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帯とけの古今和歌集

鶴のよわいを賜ったというおうなの古今伝授。鎌倉時代に秘伝となって埋もれた和歌の艶なる情がよみがえる。

帯とけの古今和歌集 巻第十一恋歌一 469~471

2009-06-25 07:18:50 | 和歌

  



 よみ人しらず、素性法師、紀貫之の恋についての歌。清げな姿にどのような心があるのでしょう。併せて、貫之、清少納言、俊成の、歌の言葉についての考えを、あらためて聞きましょう。


   古今和歌集 巻第十一恋歌一
       469~471


469
 題知らず
             よみ人しらず
 ほとゝぎすなくやさ月のあやめぐさ あやめもしらぬこひもするかな

 ほととぎす鳴くや、五月の菖蒲草、ひとは道理も知らない恋もするかなあ……ほと伽すなくや、さつきのあやめのひとよ、みだれた乞いもするかなあ。 

 「ほととぎす…郭公…且つ乞うと鳴く鳥…ほと伽す」「鳥…女」「なく…鳴く…泣く…無く…無くなって」「や…感動の意を表わす…疑いの意を表わす」「さつき…五月…さ月…さ突き…さ尽き」「さ…接頭語」「月…月よみをとこ(万葉集の歌語)…おとこ」「あやめ…菖蒲…草花…女…あや女…整って美しい女…文目・綾目…筋道・道理・分別」「草…女」「恋…乞い…且つ乞うさま」「かな…感嘆を表わす」。男の歌。



470
               素性法師
 おとにのみきくのしら露よるはおきて ひるは思ひにあへずけぬべし  

 話には聞く菊の白露、夜は置いても、昼はおもての日に堪えきれず消えるであろう……話にのみ聞くその白つゆ、夜は送り置いても、昼は思い火に、合えず消えるであろう。 

 「聞く…きく…草花…女花」「白露…白つゆ…おとこ白つゆ」「おき…天からおり…男が贈り置き」「おもひ…おもての陽…思い火」「あへず…敢えず…堪えられず…合えず…和合せず」「けぬ…消えてしまう…常にあるものではない」「べし…だろう…推量の意を表わす…当然そうなる意を表わす」。



471
               紀 貫之
 よしのがはいはなみたかく行く水の はやくぞ人を思ひそめてし

 吉野川、岩波高く流れ行く水のように、はやくも人を思い初めたのだ……好しのかは、心波高くゆくひとが、はげしくも人を、思いそめたのだ。

 「よしのがは…川の名、名は戯れる。良しの川、好しのかは」「川…女…かは…だろうか…疑問を表わす」「岩…女」「波…川波…ひとの心波」「ゆく…行く…逝く…果てる」「水…女」「の…のように…比喩を表す…が…主語を示す」「はやく…早く…激しく」「人を…男を…男のをを」「そめ…初め…染め…身に染む」。

 上三首。草花、白露、水に寄せて、ひとの恋と乞いのありさまを詠んだ歌。




 言の心を心得れば言の葉となった人の心の種が聞こえる。

 貫之は序文でいう、歌のさまを知り言の心を心得える人は、古歌が恋しくなるだろうと。
 言葉は字義だけではなく、色々な心(意味)を孕んでいる。それは心得るしかない。

 清少納言枕草子にいう、同じ言だけれども聞き耳によって(意味の)異なるもの、それは、男の言葉、女の言葉、法師の言葉であると。
 歌の言葉は女の言葉、一義に聞いて何とする。

 藤原俊成は古来風躰抄にいう、歌の言葉は浮言綺語の戯れにも似ているけれど、そこに歌の趣旨が顕れると。
 先ずは言の戯れぶりを知り、言の心を心得ましょう。

 藤原公任は、優れた歌について、心深く、姿清げで、心にをかしきところがあるという。
 これらのことを無視すれば、和歌の様を見失う。あらたに古歌の表現様式を見つけようと、歌のここまでは「序詞」とか、これとこれとは「縁語」だ「掛詞」だと、歌のそれらしく見える部分に名札を貼り付けても、歌は解けない。そんな名さえ、もとより平安時代にありはしない。間が違ってしまった歌の聞き方が、広く蔓延って数百年経つ、今も間違えたまま。

 今の人々には、たぶん、この伝授の和歌の方が奇異に聞こえるでしょう。困ったことよ。

          伝授 清原のおうな

 鶴の齢を賜ったという媼の古今伝授を書き記している。
          聞書 かき人しらず