「傾国のラヴァーズ」

ボディーガードの翔真は訳有の美青年社長・聖名(せな)の警護をすることに…(閲覧者様の性別不問) 更新情報はX🐦にて

「傾国のラヴァーズ」その5・彼とのドキドキランチ

2022-10-27 22:20:00 | 傾国のラヴァーズその1~10
 と、電話を切ると高橋さんからと彼はいたずらっぽい目で俺に笑いかけてきた。まるで大人の束縛から逃れたことを喜ぶ子供のように。俺を仲間と思ってくれているようで嬉しかった。王子様のご学友にでも選ばれたような、経験したことのない楽しさだった。
 その後、俺は下のフロアで30人位の社員に「新規事業の企画立案に協力してくれる技術者」として紹介された。
「今日からはこちらの海原さんも社長室で作業することになったので、みんなよろしくお願いします」
 疑う様子もなく、若いみんなは温かく俺を迎えてくれた。

 彼が俺を連れて行ってくれたのは、近くの新しいビルの中の、有機野菜がメインのレストランだった。ランチにしてはお高めのようだったが明るい窓際の席で向かいあうと、
「コンビニ弁当になりがちだからたまにこういうところに来るようにしてるんだよね」
 …気づけばここまで彼のペースで来てしまった。もう自分の仕事は始まっているのにと俺は反省する。その沈黙を彼は誤解したらしく、
「いや、うちの会社は小さいけどブラックじゃないよ。福利厚生だって頑張ってるんだから」
 この人はふくれっ面まで…可愛い…

 そう思ってしまう自分が怖い…悟られないようにしなければ、とドキドキする。
 目の前の彼は男性なのに。
 今日はこれまでにない感覚ばかり。それだけにこんなのんびりした時間に彼が襲われでもしたら、と考えると胸が痛んだ。
 いつも以上に可能性が多いからだ。



「傾国のラヴァーズ」その4・ボディーガード

2022-10-26 22:37:00 | 傾国のラヴァーズその1~10
 そうなのだ。
 この人は成田貞次のたった一人の孫なのだ。

 成田の正妻には娘が一人いるだけで、その人は父親の愛人に失望して婿は取らず他家へ嫁ぎ、子供はいない。だから今は成田の姓ですらない。
「成田の苗字は、遠い親戚に養子縁組で会長が手に入れるみたい」
「今の鈴崎の苗字もいい苗字と思いますが…選挙ならやっぱり成田の苗字で、ってなりますよね」
「うん。でも僕はもちろん政治家になる気はないし」
 それなのに矢野会長はどうしてボディーガードなんかつけることにしたのだろう。
 そんな俺の気持ちを読みとったかのように、
「矢野会長も何を考えてるかわからない。駆け出しのベンチャーの社長にボディーガードつけるなんて」
「無言の圧力でしょうか」
俺がそう言うと、彼もにやりと笑い、
「やっぱりそう思う?」
 彼の笑顔は本当に優しく美しく人懐っこかった。

 いつの頃からか、日本では総理大臣にまで庶民はルックスの良さを求めるようになっている。最近では能力の無さそうな世襲議員に対してもだ。そんなことが頭がよぎる。
 
 と、
「僕の笑い方、変?」
「いえ…社長はイケメンだから選挙には勝てそうだなって」
彼は大笑いして、
「そんなこと言っても何も出ないよ。でも今日のランチくらいはごちそうするよ」
 訳もなく、やっぱり友だち関係になれたらいいのになと俺は思った。

 その時、社長席の内線電話が鳴った。
「はい。昼は海原くんと<あぐりランチ>で食べてくる」




「傾国のラヴァーズ」その3・闇の三代目

2022-10-25 18:26:00 | 傾国のラヴァーズその1~10
 その後が、この彼本人の苦労と実は俺は聞いてきたのだが…

「母は遊び足りない女の子で、子育てなんか全然できなくて、とうとう祖母に泣きついたそうなんだけど、祖母も成田先生との生活優先で母のことはお手伝いさん任せだったからできなくて。そのうち、母は諦めて僕を家に置いたまま出かけるようになって。夫と、とか、離婚の後は色んな男友達とか、二人目のダンナとかと」

 本人は淡々と話すが、聞いている方は気の毒で仕方なくなる。

「で、前から僕が家で一人で泣いてるのを知ってた近所の人がその日はとうとう警察に……警察に連絡してくれて。で育てられないって母と祖母でオレを押し付けあって…」

 結局、彼は児童養護施設に入ることになり、その後小学校入学の前に里親に引き取られた。
 この里親たちの存在が、俺には不透明だったので単刀直入に訊いてみた。
「その方が矢野さん?」
「そうそう、でも親戚じゃないんだ。祖父の後援会長だった矢野さんの長男夫婦。会長夫妻は高齢だったから」

 里親の二人のことはおじさん、おばさんて呼んでた。息子が二人いたんだけど、もう独立してて、たまにしか会えなかった。でもみんな優しかった。

「でも僕は、他人の家にいるのが申し訳なくて、中学を出たらどうにか働いて独立するつもりだった。そしたらその家の大人みんなが、せっかく成績がいいんだから大学行け、協力するって言い始めて。矢野会長がお金は自分が出すって断言して。祖母も母もその話に乗ってしまって」

「どのロが言ってるって僕は思った。でも僕は勉強が好きで大学への憧れもあったから、学費は大人になってから返すつもりでその話に乗ることにしたんだ」
 そしたら、上座に座ってた会長が、
「頼んだよ。成田先生の跡取りは君しかいないんだから、って」



「傾国のラヴァーズ」その 2・寂しい生い立ち

2022-10-24 20:25:00 | 傾国のラヴァーズその1~10
 しかし、聖名の祖母の春子は愛人にしか過ぎず、聖名の母の光子も、成田が正妻をどうにか説得して認知はさせてもらったものの、成田の姓を名乗ることは許されなかった。
 そして光子が5才の時に、成田は脳溢血で急死してしまったという。
 その後、光子達母娘は成田の遺産で暮らしたらしい。

 …俺は本当は他に遺産争続の醜聞なども聞いていたが話すのは忍びなかった。

「…で、肝心の僕のことは?」
「あ…」
「本当に、遠慮しなくていいのに…」
と苦笑いしながら、彼は自分で語り始めた。
「僕の母は運命を呪い続けている人で、両親を恨んでいた。女性でも知識とか身につけて愛人になんかならないで名家の奥様になる、って言ってたんだって。なのに、結局祖父の遺産とコネで大学を出たんだよねえ。憎い父への復讐の一環とかまた言ってたみたいだけど」
 あれ、これは君に関係があるのかな? と、彼は苦笑した。

「そんなわけで、仲の悪い親のところを飛び出して母はOLの一人暮らしを始めたんだけどすぐに男ができて。でも祖母は相手の男が釣り合わないって猛反対」
 釣り合わないというのはお嬢様より格下という意味なのか?
「母はバカみたいに面食いで…その時の相手はモデルの男だったらしい」
 彼の祖父・貞次もなかなかのイケメンだったと、写真を俺は思い出した。
「まあ、親にしてみれば堅い商売の方がいいでしょうね」
「そうだよねえ。なのに母は強行突破のデキ婚をしてさ。その時に生まれた赤ん坊が僕ってわけ」



「傾国のラヴァーズ」その1・儚げな美青年社長

2022-10-23 23:09:00 | 傾国のラヴァーズその1~10
 彼は中性的で美しい、どこか儚げな青年だった。

 鈴崎聖名(せな)。俺より4つ下の24才。ベンチャー企業の社長だ。

 ボブの毛先に柔らかなウェーブの金髪。身長は185センチの俺よりはちょっと低い。

 そして俺は今日から彼のボディーガードだった。

 俺は警備会社から二人の先輩と交替で派遣されて、鈴崎社長の火曜と水曜の出勤から帰宅までをガードすることになっていた 。
 不思議なことに依頼主は社長本人ではなく社長の大叔父ということで、本人は必要を感じていない様子だった。

 社長室で…社長に引き合わされた時、社長は笑顔で迎えてくれたが、その瞳は笑ってはいなかった。二人きりになりソファに向かい合って座り、俺の簡単なプロフィールに彼は目を落とした。
「海原翔真(かいはらしょうま)さん…うーん、何だか僕にはもったいない経歴だな」
「いえ、とんでもないです」
 俺が否定すると彼は、
「それで、君の方は僕の経歴をどれくらいまで聞いてるの?」

 俺は言葉に困った。しかし、気をつかわなくていいよ。どこまで知っているのか知りたいだけだからと言われたが、俺はこの人に… その寂しそうな微笑みに、心を鷲掴みにされた気がした…それでどうにか遠慮しながら話し始めた。

 聖名は、唯一の北海道出身総理であり、昭和の総理の中でも特にカリスマ性があったと言われる「成田貞次」のただ一人の孫であること…
 でも聖名の祖母の春子は…