S&R shudo's life

ロック、旅、小説、なんでもありだ!
人生はバクチだぜ!!!!

真冬の狂想曲23-2

2008-03-11 11:10:37 | 真冬の狂想曲
 松の説明によると、そのもう一人の小柄な男もパクという名前だそうだ。松の兄弟分のパクと区別がつくように「スモールパク」と呼んでいると言っていた。そのスモールパクは、本国でも日本でも何人も殺していると松は教えてくれた。

 松はパクと椅子に腰掛けたが残りの4人は壁際に立ったままだった。平井は東京での恐怖が蘇ったのか、ベッドのへりに顔を強張らせて固まっている。イとチョンの視線は平井に向けられている。俺は松にこれからどうするのかを尋ねた。
「やっちゃんから電話があったあと佐々木から電話があって、坂本は来る途中、静岡によってるらしい。ひょっとしたら、誰かに泣きついてるかも知れんけこっちも注意しとかんとのー」
 どうやら佐々木は自分の仕事をきっちりこなしているようだ。中村達に、寝返っている事がバレなければいいが・・・。寝返った事がバレて佐々木がどうなろうと知った事ではないが、こっちの具合が悪くなるのは勘弁してほしかった。ノブからはあれから連絡がない。

 何気なく平井の方に目をやると、しばらくして急に平井の表情が強張った。俺は平井の視線の先に目を移した。パクの舎弟のスモールパクが、バッグの中からチャカをテーブルの上に出していた。7丁あった。俺はこの部屋にいる人間を目で数えた。平井を入れて8人だった。平井にそれを持たせる訳はないので、7丁の内の1丁は確実に俺が持つ事になる。
「ほい、やっちゃん。これやっちゃんの分ね。」
 案の定、松がその黒光りする鉄の塊を俺に手渡した。俺は露骨に嫌な顔をしながらもマガジンを抜き、銃身をスライドさせて銃身に一発残っている豆を抜いて、慣れた手付きでマカロフの動作確認をした。こんな事が簡単に出来る自分に嫌気を覚えながら。
 一通りの作業を終え、マガジンにさっき取り出した豆を装填し銃身に押込んで安全装置をONにして、腹に押込みベッドに転がった。松達は何か話し込んでいるが、聞かないようにした。俺の頭は話を聞く事を拒否している。そんな俺をパクの連れてきた韓国人達は訝しそうに見ていたが、俺は気にしなかった。平井はかなり緊張しているようだったが。
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真冬の狂想曲23-1

2007-12-02 13:54:23 | 真冬の狂想曲
 2日後ノブから連絡が入った。今から新幹線に乗るところだと。ベッドに備え付けられている時計に目をやると、まだ8時前だった。先日坂本から松に入った電話だと、残金と中村の引渡しは今日の午後7時の予定だった。東京から小倉までは5時間半程で着くはずだ。向こうを出るのが早過ぎる。まだ身体は寝ていたが、嫌な感じで脳みそが無理矢理フル回転する。なんとか身体を起こし隣のベッドを覗き込む。両手両足縛られた平井はまだ鼾をたてていた。俺は床に脱ぎっぱなしのジーンズをはき、もう一度平井が寝ている事を確認して部屋を出た。フロアの真ん中辺りにある自動販売機で冷たいブラックコーヒーを買い、胃に流し込みながら松に電話をかけた。3回程留守番電話サービスにまわされたが、4回目の電話でようやく機嫌の悪そうな声が聞こえた。
「どうしたん?こんな早く・・・」
 松の脳みそも起こしてやる必要があるみたいだ。俺はわざと大きな声を出した。
「どうしたもこうしたもねーよ!さっきノブから電話が入ってからよー、坂本達もう新幹線に乗ったっちよ!いくら何でも早過ぎやねーか」
 松は短い沈黙の後口を開いた。
「ほんとのー、確かにちょっと向こうを出るのが早過ぎるのー。何か裏があるかも知れんけ、とりあえずそっちに行くわ、待っちょって」
 そう言って松は携帯電話を切った。もうアイツの脳みそも完璧に起きたようだった。

 松の小倉のマンションからステーションホテルまで30分もかからないはずなのに、電話を切ってから1時間半程して、松は1211号室に現れた。松は一人ではなかった。松の後ろには、歌舞伎町で会った韓国人3人と初めて見る顔が2人立っていた。
「やっちゃん、初めてやったよのー、これ俺の兄弟のパク。兄弟を待っとったけちょっと遅くなったんよ。今回手伝ってくれるけ」
 坊主頭で松より少し背は低いがガッチリとした身体つきの、そのパクという男は膝に手をあて頭を下げて挨拶をした。ヤクザスタイルだ。
「初めまして、ミョンファの兄弟分のパクです。東京に来たときは不在ですいません」
 他の韓国人達とは違って、かなり流暢な日本語だ。名前を聞かなければ韓国人だという事はわからない。ミョンファというのは松の本当の名前だ。もう一人の初めて見る顔は黙ってパクの斜め後ろに立っている。
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真冬の狂想曲22-6

