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せんべえ空間

淋しがりやの一人好き。
あまのじゃくなせんべえの矛盾に満ち溢れた日々。

心に風を。

『海の仙人』

2007-01-10 13:30:07 | 
絲山秋子『海の仙人』
宝くじに当った河野は会社を辞めて、敦賀に引越した。
美しい海と過ごす、何もしないひっそりした生活。
そこへ役立たずの神様・ファンタジーが訪れ、奇妙な同居が始まる。
孤独の殻にこもる河野には、二人の女性が想いを寄せていた。
かりんはセックスレスの関係を受け容れ、
元同僚の片桐は片想いを続けている。
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前半部分が好きでした。
異世界じみてて、
ふんわりと包み込まれる気分で、
あーこの感じいいな、悪くないな、って思ってたんだけど、
河野のお姉さんの話とか
最後の方のかりんのこととか
いきなりシリアスな部分がでてきて、
この部分は本当にストーリーに必要なのかなぁ
と思いながら読み進めました。
ずっと夢心地でいさせてほしかった
でもキレイでした。
ずっとずっとキレイでした。
情けなさとか優しさとか愛しいような気分にさせてくれました。
私もファンタジーに会いたい。

『シリウスの道』上・下

2007-01-06 23:34:58 | 
藤原伊織『シリウスの道』上・下
東京の大手広告代理店で働く辰村祐介は子供のころ大阪で育ち、
明子、勝哉という二人の幼馴染がいた。
三人の間には、決して人には言えない秘密があった。
月日は流れ、三人はそれぞれ別々の人生を歩んできた。
しかし、25年経った今、
祐介が関わる18億円のプロジェクトと共に、
3人の秘密が再び動き出す。
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永遠の仔的な感じかと思いきやそういうわけでもなく、
ミステリーってほどでもなく。
小説というよりビジネス書的ニオイもした。
“どんな仕事でも基本は地味なところにある”とか
“自分が背負ってるものの大きさを自分の能力と勘違いするやつが多い”とか
仕事ができる人になるための新書にでてきそうなフレーズがちょいちょい出る。
ちなみに↑のセリフは
手元に本が無いのでうろ覚えです
もしかしたら全然違うこと言ってたかもね

作者自身、電通で働いていた経験があるそうなので
広告業界の描写はリアルなんでしょうが
リアルさにこだわるあまり余計なものが多い気もしました。
あと、多く出てくる業界用語のようなものが説明不足に思う。
私が言葉を知らなさ過ぎるだけ??

なんだかんだで割りと早く読んだのでつまらなくはなかったかな。
後半、ストーリーが失速したようにも。
ラストはまああんな感じでしょうね。
結局のところ、足引っ張る存在っていつも身近にいるんですよね。

『となり町戦争』

2007-01-06 23:18:33 | 
三崎亜記『となり町戦争』
ある日町内の広報によって知らされた「となり町」との戦争。
だが開戦してからも特に変わったことはなく、
“僕”は戦時下の実感が持てないまま日々を過ごしている。
しかし月2回配られる広報には戦死者の数が記されており、
確実に戦争は行われているようだ。
そんな僕にある書類が届く。
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表紙のフォントとか絵から、
もうちょいほのぼのした感じを想像してました。
ファンタジーな感じの。
いや、まるで現実感は無かったですけどね。
でももっとぶっ飛んでんのかと思ってたのでビックリでした。

戦争しかり難民問題しかり、
確実に世界のどこかで起こってるのにも関わらず
全く現実味が無くて実感を感じることもなく
他人事っぽく過ごしてしまってる私たちへの警鐘として書いたのかな。
なんらかの形で私たちは確実にそれらに関わってるという意味の。
ちょっと伝わりにくい気がする。
言いたいことは文庫化にあたって書き加えられた別章に詰め込まれてるかな。
別章が本文で、
それまでの部分はそこを引き立たせるためのプロローグに過ぎないような
そんな印象です。

