goo blog サービス終了のお知らせ 

愉しむ漢詩

漢詩をあるテーマ、例えば、”お酒”で切って読んでいく。又は作るのに挑戦する。”愉しむ漢詩”を目指します。

閑話休題407 漢詩で読む『源氏物語』の歌 (二十三帖 初音)

2024-06-10 09:34:53 | 漢詩を読む

 【本帖の要旨】新しく築造された六条院に初めての正月がめぐってきました。新春の六条院は、玉を敷いたといってよいほど栄華に満ちていた。紫の上が棲む春の町は庭の梅が咲き誇り、この世の極楽の趣きであった。源氏は春の御殿で紫の上と年賀を祝った後、他の女君の御殿へと出かけ、歌や贈り物を交わします。

 

同じ春の町にいる明石の姫君のいる居室にいくと、実母の明石の上からの贈り物が届いている。よい形をした五葉松の枝に作り物の鶯を止まらせた州浜(スハマ)*で、それに歌が添えられていた:

 

  年月を まつに引かれて 経る人に 

    今日鶯の 初音聞かせよ  (明石の上)  

 

源氏は胸に沁(シ)みる思いがして、正月ながらもこぼれる涙をどうしようもないふうであった。母・明石の上は、六条院に越してきてはいたが、まだ娘と対面はしていなかったのである。夕暮れには明石の上を訪ねるが、明石の上は、姫君からの返歌を読み、想い乱れている様子であった。その日源氏は、そこに泊まります。

 

翌日は、源氏の許には多くの客が新年のあいさつに訪れるが、玉鬘(タマカズラ)の美貌に気もそぞろであった。その後、二条東院の末摘花、空蝉らを訪ねます。儀式が一段落して、今年は男踏歌が行われて、六条院に住む女性たちが対面する。これを機に、女楽(オンナガク)を開催することを源氏は考える。

 

本帖の歌と漢詩:

ooooooooo   

 年月を まつに引かれて 経る人に 

   今日鶯の 初音聞かせよ  (明石の上)

  [註] 〇まつ: “松”と“待つ”の掛詞。 

  (大意) あなたが大きくなるのを待ち焦がれて年月を過ごして来た私に 

   新年の今日は鶯の初音(初便り)を聞かせてください。 

 

xxxxxxxxxx  

<漢詩> 

  母愛         母の愛        [下平声九青-下平声八庚通韻] 

分開幾歲経, 分開(ワカレ)て 幾歲(イクトシ)経(ヘ)りしか, 

離思一盈盈。 離思(リシ) 一(イツ)に盈盈(インイン)たり。 

元旦子恭喜, 元旦 子(ネ)の恭喜(メデタ)き日, 

願其鶯初鳴。 願うは其れ 鶯の初鳴(ハツネ)。 

 [註] ○分開:別れる; 〇離思:家族と離れた寂しいおもい; 〇盈盈:

  情緒・雰囲気などが溢れているさま; 〇恭喜:“おめでとう”の意。    

<現代語訳> 

 母の愛情 

お別れして幾年月が経ったであろうか、

離れて暮らす思いが胸いっぱいに満ちている。

元旦で子の日という目出度い今日こそは、

願うはただ、鶯の初音を聞かせてください と。

<簡体字およびピンイン> 

  母爱    

分开几岁经, Fēnkāi jǐ suì jīng,   

离思一盈盈。 lí sī yī yíngyíng. 

元旦子恭喜, Yuándàn zi gōngxǐ,   

愿其莺初鸣。 yuàn qí yīng chū míng.  

ooooooooo   

 

源氏は、「返事は自分で書きなさい」と言い、硯の世話などやきながら姫君に書かせた。歌が書けるほどに成長しています。姫君の返歌:

 

引き分かれ 年は経れども 鶯の  

   巣立ちし松の 根を忘れめや (明石の姫君)  

  (大意)お別れして、ずいぶん年月が経ちますが、私・鶯が何で巣立った

   松の根を忘れることがありましょうか。 

 

可愛い姿で、毎日見ている人でさえ誰も見飽かぬ気のするこの姫君に、別れて以来今日まで母親に逢わせてやっていないことは、真実な母親に罪作りなことであると、源氏は心苦しく思うのであった。

 

 

【井中蛙の雑録】 

○二十三帖 初音での光源氏 36歳正月。

○女楽:女だけ、またはおんなが中心となって演奏する音楽。

*州浜とは:州浜台の略;州浜台は、州浜形にかたどって作った台。木石・花鳥などの景物をあしらい、宴会などの飾り物としたり、婚礼・正月などの料理を盛るのに用いた。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする