のほほんとしててもいいですか

ソプラノ歌手 佐藤容子のブログです。よろしくお願いいたします!

創作『宵待草』

2008-04-12 | 『創作・短いお話』












『待てど 暮らせど 来ぬ人を

宵待草の やるせなさ

今宵も 月は 出ぬそうな 』











『寒い…』







春とは言え夜はまだ冷えた。



少しばかり風も出てきたようだった。





薄暗闇に場違いのように黄色い水仙の花が笑いかけていた。









この少し寂しくて、でもきっと現れてくれると待ちわびる時間は楽しい…





彼はまだ来ない…





来るわけがない…







彼がこの世を去ってから、もうかなり経つ。





亡き人は心の中に住み続けて、私のすべてになっていた。






人はその足枷を取り除いて自由になれ、幸せになれ、と言う。






幸せを知っているのか…?




山菜採りに行くことやら、日本中歩いて廻ること…




約束したことがいろいろある…





私は幸せだ。




彼との約束が残っていた。





彼をじっと待つこの行為が本当の悲しみを掻き消してくれる。









待ち続けよう、月の夜も、月のない夜も。





そうやって、幸せな時間を重ねよう。






大きな悲しみに浮かぶ大きな幸せ。





心の暗闇に月の薄い光は讃美歌のように降った。





眠りに腕を引かれて、ゆっくりと窓を閉めた。







《おわり》






















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