四十六歳になる婦人が乳がんと
診断され、しかも手遅れで、あ
と数か月の命と宣告された。
婦人は、父親の故郷である山口
に旅し、旅から戻ると、大学生
と中学生の二人の息子に向けて
自分の生い立ちや生き方などを
書き綴った。そして、母親がい
なくなっても困らないようにと、
息子たちに料理を教えた。
「交通事故で突然死ぬことを考え
れば、むしろありがたい、やるべ
きことはすませられるだから」と、
気丈に自宅で闘病生活を送った。
最期の一か月は、美しい母親と
しての思い出を残したいから
日々衰える姿を見せたくないと、
息子たちの病室への入室を禁止
した。
やがて婦人は亡くなり、地元紙
の広告欄には、訃報とともに
「この度、私は病気により急ぎ
旅立つことになりました。・・・
皆様に、心からお礼を申し上げ
お別れをしたいと思います」
という自筆のお別れの言葉が
掲載された。
誰にも死は訪れます。取り乱して
いたずらに時を過ごすのではなく、
死をきちっと見据え、
自分はこれだけのことをしたと胸
を張れるように、今をしっかりと
生きたいものです。