寓話の部屋

なろうみたいな小説を書いてみたけどアレ過ぎて載せらんない小説を載せるサイト。

第026話 北国と太陽

2021-07-21 09:17:18 | 召喚大統領が異世界を逝く!

第二十六話

「そろそろ、ムーン様を呼び出した、主たる問題に取り組まなくてはなりませんわね」
ジェーン・スク王女殿下は言った。

「なんでしたっけ?」
すっかり知能が退行したように見えるマルペ君が受けた。

「北コーライが、戦略級極大魔術実験を行って、ツイステ合州国がそれを問題視して、軍事侵攻を計画し、我がコーライ王国を尖兵に使嗾しようという問題ですよ!あなた一応、軍籍だってあるでしょう!」
ジェーン・スク王女殿下がブチ切れた。

「ははは、まあ落ち着くニダよ。似たような危機はウリの世界でもあったニダよ。任せておくニダ!ここは外交努力でなんとかするのが政治家の腕の見せ所ニダよ。」

☯☯☯☯☯☯☯☯☯☯☯☯☯☯☯☯☯☯☯☯☯☯☯☯☯☯

「コーライ民主主義人民共和国」通称・北コーライは、形ばかりの選挙を行う一党独裁の事実上の絶対王政である。
初代国家主席たる、キムボール・イルポンはコーライ王家の傍流で、抗モトヒノ運動の英雄で建国の祖であるという神話が作られたが実際にはダイシン帝國の傀儡人形の作品であった。
国家主席のポストを息子のキムボール・マサニチに世襲させると、やはり実態は王政なのではないかと批判があったが、
「キムボール・マサニチはキムボール・イルポンの息子だから後継者となったのではなく、もっとも優れた後継者がたまたまキムボール・イルポンの息子だった」
というレトリックで通した。
異世界の某国の元首相が自分の息子を選挙に出馬させたのを、
「政治家として優れた人間がたまたま息子だった」
というレトリックで通した事例があったが、これは元々は北コーライのウリジナルである。
マサニチは、次第にダイシン帝國の言うことを聞かなくなり、独自路線を進み始めることになる。
様々な経済失策が重なり、南コーライとの経済格差が広がっていくと、兵数こそ長期間の徴兵で揃えられても、正面装備の質の面で後塵を拝することになっていった。
そこで、化学式噴進弾による弾道兵器と戦略級極大魔法の開発に限られた国力を重点的に投入することにした。
宗主国たるダイシン帝國にも無遠慮にスパイを送り、戦略級極大魔法の秘密をパクって研究を進めた。
多数の化学式噴進弾道兵器にて、非武装地帯の遙か遠方からコーライ王国の都市を攻撃できるようにした。
命中精度はひどいものだったが、的がでかい都市なのでさほど問題にはならなかった。
そこまで軍備を揃えたところで、キムボール・マサニチは、連日の贅沢な食事による消渇病にてぽっくりと逝った。
キムボール・マサニチには、キムボール・マサオという長男がいたが、温厚で融和的な性格であり、独裁政権の権力者達や軍上層部は国家方針が軟化するのを危惧して、次男のキムボール・ジョンソンを擁立した。もし長男だったら、他の兄弟の存在は我慢したかもしれなかったが、次男だったので、我慢できずに邪魔な長男を海外に逃亡した先で暗殺した。サツバツ!
キムボール・ジョンソンの代になり、北コーライは更に尖鋭化した。戦略級極大魔法の研究を匂わす段階から、実際に実験する段階にまで進め、ツイステ合州国への挑発を強めた。しかし、キムボール・ジョンソンの本心は、むしろダイシン帝國への抑止力の面が強かった。
それに対して、ツイステ合州国は、戦略級極大魔法の完全なる放棄・検証を要求した。
コーライ戦争の後に少しは存在した北コーライと外国との交易にも経済制裁を加えたが、ダイシン帝國が、生かさず殺さずの支援をやめなかったので、今ひとつ決定力に欠け、やはり軍事侵攻しかないのか…というのが現状であった。

☯☯☯☯☯☯☯☯☯☯☯☯☯☯☯☯☯☯☯☯☯☯☯☯☯☯

「ウリの世界には、北風と太陽という逸話があったニダよ。旅人のコートを脱がすのに北風と太陽が競争したニダが、北風がいくら強くビュービュー吹いてもコートを脱がなかったのに太陽が燦々と降り注ぐと暑くなった旅人はコートを脱いだということニダ!」

「おお、なんか含蓄がある寓話ですね」
マルペ君。

「問題のある隣国に敵対するのでは無くて、手を差し伸べて、軟化させるのを、ウリの尊敬する先生は”太陽政策”と呼んでいたニダよ。そして、”フット・イン・ザ・ドアラ”テクニックというのがあるニダ。」

「おお、なんか頭良さそうなフレーズですね!」
すっかり頭が悪くなった感のあるマルペ君。

「まずは、警戒されないような小さな共同事業を提案するニダよ。鉄道を通すとか、共同開発の工業地帯特区とか。その実績を積んでいけば、次第に大きな譲歩を迫れるようになるニダ!」

「しかし、ツイステ合州国は穀物や工業製品の禁輸措置や北への送金停止などの対策を講じており、難しいですわよ。」
ジェーン・スク王女が、一応、義務的にツッコんでみた。

「そこは頭を使うニダ。北側に親類のいる分断家族がいたら、面会を理由に派遣させたり、北側に観光地があったらそこに南側の観光客を派遣させてお金を落とさせるとか…。穀物輸出がダメなら、目を付けられない程度の量のミカンなんかの箱の底にこっそり金塊を忍ばせておくとか、搦め手はいくらでもあるニダよ!ハードルは高ければ高いほど、くぐりやすくなるというものニダ!」
ニチャァと良い笑顔で笑うムーン。

さすがにどうかと思う話であったが、政府や外務省の要人に、このアイディアをジェーン・スク王女やマルペ君が、伝えると藁をも掴みたいパーク政権は乗り気になり、いろいろと実行に移されたのであった。
もちろん、ツイステ合州国は、経済制裁を台無しにしかねないこの愚策に関して、大いに腹を立てたが、絶妙に制裁項目の抜け道を潜り抜けるようなやり口への対応に苦慮した。
こうなったらパーク政権自体をすげ替えるしかないのではないかとツイステ合州国の一部には不穏な考えが生まれ始めた。