佇む猫 (2) Dr.ロミと助手のアオの物語

気位の高いロシアンブルー(Dr.ロミ)と、野良出身で粗野な茶白(助手のアオ)の日常。主に擬人化日記。

よく似た男(1)電車の中で

2019年07月17日 | 手記・のり丸
先日、阪急電車に乗っていた時のことだ。
顔の左半分にビシバシと視線が突き刺さってくるような感覚を覚えた。
視線が来る方向を辿ってみると、左斜め前の座席に座っている男がジッと私を見つめていた。
私と目が合うと、男は手に持っているスマートフォンに目線を落とした。
 
(…ん?気のせいか?)
私はもう一度男を見た。
(キングダム)
突然、私の脳裏に「キングダム」という言葉が浮かんだ。
マンガの題名か?
なぜあの男を見た時に「キングダム」が出てきたのか?
あの男と以前どこかで会ったことがあるのか?
 
私は男を観察した。
髪の毛がボサボサで、眉毛も目にのしかかるように伸びている。
(こんな顔の犬がいたな……え~と、シュナウザー、そうそう、シュナウザー犬にそっくりだ…)
そんなことを考えながら男を見ていると、再び男が顔を上げて私の方を見た。
私は瞼を閉じて寝たふりをした。
 
私の脳はシングルタスクであり、当然マルチタスクのように複数の作業を同時にすることはできない。
その上、演算速度(回転)もひどく遅い。
その為、一つのことをいつまでもしつこく長く考え続けることができる。
 
(キングダム…キング…キング……小雪、…ん、小雪?…意味がわからん、寝るか)
いや、ここで諦めてはいけない。
脳の訓練の為に、投げ出さずに最後まで思い出すのだ。
(思い出せ、思い出すんだ…脳がんばれ、行け行け!GO!GO!)
脳に訳のわからない方法でプレッシャーを掛けながら、全力で集中することにした。
 
…カタカタカタ…脳はゆっくりと作業しながらも過去のデータを整理していた。
そうこうしているうちに「六甲駅」に着き、男が立ち上がる気配がした。
瞼を開くと、長身の男が電車を降りていく後ろ姿があった。
 
(王野!)
やっと名前がはじき出された。
男が「王野」という人物なのか確かめようがないが、私は王野という男のことをはっきりと思い出していた。
 
 
私は東京にいた頃、ライターをしていた時期があった。
学生アルバイトくずれのライターだった。
週刊「作話」で記事を書かせてもらっていたが、主に(ほぼ98%)風俗嬢の紹介記事だった。
カメラを持って取材に行き、記事を書く…そういうことを一年半ぐらい続けていた。
 
私が週刊「作話」を辞めることが決まった時、伊藤という後輩が私の後を引き継ぐことになった。
伊藤と私はしばらく一緒に行動することになった。
 
「今日は吉原の『江戸一本舗』に行くよ」
と告げると、伊藤は目を輝かせた。
「『江戸一』の小雪さんですよね……いや~今日はついているなぁ」
伊藤は小躍りしているようだった。
 
小雪は典型的なキツネ顔で、目じりが吊り上がっており、顎がキュッと尖っている。
「こういう気の強そうな顔って好きだな。このコ、相当キツそう…」
小雪の写真を見て、伊藤は勝手にイメージを固めていた。
 
(残念だな。小雪はお前が思っているようなタイプではないんだよ)
と思ったが、口には出さなかった、
そのかわり「吉原の帰りに『桜なべ』行こうか?」と伊藤を誘った。
 
(続く)
 
名称はすべて仮名…一応。
 
 

《今日のロミ》