脊髄副交感神経の語句が身体均整法理論にいつから組み込まれたかは定かではないが、入手できた資料のなかでは、時代的に一番古いのは昭和26年発行の亀井進著「日本療術学」114頁の交感神経と副交感神経の拮抗的支配表における上内臓神経と対比にある迷走神経及び脊髄副交感神経の欄であると思える。
文章としての脊髄副交感神経に関する記述は日本療術学には見当たらない。、
又逆に、師範存命中の一番新しいと思えるのは昭和46年「均整講座集第27号運動系の理論(講座集復刻版7集231頁から)」のものであろう。
均整を学ぼうとする誰でもが目にする最もポピュラーなものは、昭和43年発行の「脊髄神経反射の診断法と調整法」講座集復刻版第7集4頁の2側の説明での記述である。
呉建、沖中の脊髄副交感神経説について、その説明を調べると金子丑之助、「日本人体解剖学」、吉川文雄、「人体系統解剖学」などの説明には必ず「。。。とされている」、南山堂医学辞典においてもその説明の後には「。。。には議論がある」旨記載があった。
しかし、その19刷の南山堂「医学辞典」に「脊髄副交感神経の存在が否定された」との記載が掲載された。
南山堂編集者にその根拠を問い合わせたところ、理由は「主要な神経解剖学の教科書にも記載されていないから」とする全く納得できない回答を貰った。
また呉建の直系である沖中重雄の沖中記念研究所に脊髄副交感系の存在について尋ねたりもしていた。
その間には呉建、沖中重雄の「自律神経系、総論、各論 」沖中重雄「自律神経系と臨床」その師弟系譜である宇尾野公義、入来正躬の「自律神経疾患 基礎と臨床」での脊髄副交感神経系に付いてのつながりなど調べていた。
そのような中、大阪大学名誉教授の橋本一成先生の著書「解剖学の抜け穴」(138頁から140頁)に出会い、其処には脊髄副交感系の存在が明確に述べられており、幸いにも橋本先生には当該の論文をお送りいただいた上、直接お会いしてその研究経過やご苦労話まで、詳細の説明を伺う機会を頂いた。
また一方、将来の鍼灸理論をリードする書籍と言われている佐藤昭夫らの「体性ー自律神経反射の生理学」にも脊髄副交感系の存在を示唆する記述もあり、質問先の沖中記念成人病研究所の村勢敏郎先生よりご示唆頂いたカーペンター神経解剖学の記載などをあわせて考えた時、未だに南山堂の説明は釈然としていない。
また呉、沖中と同様に脊髄副交感神経系の存在を唱えるペルンコップの神経解剖学批判 http://www.sciencemag.org/content/329/5989/274.2.shortが報道されて久しいが、人道と科学の難しい問題が関係あるのか無いのか門外漢には分からない。
明確なのは、南山堂医学辞典における脊髄副交感神経系の存在の否定は調べた限りでは説得力に欠ける事である。さりとて副交感神経の頭仙系における存在の認識も極めて一般的な理解でもあるし、橋本一成先生の言われた「存在を否定する』事の学問的な意味の重さは、素人でもよく理解できる処である。
このような背景の中で、類別克服法の現代版発行企画は、その副産物なのかもしれないが今まで無かった亀井師範の類別克服法の脊髄反射法理論を正面から研究しようという機運の高まりは個人的には大歓迎である。
単に身近にある書籍をもとに安易に師範の理論を否定したり、延いては師範の実績を疑うような発言をする不心得ものはいないと信じているが、「亀井イズムに陥るな」と言う師範自身の言葉は「俺を超えてみろ」という師範の自信に満ちた、我々に対する挑戦状と心すべきである。
その師範に応えるには、まず亀井理論を完全に咀嚼することから始めければ歩は決して進められないと信じている。
当然ながらこれからの考察はどこまでも亀井類別克服法の成立時の理論の把握を目的にし、現代の知見との整合性の検証は本義としない旨、断っておく。
問題提起
副腎におけるアドレナリンの製造、排出に関する日本療術学114頁の表記載と類別克服法150頁矛盾克服上の参考の7の記載の太字部分の不整合について。
日本療術学(亀井進著・昭和26年・四国療術研究学会)114頁
+興奮 -抑制
交感神経(上内臓神経) 迷走神経及び脊髄副交感神経
アドレナリン製造亢進+ - アドレナリン製造亢進
