目の前に、上りの電車がゆっくり
入ってきて、停まった。ふたりと
っも、まるで申し合わせしたよう
に、立ち上がらなかった。
さっきから、帰りの電車を一本、
もう一本、と、遅らせていた。
ひとたび電車に乗ってしまえば、
ふたりの時間は数分後には終わる
と、わかっていたから。
「じゃ、今から行こう」
いつになく、強い口調だった。
「今から?どこに?」
愛おしい人はわたしの手を取ると、
改札に向かってずんずん歩き
始めた。わたしの手を取ると、
改札に向かってずんずん歩き
始めた。
わたしの手は炎のように熱く、
優しい人の手は真冬の月のよ
うに冷たかった。
まるで私の欲望を鎮めようと
するかのように、優しい人は
力を籠めて、わたしの手を握
りしめていた。
わたしたちは激しく、求め合
っていた。けれどもそれを言
葉で確かめるということは
しなかった。確かめなくても、
わかり過ぎるほどに、わかって
いたから。
入ったばかりの改札を通り
抜けて、わたしたちは駅の
外に出た。
駅前の大通りまで出てから、
優しい人は右手を上げて、
流しのタクシーを拾った。
タクシーに乗り込むと、優
しい人は運転手に向かって
告げた。
「休めるところまでお願い
します。できるだけ、遠い
ところで」
そんな言い方をしても、運転
手は一組の男女をどこかに
連れていってくれるものなの
だということを、わたしは初
めて知った。
ひとつしか年の違わない優
しい人が、ひどく大人びて
見えた。
車のなかでも、わたしたち
は固く、手を握り合ったま
まだった。
YouTube
シャドー・シティ
https://www.youtube.com/watch?v=8cb5QRsi-B0
入ってきて、停まった。ふたりと
っも、まるで申し合わせしたよう
に、立ち上がらなかった。
さっきから、帰りの電車を一本、
もう一本、と、遅らせていた。
ひとたび電車に乗ってしまえば、
ふたりの時間は数分後には終わる
と、わかっていたから。
「じゃ、今から行こう」
いつになく、強い口調だった。
「今から?どこに?」
愛おしい人はわたしの手を取ると、
改札に向かってずんずん歩き
始めた。わたしの手を取ると、
改札に向かってずんずん歩き
始めた。
わたしの手は炎のように熱く、
優しい人の手は真冬の月のよ
うに冷たかった。
まるで私の欲望を鎮めようと
するかのように、優しい人は
力を籠めて、わたしの手を握
りしめていた。
わたしたちは激しく、求め合
っていた。けれどもそれを言
葉で確かめるということは
しなかった。確かめなくても、
わかり過ぎるほどに、わかって
いたから。
入ったばかりの改札を通り
抜けて、わたしたちは駅の
外に出た。
駅前の大通りまで出てから、
優しい人は右手を上げて、
流しのタクシーを拾った。
タクシーに乗り込むと、優
しい人は運転手に向かって
告げた。
「休めるところまでお願い
します。できるだけ、遠い
ところで」
そんな言い方をしても、運転
手は一組の男女をどこかに
連れていってくれるものなの
だということを、わたしは初
めて知った。
ひとつしか年の違わない優
しい人が、ひどく大人びて
見えた。
車のなかでも、わたしたち
は固く、手を握り合ったま
まだった。
YouTube
シャドー・シティ
https://www.youtube.com/watch?v=8cb5QRsi-B0