こひのうた
忠岑、貫之の恋歌。併せて、和泉式部の春の歌を聞きましょう。
古今和歌集 巻第十二恋歌二
586~588
586
題しらず
忠 岑
秋風にかきなすことのこゑにさへ はかなく人のこひしかるらむ
秋風に、かきならす琴の音にさえ、はかなくも、ひとがどうして恋しいのだろう……飽風吹くに、かき成すこ門の小枝にさえ、よわよわしくも、ひとがどうして乞いしいのだろう。
「秋風…飽風…飽き満ち足りたとき心に吹く風…厭風」「に…時を示す…なのに」「かく…掻く…弾く…こぐ」「なす…鳴らす…為す…成す」「こと…琴…こ門…女」「こゑ…声…小柄…小枝…おとこ」「はかなく…儚く…よわよわしく」「恋…乞い…求め」「らむ…原因・理由を推量する意を表わす」。
上一首。琴の声に寄せて、おとこのこいざまを詠んだ歌。
587
貫 之
まこもかるよどのさは水雨ふれば つねよりことにまさるわがこひ
真菰刈る淀の沢水、雨降れば常より殊に水かさ増さる、つのる我が恋……間こもかる、よどみのをみな、お雨が降れば常とは異に、増さる我が乞い。
「まこも…真の菰…間こも…真こも」「こ…子…おとこ」「刈る…狩る…あさる…もとめたのしむ」「よどのさは水…淀の沢水…気色よどんだひと」「淀…流れ緩やかなところ…よどみ」「沢・水…女」「雨…おとこ雨」「恋…求める心…乞い」。
588
やまとに侍りける人につかわしける
こえぬまはよしのの山のさくら花 人づてにのみきゝわたるかな
大和に居た人に遣った歌
山越えない間は、見るに良し吉野の山の桜花、人伝にだけ聞いていたなあ……山ば越えない間は、好しのの山ばのさくらのお花、もののついでに効いてるのかなあ。
山ばの途中だったひとに言ってやった
「大和…土地の名。大いなる和らぎ、山途、山ばの途中」。「ま…間…女」「よしの…吉野…所の名、名は戯れる。見良しのの好しの、身好しのの好しの」「さくら花…男花…おとこ花」「ひとづて…人伝て…間接…もののついで」「きき…聞き…効き…効果…利き…役立ち」「かな…のだなあ…であることよ」。
上二首。雨、さくら花に寄せて、おとこの乞いざまを詠んだ歌。
花散るな今しばし見む
こいざまについて和泉式部に聞きましょう。古今集から百年以上経ているけれど、感覚は確り古今の歌の真髄を捉えて、口にまかせて詠んだ歌。
深き心や清げな姿はともかくとして、心にをかしきところを味わいましょう。
和泉式部集第一春5
花にのみ心をかけておのづから あだなる名ぞ立ちぬべき
花見ばかりに熱心で、自ずから徒な人と噂が立つでしょう……お花にのみ心を懸けても、おの筒空、あだなうわさがよ、立ってしまうでしょ。
「花…おとこ花」「おのづから…自ずから…おの筒空」「あだなる…徒なる…空なる」。
和泉式部集第一春9
秋までの命も知らず春の野の花のふる根をやくと焼くかな
農作業に懸命で、秋までの命とも知らず草花の古根をやたら焼くのねえ……飽きまでの命とも知らず、春のひら野のひとの花が触る根をむやみに焼くことよ。
「秋…飽き」「ふるね…古根…振る根…触る根」「根…おとこ」「やくと…むやみに…やたら」「焼く…乞い焦がす…情熱を燃やす」。
紫式部は日記に、和泉を評して「歌はいとをかしきこと」と記す。「口にまかせたることどもに、かならずをかしき一ふしの、めにとまるよみそへ侍り」とある、「詠み添えられたをかしき一節」とは何でしょう。
和泉の歌を、言の心を心得て聞いて、きみが微笑むことが出来れば、それよ。
伝授 清原のおうな
鶴の齢を賜ったという媼の古今伝授を書き記している。
聞書 かき人しらず