アドレナリン排 泄 - + アドレナリン排 泄
類別克服法 3矛盾克服上の参考 151頁
7
『副腎に至っている交感神経(上内臓神経)を興奮さすと「アドレナリン」の分泌を促進する。其の「アドレナリン」は交感神経を興奮せしめます。迷走神経を興奮さすと「アドレナリン」分泌を制止し、脊髄副交感神経の興奮では「アドレナリン」の製造が盛になります。』
「アドレナリン』と交感神経、及び脊髄副交感神経の関係は
呉建、沖中『自律神経系ー総論』昭和24年5版51頁、昭和31年6版63頁を引用を以って説明とする。
副腎に至る交感神経の刺激は『アドレナリン』の製造を盛ならしめ、大内臓交感神経中の脊髄副交感神経の興奮は『アドレナリン』排出を盛にする。
又副腎に至る自律神経を除去するときには副腎髄質の高度なる萎縮を起こし、脊髄副交感神経の除去(『アトロピン』によるは『アドレナリン』の排出を抑制する。
精神興奮は自律神経興奮を起し、「アドレナリン』の分泌を盛ならしめ、逆に『アドレナリン』は交感神経、時として副交感神経をも興奮せしめる。
更に詳しい脊髄副交感神経と『アドレナリン』排出機序についての説明は以下の如しである
5版57頁6版72頁
「アドレナリン』排出は従来交感神経興奮によるものと考えられていたが和田氏①の研究では大内臓交感神経内の脊髄副交感神経の興奮によって起こるものである.
故に内臓交感神経節に『ニコチン』②を塗布しておき内臓交感神経を刺激すると」(この場合に交感神経は介在神経細胞において中絶する)尚『アドレナリン』排出強盛となり『アトロピン』③を多量に与える時は内臓交感神経の刺激は無効にとなる
①東京医学会誌(昭和7)
②ニコチン作用薬でニコチン受容体に作用して脱分極を発生し節線維を興奮させるが、続いて持続性脱分極を起こすため節遮断作用をきたす「自律神経の基礎と臨床」後藤由夫 佐藤昭夫65頁
③抗コリン剤 副交感神経作用を抑制する
結論
日本療術学の記述と類別克服法の不整合について、呉、沖中の著作の記述から亀井師範が脊髄副交感神経説に立っている以上、昭和24年に師範が著された日本療術学の記載が正しく、類別克服法の記述が何かしらの原因で誤記されたものと考えざるを得ない。
東京支部 村松陽一
文章としての脊髄副交感神経に関する記述は日本療術学には見当たらない。、
又逆に、師範存命中の一番新しいと思えるのは昭和46年「均整講座集第27号運動系の理論(講座集復刻版7集231頁から)」のものであろう。
均整を学ぼうとする誰でもが目にする最もポピュラーなものは、昭和43年発行の「脊髄神経反射の診断法と調整法」講座集復刻版第7集4頁の2側の説明での記述である。
呉建、沖中の脊髄副交感神経説について、その説明を調べると金子丑之助、「日本人体解剖学」、吉川文雄、「人体系統解剖学」などの説明には必ず「。。。とされている」、南山堂医学辞典においてもその説明の後には「。。。には議論がある」旨記載があった。
しかし、その19刷の南山堂「医学辞典」に「脊髄副交感神経の存在が否定された」との記載が掲載された。
南山堂編集者にその根拠を問い合わせたところ、理由は「主要な神経解剖学の教科書にも記載されていないから」とする全く納得できない回答を貰った。
また呉建の直系である沖中重雄の沖中記念研究所に脊髄副交感系の存在について尋ねたりもしていた。
その間には呉建、沖中重雄の「自律神経系、総論、各論 」沖中重雄「自律神経系と臨床」その師弟系譜である宇尾野公義、入来正躬の「自律神経疾患 基礎と臨床」での脊髄副交感神経系に付いてのつながりなど調べていた。
そのような中、大阪大学名誉教授の橋本一成先生の著書「解剖学の抜け穴」(138頁から140頁)に出会い、其処には脊髄副交感系の存在が明確に述べられており、幸いにも橋本先生には当該の論文をお送りいただいた上、直接お会いしてその研究経過やご苦労話まで、詳細の説明を伺う機会を頂いた。
また一方、将来の鍼灸理論をリードする書籍と言われている佐藤昭夫らの「体性ー自律神経反射の生理学」にも脊髄副交感系の存在を示唆する記述もあり、質問先の沖中記念成人病研究所の村勢敏郎先生よりご示唆頂いたカーペンター神経解剖学の記載などをあわせて考えた時、未だに南山堂の説明は釈然としていない。
