リコの文芸サロン

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老境の酒

2023-01-05 | 短歌
リコの短歌会の月刊誌の「自歌自注」に自分の詠草の感想を書く頁が在ります。
一首の短歌だけではその、背景がわかりませんので、自分の詠草にそれを詠んだ背景を書いてもらいますとより詠者を理解しやすくなります。

私がこの頁の編集を担当してますので、毎月、3名の方に原稿執筆の依頼をします。

令和5年1月号の3名の記事を紹介します。

 
★ 小さき杯  T.Oさん
この小さき杯ほどの酒に酔い御祖(みおや)と話す歳となりたり

 戸棚の籠の中に、大小、新旧、様々な杯が 
二十個あまり入れてあり、それぞれに思い出がある。晩酌をするときに「今宵はどれにするかな」と酒と気分に合わせてひとつを選ぶ。その中に長州萩焼の小さい杯が二つあり、いずれも古くから伝わってきたもので地肌がしっとりとうす茶色に光っている。若い頃は、何故こんなに小さな杯で飲むのだろうと得心がいかなかったが、最近御祖を越える歳の頃になり、酔い易くなって初めて小さい杯で酌む楽しみが分かるようになった。以前読んだ御祖の文に、藩政の維新に消えゆく懊悩を書かれていたことを思い出し、窪みに指跡が残る杯を口に運びながらご苦労をねぎらっている。私も相応に歳をとったということであろう。


★あのとき  K.Oさん
夫は吾をひしと抱けり骨髄の移植受けんと家でる朝(あした)

 悪性リンパ腫を患い骨髄移植を受けるために入院する朝を詠んだ歌である。生きるために受けることを決心した骨髄移植だが合併症などで亡くなる人も多い。担当医師の事前の説明では成功率は三割程度だとのことだった。夫も私も元気になって戻ってくることを願いながら生きて二度と家には帰れないかもしれないという不安が心の隅にあったことも確かだ。出発のとき、夫がやさしくでもしっかり抱きしめてくれたことにより、さあがんばるぞという決意と勇気が湧いてきた。そんな状況のこの一首を読み返すと今元気でいることの有難さをひしと感じる。これからも二人で健やかに少しでも長く生きていけたらいいなと思っている。
 


詠草に寄り添う 涼風
ハイビスカスの花を眺むる家猫は乙女さびたり七歳の夏

 これは九月の歌会に提出した詠草です。この詠草を参加者の方々から、
「七歳は人間でいえば四十四歳だから・乙女・はおかしい」と言われた。
猫を人間の年齢に換算する鑑賞の出発点がそもそも間違っています。
わずか七年生きている猫を想像してください。猫と過ごした七年を振り返り、庭に入り込んだ四ヶ月の野良猫を病院に連れて行き避妊手術をして、家猫として共に過ごした年月を振り返り、昨年まではまだまだ子猫だと思っていましたが、花を眺めている姿がなんとも乙女らしい。



窓ガラスをとんとんと叩くと、こちらを向いて「綺麗な花が咲いてるよ」と私を見あげました。







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