登場人物一人一人の描写が薄いというか、
一人の人間として浮き上がってこないんだよなぁ。


そしてこの作者、女性かと思ったら男性なんですね。

『不安な童話』

2006-12-20 20:04:12 | 
恩田陸『不安な童話』
何気なく行った高槻倫子の遺作展で
強烈な既視感に襲われて意識を失った古橋万由子。
万由子は高槻倫子の息子から
“25年前に殺された母の生まれ変わり”と告げられる。
時折広がる他人の記憶。
発見された倫子の遺書。
犯人は誰なのか。万由子は本当に生まれ変わりなのか。
やがて、禁断の事実が。
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情景がとてもリアルに映し出されるプロローグ。
その美しさにぐぐっと引き込まれ、夢中で一気に読んだ。
黄色い服、海、曇り空、よく切れるハサミ。
出てくるアイテムが頭の中に映像として色濃く浮かぶ。
もっと世界を広げて、先生の描き方を丁寧にして
50~100ページぐらい増やしてくれてもよかったな、
という印象ですが、かなりおもしろかった。
犯人は半分ぐらいで気づくだろうけど、
それほどミステリーというジャンルを読まない私としては
犯人探しを楽しむ気はもともとなかったので十分楽しかった。

愛と憎しみ、
美しさと残酷さ、
その対比がとても恐ろしくもきれいだった。

『天切り松闇がたり 第一巻 闇の花道』

2006-12-20 20:03:57 | 
浅田次郎『天切り松闇がたり 第一巻 闇の花道』
冬の留置場。
そこに表れた不思議な老人は
六尺四方にしか聞こえないという夜盗の声音「闇がたり」で昔を物語り始めた。
―――大正ロマン華やかなりし頃、名を馳せた盗賊「目細の安吉」一家。
盗られて困らぬ天下のお宝だけを狙い、貧しい人々には救いの手をさしのべる。
義理と人情に命を賭けた、粋でいなせな怪盗たちの胸のすく大活躍を描く。
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天きり松がやってることは、
“俺は昔すごかったんだぜ。昔の不良ってのは今の軟弱な不良と違って筋が一本通ってたもんだ。”
っていう風に語る面倒なおっさんと変わらないのに、
なぜこんなに楽しんで読めるんだろうね。
出てくる人たちそれぞれがとても愛しく思えてしまう。
目細の安吉の一家だけじゃなく。
一人一人がとっても人間くさくて魅力的なんだよなぁ。
一家の連中はみんな粋だし。
最後は哀しくてホロリとさせるところがやっぱり浅田次郎だねぇ。

『セックスボランティア』

2006-12-20 19:58:26 | 
河合香織『セックスボランティア』
障害者だって恋愛したい。
性欲もある。
「性」とは生きる根本。
脳性麻痺の男性を風俗店に連れていく介助者、
障害者専門のデリヘルで働く女の子、
知的障害者にセックスを教える講師…。
時に無視され、時に美化されてきた、
障害者の性の介助についてのルポルタージュ。
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帯の“障害者にだって性欲はある”という文字を見たとき、
そりゃそーだろ、何を今さら当然のことを、と思った。
だけど、それが何を意味するのか、ということについては
全く考えが及んでいなかったため、最初の数ページで驚いてしまった。
人によっては、自分で性欲を処理することもできない。
ではどうするのか。
という単純なことをろくに考えもしなかった私にとって、
一人での行為を施設の人間が、
時には家族が手伝うこともあるということは衝撃的だった。
そして、そういった行為を禁止している施設があることも。

本書は性の介助をテーマにしているけど、
結局のところ、みんな欲しいのは気持ちのつながりなんだよね。
ちゃんと自分を好きになってくれて、
その上でのセックスを求めてる。
もっと肩の力を抜いて取り組むことなのかもね。
障害を持っていない人たちの性の考え方が幾通りもあるように
障害者の人たちの性の考え方だってその人によって全く違う。
一つのやり方に決めるのではなく、
それぞれのやり方を批判するのではなく、
それぞれが好きな方法を選べればいい。
でも市や国からの助成金が出るとしたらそうは言ってられないんだろうな。
私たちの税金をそんなものに使うな!って人もいるだろうし。

とても驚いたのはオランダでの制度。
法で売春が認められている国であることも知らなかったため
オランダでのルポは驚きの連続でした。
しかし、SARがちょっと機能しなくなってきてる感じはある。
所属している女性が40歳以上が多いという状況は、
つまり今のオランダでそれらが
それほど受け入れられていない制度であるという意味になるんじゃないかな。