2007-10-04 17:16:31 | 真冬の狂想曲
 平井は事の成り行きを松から聞き終えると、全身の力が抜けたようになっていた。安堵感から来るものか、脱力感から来るものか分からないが、ちょっと前とは明らかに顔色が変わっていた。しかし、暫くすると堰を切ったようにまくし立てた。
「松崎さんの下で働くのは一向に構いませんが、中村のヤツと一緒に働くのは絶対に嫌です!私一人に全て被せて逃げようとしたヤツですよ、この件が片付いたからと言って、仲良く肩組んではやっていけません!絶対に許せません…」
「分かっとるよ平井。中村の事は俺もちゃんと考えとるから、お前は何も心配せんでいい。何も考えんで俺のために働け。悪いようにはせんから」
 松の話を聞き終えると、平井は俺を睨んだ。ただ見ただけかも知れないが、俺には睨んでいるように感じた。俺は平井の襟首を掴み、身体を壁に叩きつけ思いきり持ち上げた。平井は足をバタつかせたが、逃れようもなく平井の身体は壁伝いにせり上がっていた。
「平井よー、お前と松の話は決まったかも知れんけど、俺とお前の立場はなんら変わらんのど、ちーっと態度考えんか!おう!」
 平井の顔からみるみる血の気が引いていった。松は平井を持ち上げている俺の肩を叩き、
「もういいやろ、やっちゃん。コイツもよく分かっとるよ。のう平井」
 平井は血の気のない顔で首を縦に振っている。俺は手の力を緩めて平井を床に落とした。水槽から出された金魚みたいに口をパクパクさせている。俺は平井の足元に唾を吐き捨て、ベッドに腰を下ろした。
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真冬の狂想曲22-5

2007-09-08 16:34:34 | 真冬の狂想曲
 俺と松はとりあえず1211号室に戻った。その部屋の床には出る前に猿ぐつわをかませて縛り上げていた平井が、涙と涎と血に顔を汚したまま転がっていた。俺達が部屋に入ってきても動かなかったが、死んではいないようだった。松は平井の猿ぐつわを外し、ロックタイを切った。平井はようやく弱々しく身体を動かした。
「とりあえずまだ判らんけど、いい話は出来たけよー、お前にも説明しちゃるけ、シャワー浴びて綺麗になってこい。頭もシャッキリさせなの」
 そう言って松は平井をバスルームに連れて行った。バスルームはドアの近くにあって、俺が座り込んだベッドや、松が座るであろう窓際のちょっとした応接セットからは死角になっていたので、俺は重くなった腰を上げてバスルームのドアが見える位置まで椅子を引きずって行って、そこに腰を下ろした。
 15分程で、汚れを落とした平井がバスルームから出てきた。汚れたままの下着を着けている。俺は松に言ってこの前用意した替えの下着を投げて貰った。そいつを平井に投げつけて、それに履き替えるように言った。平井はまたバスルームに戻り、新品の下着に着替えてから松の前に向かった。俺も心地よい弾力のベッドに戻った。
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真冬の狂想曲22-4

2007-07-17 18:06:53 | 真冬の狂想曲
 松は暫く考えたあと、グラスの水を舐めてから口を開いた。
「わざわざ坂本さんも小倉まで出張ってくれてるし、俺もギリギリまで譲歩しましょう。…金は元金にプラス50でいいよ。実際このぐらいは経費掛かっとるから。ほんで、平井はこっちの手の中におるからいいとして、この期に及んで俺達を騙して逃げた中村を引き渡して貰おうか。それから坂本さん達が俺達にやった商売を譲って貰おうか、平井と佐々木をこっちにくれればいいけよ。あいつらノウハウは解ってるんだろう?」
 坂本は間を空けずに答えを出した。自分が考えていた最悪の事態よりは楽な条件だったのだろう。
「非は全面的にこちらにあるんで、松崎さんの条件で構いません。仕事の件もそちらの言う通りにします。平井と佐々木はお渡ししますが、あいつらで対応出来ない事があれば私に連絡下さい。出来る限り協力させて貰います」
「中村は?」
「もちろん中村もお渡しします。松崎さんに残りのお金をお返しする時に中村にお金を運ばせましょう」
 松はこれで手打ちだと告げて、全て用意出来たら連絡を入れるように坂本に言った。坂本は深く頭を下げ連絡を入れる事を約束し、持ってきた鞄を松に渡して席を後にした。
 俺はノブに平井から取り上げた金から10万渡し、坂本の後をつけて行くように言った。
「お前とりあえずあのおっさんに張り付いちょけ。東京に着いたら代わってもらえるように松に韓国人達に連絡入れさせちょくけよ」
 ノブは嫌そうな顔をしながらも俺の渡した10万をポケットに突っ込んで、急いで席を立った。
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