っています。
竹内結子さんがいいと思う理由は この小説が黄泉返り的内容でもあるからです。「今、会いに行きます」「黄泉がえり」の映画では感動させていただきましたので。
細かい心理描写はそぎ落とさなければなりませんが、話の筋だけを抜き取って「世にも奇妙な物語」としてショートドラマをつくってみても面白いと思います。
この本にある別の作品、子どもがいない40代夫婦の話である「いたちなく」 こちらの作品も読んだあとなんとも言えない余韻が残りました。とてもいい作品でした。
とても厳しい評価でした。 「つまらなすぎる。どうしてこれが芥川賞なのか理解出来ない。 本代と時間が勿体ない。内容に奥深さや読んだ後の余韻がまるでない。」 との事でした。ホント何に対しても評価が厳しい人です。他の作品についてもあまり褒めたところを見たことがありません。 しかし、妻は速読で読むタイプで例えるなら、特急列車で目的地に向うタイプの人です。 自分は鈍行列車でのんびり思索に耽りながら旅するタイプ。 自分は読みながら何度も立ち止まり、前記に記したような自分なりの仕立て、構成などをして楽しみました。例えば添付したイラストも「自分だったらこんな表紙にするのに」って想像したものです。 あの(実際の)表紙はミステリアス感があっていいかもしれませんが地味すぎると思います。「芥川賞受賞」っていう帯がついてなかったら、なかなか本を手にとってみる人はいないのでは?と思います。 ところで小山田さんの文章から自分の中に投影された情景はなぜか三丁目の夕日のような淡いセピア色のノスタルジックな世界でした。何処からともなく子供達がわさわさ出て来るシーンが心地よい余韻として自分の中に色濃く残っています。