また呉、沖中と同様に脊髄副交感神経系の存在を唱えるペルンコップの神経解剖学批判 http://www.sciencemag.org/content/329/5989/274.2.shortが報道されて久しいが、人道と科学の難しい問題が関係あるのか無いのか門外漢には分からない。
明確なのは、南山堂医学辞典における脊髄副交感神経系の存在の否定は調べた限りでは説得力に欠ける事である。さりとて副交感神経の頭仙系における存在の認識も極めて一般的な理解でもあるし、橋本一成先生の言われた「存在を否定する』事の学問的な意味の重さは、素人でもよく理解できる処である。
このような背景の中で、類別克服法の現代版発行企画は、その副産物なのかもしれないが今まで無かった亀井師範の類別克服法の脊髄反射法理論を正面から研究しようという機運の高まりは個人的には大歓迎である。
単に身近にある書籍をもとに安易に師範の理論を否定したり、延いては師範の実績を疑うような発言をする不心得ものはいないと信じているが、「亀井イズムに陥るな」と言う師範自身の言葉は「俺を超えてみろ」という師範の自信に満ちた、我々に対する挑戦状と心すべきである。
その師範に応えるには、まず亀井理論を完全に咀嚼することから始めければ歩は決して進められないと信じている。
当然ながらこれからの考察はどこまでも亀井類別克服法の成立時の理論の把握を目的にし、現代の知見との整合性の検証は本義としない旨、断っておく。
問題提起
副腎におけるアドレナリンの製造、排出に関する日本療術学114頁の表記載と類別克服法150頁矛盾克服上の参考の7の記載の太字部分の不整合について。
日本療術学(亀井進著・昭和26年・四国療術研究学会)114頁
+興奮 -抑制
交感神経(上内臓神経) 迷走神経及び脊髄副交感神経
アドレナリン製造亢進+ - アドレナリン製造亢進
アドレナリン排 泄 - + アドレナリン排 泄
類別克服法 3矛盾克服上の参考 151頁
7
『副腎に至っている交感神経(上内臓神経)を興奮さすと「アドレナリン」の分泌を促進する。其の「アドレナリン」は交感神経を興奮せしめます。迷走神経を興奮さすと「アドレナリン」分泌を制止し、脊髄副交感神経の興奮では「アドレナリン」の製造が盛になります。』
「アドレナリン』と交感神経、及び脊髄副交感神経の関係は
呉建、沖中『自律神経系ー総論』昭和24年5版51頁、昭和31年6版63頁を引用を以って説明とする。
副腎に至る交感神経の刺激は『アドレナリン』の製造を盛ならしめ、大内臓交感神経中の脊髄副交感神経の興奮は『アドレナリン』排出を盛にする。
又副腎に至る自律神経を除去するときには副腎髄質の高度なる萎縮を起こし、脊髄副交感神経の除去(『アトロピン』によるは『アドレナリン』の排出を抑制する。
精神興奮は自律神経興奮を起し、「アドレナリン』の分泌を盛ならしめ、逆に『アドレナリン』は交感神経、時として副交感神経をも興奮せしめる。
更に詳しい脊髄副交感神経と『アドレナリン』排出機序についての説明は以下の如しである
5版57頁6版72頁
「アドレナリン』排出は従来交感神経興奮によるものと考えられていたが和田氏①の研究では大内臓交感神経内の脊髄副交感神経の興奮によって起こるものである.
故に内臓交感神経節に『ニコチン』②を塗布しておき内臓交感神経を刺激すると」(この場合に交感神経は介在神経細胞において中絶する)尚『アドレナリン』排出強盛となり『アトロピン』③を多量に与える時は内臓交感神経の刺激は無効にとなる
①東京医学会誌(昭和7)
②ニコチン作用薬でニコチン受容体に作用して脱分極を発生し節線維を興奮させるが、続いて持続性脱分極を起こすため節遮断作用をきたす「自律神経の基礎と臨床」後藤由夫 佐藤昭夫65頁
③抗コリン剤 副交感神経作用を抑制する
結論
日本療術学の記述と類別克服法の不整合について、呉、沖中の著作の記述から亀井師範が脊髄副交感神経説に立っている以上、昭和24年に師範が著された日本療術学の記載が正しく、類別克服法の記述が何かしらの原因で誤記されたものと考えざるを得ない。
東京支部 村松陽一