愉しむ漢詩

漢詩をあるテーマ、例えば、”お酒”で切って読んでいく。又は作るのに挑戦する。”愉しむ漢詩”を目指します。

閑話休題361 金槐和歌集  春3首-3 鎌倉右大臣 源実朝 

2023-08-31 09:45:23 | 漢詩を読む

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鶯の初声を聞くと春の訪れを実感します。特に、鶯にとっても“初鳴き”でしょうか、“ケキョッ”と一節、発声練習と思われ、遠慮がちに詠っています。やがて“ホーホケッキョ”と澄んだ、よく透る声、続いて “ケキョッケキョッケキョッ……”と、“谷渡り”の忙しい声で春の深まりを知ります。

 

oooooooooo 

  [詞書] 春のはじめの歌 

山里に 家居はすべし 鶯の 

  鳴く初声の 聞かまほしさに  (『金槐集』 春・7)

 (大意) 鶯の初音が聞きたさに 山里に家居をしよう。

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<漢詩> 

欲聞鶯初音    鶯の初音を聞かんと欲す   [下平声八庚韻] 

余可住山里, 余(ヨ) 山里に住む可(ベ)し, 

遠離熙攘城。 熙攘(キジョウ)なる城(マチ)より遠く離れて。 

幽幽恬静処, 幽幽(ユウユウ)たり恬靜(テンセイ)なる処, 

為賞喨初声。 喨(ヒビキワタ)る初声を賞(ショウ)せんが為に。  

 註] 〇熙攘:人の往来が盛んである; 〇幽幽:静かで奥深い; ○恬静:環境が静かである; ○賞:鑑賞する、愛でる; 〇喨:(声や音が)高らかに響き渡る。

<現代語訳> 

鶯の初鳴きが聞きたい 

私は山里に住もうと思う、

騒々しい街から遠く離れて。

山奥の静かなところ、 

高らかに響く鴬の初鳴きを聞き、愛でるために。

<簡体字およびピンイン> 

   欲闻莺初音   Yù wén yīng chū yīn  

余可住山里, Yú kě zhù shānli,   

远离熙攘城。 yuǎn lí xīrǎng chéng.    

幽幽恬静处, Yōu yōu tiánjìng chù,      

为赏喨初声。 wèi shǎng liàng chū shēng

oooooooooo  

 

掲歌の参考歌として、次の歌が挙げられている。“春・鶯”は、万葉の頃からよく歌の題材にされていたことが窺えます。

 

梓弓 春山近く 家居して 

  絶えず聞きつる 鶯の声 (山部赤人 『新古今集』 巻一・春歌上 0029) 

(大意) 春の山近くに住んでいて、絶えず聞いていたよ鶯の声を。

 

梓弓 春山近く 家居れば  

継ぎて聞くらむ 鴬の声 

(大意) 山近くに住んでいて、春になるとひっきりなしに鳴く鶯の声を聞いていることしょう。 (作者不詳 『万葉集』 第10巻 1829番) 

 

初声の 聞かまほしさに 時鳥 

  夜深く目をも さましつるかな 

  (大意) 時鳥の初声を聞きたいばっかりに 深夜にも目を覚ましています。

(よみ人知らず 『拾遺集』 巻二・夏・96) 

 

 

zzzzzzzzzzzzz -2  

 

この歌での花は“梅”である。実朝は、梅、桜、月を好んだようで、中でも梅の花の歌は多い。3月末のころ勝長寿院にお参りした際に詠われた歌で、梅はすでに散った後であると知って、ボヤいています。

 

oooooooooo 

[詞書] 三月の末つ方、勝長寿院に詣でたりしに、ある僧、山影に隠れるを見て、花はと問いしかば、散りぬとなむ答え侍りしを聞きて詠める。 

行きて見むと 思いしほどに 散りにけり 

  あやなの花や 風立たぬまに  (『金槐集』 春・83) 

 註] 〇あやな:不条理な、道理・理屈に合わない、理由がわからない。

 (大意) 行って見ようと思っている間に散ってしまっているよ 風が立っているわけでもないのに 何と条理の解らぬ花よ。

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<漢詩> 

  錯過看花   花を看(ミ)錯過(ソコナ)う   [去声十五翰韻]  

独是欲尋看, 独(タダ)是(コ)れ 尋(タズ)ね看(ミ)んと欲するに, 

無端何已散。 無端(ハシナ)くも何ぞ已(スデ)に散りたる。 

至今風不起, 今に至(イタ)るまで 風は不起(オコラヌ)に, 

花也條理断。 花也(ヤ) 條理を断つか。 

 註] ○錯過:(時期を)逸する; 〇無端:思いがけなく; 〇條理:道理、秩序。 

<現代語訳>

  花を見損なう 

ただに訪ねて来て、見ようと思っていたのだが、

思いがけなく来てみると、既に散っていることを知った、何たることだ。 

このところ、風が立っていたわけでもないのに、 

道理を解さない花だよ。 

<簡体字およびピンイン> 

  错过看花      Cuòguò kàn huā 

独是欲寻看, Dú shì yù xún kàn, 

无端何已散。 wúduān hé yǐ sàn.  

