と、電話を切ると高橋さんからと彼はいたずらっぽい目で俺に笑いかけてきた。まるで大人の束縛から逃れたことを喜ぶ子供のように。俺を仲間と思ってくれているようで嬉しかった。王子様のご学友にでも選ばれたような、経験したことのない楽しさだった。
その後、俺は下のフロアで30人位の社員に「新規事業の企画立案に協力してくれる技術者」として紹介された。
「今日からはこちらの海原さんも社長室で作業することになったので、みんなよろしくお願いします」
疑う様子もなく、若いみんなは温かく俺を迎えてくれた。
彼が俺を連れて行ってくれたのは、近くの新しいビルの中の、有機野菜がメインのレストランだった。ランチにしてはお高めのようだったが明るい窓際の席で向かいあうと、
「コンビニ弁当になりがちだからたまにこういうところに来るようにしてるんだよね」
…気づけばここまで彼のペースで来てしまった。もう自分の仕事は始まっているのにと俺は反省する。その沈黙を彼は誤解したらしく、
「いや、うちの会社は小さいけどブラックじゃないよ。福利厚生だって頑張ってるんだから」
この人はふくれっ面まで…可愛い…
そう思ってしまう自分が怖い…悟られないようにしなければ、とドキドキする。
目の前の彼は男性なのに。
今日はこれまでにない感覚ばかり。それだけにこんなのんびりした時間に彼が襲われでもしたら、と考えると胸が痛んだ。
いつも以上に可能性が多いからだ。