(成長ホルモン治療の実際)
プラダー・ウィリー症候群の治療で、肥満防止を目的に成長ホルモン剤を使うことがあります。
ですが、身長が一定伸びてしまうと自己負担の軽減策が打ち切られるケースがあるようです。身長だけを物差しに切り捨ててもよいのでしょうか。プラダーだけではありません。成長ホルモン剤を使うほかの病気でも、厳しすぎる制度によって、毎月数万円の自己負担を強いられるケースが出ています。
成長ホルモン剤は、背を伸ばすホルモンとして、長年、身長が低いお子さんの治療に使われてきました。それが、ほかの病気にも効果的なことが分かり、あとから、適用範囲が広がった歴史があります。プラダー・ウィリー症候群も後から追加された疾患です。
病名が確定して、小児慢性特定疾患の認定基準を満たしていれば、健康保険に加えて医療費の助成を受けることができます。プラダーの場合、背丈順に1000 人並べたとして、前から23 番目程度の低身長(-2.0SD以下)ならば、適用になります。
成長ホルモンが多すぎると、糖尿病になりやすいものですから、医師は患児を慎重に診療したうえで、肥満解消を狙います。実際、制度の通達には、「過度の肥満が有害事象のリスクを増大させることが知られているので、有害事象の発現のないよう細心の注意を払って慎重かつ安全に治療を行う必要がある。この過度の肥満の目安は別添3に示す体重(年齢階級別性別身長別標準体重の+90%値)とし、この値を参考とされたい」と書かれており、「過度の肥満」を防ぐための治療であることは、政府も認めています。
それでも、身長が一定伸びてしまうと、事業の対象ではなくなり、自己負担が強いられるでしょう。
肥満解消へ医師が必要だと判断しても、制度の対象から外れる。身長の物差しだけで、機械的に適用を判断するケースが想定されますが、おかしくないでしょうか。
研究が進んで、成長ホルモンは、体内の物質をエネルギーに変える代謝ホルモンであることが分かっています。今では、成長ホルモンが欠乏する大人の患者にも、
・身体組成の改善
・骨密度の増加
・生活の質の向上
を目的に使用されています。
成長ホルモンは、小児期でも代謝調節や体の成熟に必要不可欠のホルモンであり、背丈だけで、その子どもの運命を決めるべきではありません。肥満解消など治療の目的と実態に沿った基準へ、現場の医療関係者の意見を尊重しながら、検討しなおしてほしいのです。
成長ホルモン剤の乱用はあってはいけませんが、厳しすぎる制度のため、子どもが必要な治療を受けられないとすれば、何のための制度か分からなくなるのです。
(プラダー・ウィリー症候群協会より参照)