暗い表情で彼は、
「でも、愛人の子の更に子供なんてやっぱりお偉いさんには、黒歴史だよなぁ」
俺は本当に言葉がない。しかし、それは彼のせいではないのだ。だから、何となく味方をしたくなって、
「でも、日本は男社会だったから歴史的にそういうのを認めてきましたよね。今だって直系の世襲もどうかと思いますけど、亡くなった議員さんの親戚だから後継にするとか…」
「あれは不思議だよね…」
でも、出馬しないのなら彼はそんなこと気にしなくていいのではとも俺は思うのだったが、彼の苦労を考えれば複雑な思いがあるのも事実だろう。
二人とも黙り込んでしまったところで、彼は前を向いたまま、
「海原くんて全くの1人暮らしなの?」
「はい」
痛い所を突かれたとと思いながら、
「はい、寂しい1人暮らしですよ。全くの」
と苦笑いするしかなかった。
すると、彼はいきなり明るく、
「僕と同じだ、でも本当は彼女とかと暮らしてるとか友達とシェアしてるとかないの?」
と、いたずらっぽい笑顔で俺の横顔を見てくる。
休みの日なんかにしか寂しく思わない俺も冗談っぽく、
「本当に1人、です」
と答えて、社長、プライバシー侵害です、と返すと、彼は、
「今日これから時間ある? 俺の家に来ない? 一緒に飲まない?」
と誘ってくる。
1人ぼっちのご飯は味気なくて…と泣きマネで俺の笑いも誘い、彼も大笑いしていた…何だか俺は嬉しくなった。
彼の部屋はちょっと高級なマンションの二階だ。
彼の担当者は警備のために一度入っていたのだが、俺だけはどうしてか入れてもらったことがなかった。
「まあじっくり見てって。海原くんにも警備頼むかもしれないし」
部屋は広めの三LDKで、さらには仕事が趣味ということなのか、最低限しか物がないシンプルな部屋だった。