至今风不起,  Zhì jīn fēng bù qǐ, 

花也条理断。  huā yě tiáolǐ duàn.   

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勝長寿院は、頼朝が父・義朝や源氏一門の霊を祭るために建てた寺院であるが、今日、廃寺となって存在しない。1204年(実朝13歳)3月27日に勝長寿院に詣でたことが、吾妻鑑に記録されている、ただ年齢から推して、掲歌がその折の詠作とは考え難いが。以後も度々訪れ、時には歌会も催されていたのではないか。

 

次の歌は、掲歌の参考歌であろうとされている。

 

起きて見むと 思いしほどに 枯れにけり

露よりけなる 朝顔の花  

 (曾祢好忠 『新古今和歌集』 巻四・秋上・343)

 (大意) 朝に、見ようと思って起きてきたら、朝顔の花はすでに枯れていた。露は命の短いものと思っていたが、枝葉に置くその露よりもさらに命の短い朝顔の花だよ。

 

zzzzzzzzzzzzz -3  

 

春の嵐に吹き倒されんばかりの山吹の花を目にして、何とかならないものか と思案するも、後に花が萎れていくのを眺めているだけの自分の無力さに、戸惑いを感じているように思われる。

 

ooooooooo 

  [詞書] 款冬(カントウ)に風の吹くをみて

我(ワガ)こころ いかにせよとか 山吹の 

  うつろふ花に あらし立つらむ   (『金槐集』 春・101) 

(大意)私の心をどうせよといって、山吹の花を散らす嵐が起るのだろうか。 

註] ○款冬:ヤマブキ(山蕗)/ツワブキの異名(後[注記]参照); 〇うつろう花:花のちりがたになっているのをいう,移ろう。

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<漢詩>

   棣棠逢春嵐   棣棠(テイトウ) 春嵐に逢う     [去声六御韻] 

寧知風暴起, 寧(イズクンゾ)知らん 風暴(フウボウ)起る,

若問魂何處。 魂(ココロ)は何處(イズコ)にと問うが若(ゴト)し。

豈堪花対此, 豈(アニ)堪(タ)えんか 花 此れに対す,

空自凋謝去。 空(ムナシ)く 自(オノ)ずから凋謝(シボミ)去らん。

 註] 〇棣棠:山吹([注記]参照); 〇寧知:どうして…知ろうか; ○風暴:嵐、暴風雨; 〇凋謝:(花や葉が)凋み落ちる。

<現代語訳> 

  山吹の花 春嵐に逢う 

どうしてか知らないが 嵐が起こり、

君の心はどこにと問うているようだ。

山吹の花は 嵐に対して、耐え得るであろうか、

花は萎れて落ちていくであろう。

<簡体字およびピンイン> 

   棣棠逢春岚   Dìtáng féng chūn lán 

寧知風暴起, Níng zhī fēngbào qǐ,,  

若问魂何处。 ruò wèn hún hé chù.

岂堪花对此, Qǐ kān huā duì cǐ,  

空自凋谢去。 kōng zì diāo xiè .  

ooooooooo 

 

歌の中で「やまぶき」が何を意味するか曖昧である。漢詩化に当たっては、木性の“山吹”と理解して進めた。すなわち、太田道灌と言えば出て来る:「七重八重花は咲けども山吹の実の一つだになきぞ悲しき(兼明親王)」 の“山吹”である。

 

[注記]

歌中の「やまぶき」について、“山吹”、“山蕗”、“棣棠(dì táng)”、“款冬(kuǎndōng)”等々、書物によって、その表記が異なっている。ちなみに、“山吹”および“棣棠”は、バラ科ヤマブキ属、低木である。一方、“山蕗”および“款冬”は、キク科ツワブキ属の多年草であり、“ツワブキ”とも呼ばれる。

 

この混乱が実朝の原著によるのか、あるいは、後世、書写を繰り返すうちに当て字が当てられていったのか、不明である。外国語に翻訳するに当たっては、誤解を避けるべく、混用は不可として、独断で木性の“山吹”として進めた。

 

次の歌は、実朝の掲歌の参考歌として挙げられている。

 

 [詞書] 後徳大寺左大臣家に十首哥よみ侍けるによみてつかはしける 

我こころ いかにせよとて ほととぎす 

  雲間の月の かげに鳴くらむ 

         (皇太后宮大夫俊成 『新古今集』 巻三・夏・210) 

 (大意) 我が心をどうせよといって、雲間の月明かりの下でホトトギスが鳴いているのであろうか。

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