無償にするか、有償にするか、特別料金を高く設定するのか低く設定するのか、
その部分がむずかしいところだけど、
一つの話を思い出した。
構造改革特別区域の話。
どこの県だったかな、高齢者がとても多い地域の話。
その土地では、役場の近くにクリーニング屋だったかランドリーがあるのだが、
高齢者にとって、そこまで行くのはかなり大変なことで、
あるボランティア団体だったか地域の人が
ボランティアで高齢者の方の洗濯物を洗濯するサービスを開始した。
でも、高齢背やの方たちは無料でそれをしてもらうことを気兼ねに思い、
ボランティアの人たちにお金を払いたいと思ったが、
日本の法律では洗濯をしてお金を貰うには
資格のようなものが必要なため、そういうわけにはいかなかった。
しかし、特区申請をしてお金を払うことを許されるようになった。
という話。
全く関係ない話だけど、
無料であるということが却ってよくないときもあるんだよなぁと思った。

できれば、著者自身がどんなことを思ってるのか
もっともっと書いて欲しかった。

『卵と小麦粉それからマドレーヌ』

2006-12-16 14:35:31 | 
石井睦美『卵と小麦粉それからマドレーヌ』
「もう子どもじゃないって思ったときって、いつだった?」
と、中学に入学したばかりの日に菜穂に話しかけてきた亜矢。
亜矢と図書室に通いつめたりしながら楽しい学校生活を送る菜穂。
しかし、13歳の誕生日のママの爆弾発言で状況は一変。
ママとは強い絆で結ばれていると思ってたのに。
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肩透かしをくらったような、
ちょっとがっかりな気分。
つまらないわけじゃないんだけどさ、
もうちょっと何かあるんだと思った。
もう子どもじゃないって思ったときっていつだった?
なんて聞くんだから亜矢はもっと大人な子かと思ったのに
ものすごく普通の子供だし、
ママの爆弾発言はふーんっていう程度のものだし。
中学生向けなんだな。

『水の繭』

2006-12-16 14:25:06 | 
大島真寿美『水の繭』
むかしむかし、私たちは家族だった。
母も兄も父も、私を置いていなくなってしまった。
孤独な日常を送っていたとうこの元に、
従妹の瑠璃が突然転がり込んできた。
一方、母とともに別居するとうこの双子の兄・陸は
時々とうこになりかわって過ごすことで
不安定な母を支えていた。
近所の廃屋にやってきた夫婦や、とうこの祖母、
それぞれのかじかんだ気持ちがほころんでいく。
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私がとうこだったらもっともっとイジけてしまうなぁ。
瑠璃はなんだか眩しすぎるし、
パパさんは瑠璃にはステキな言葉を残してるし。
私には何も言ってくれなかったのに、と
やさぐれてしまいそう。
作者は、田舎出身者なんだろうか。
田舎特有の感じが結構出てたと思う。
めんどくささとかあたたかさとかしがらみとか。



『コンビニ・ララバイ』

2006-12-11 19:54:19 | 
池永陽『コンビニ・ララバイ』
とある町の小さなコンビニ“ミユキマート”。
オーナーの堀幹郎は妻子を事故で亡くし、
悲しみに暮れ、幸せにできなかったと悔やむ毎日。
ミユキマートには同じように悩みや悲しみを抱えた人たちが集い、
泣き、迷い、答えを探していく。
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一つ一つ、切なくて哀しくて、
いわゆるハッピーエンドではないけど
きっとこの後、幸せになってくれるよね、
って思うような感じがよかったです。
しかし、
女性の気持ちの昂ぶりを、
濡れた乾いたでしか表せないのか。
毎回毎回それじゃあまりにも陳腐すぎる。
不快でした。
あと、若い女の子たちの喋り方が妙。
全員おばさんみたいだもん。

『完璧な病室』

2006-12-09 01:51:39 | 
小川洋子『完璧な病室』
弟はいつでも、この完璧な土曜日の記憶の中にいる。
病に冒された弟との日々を描く「完璧な病室」。
海燕新人文学賞受賞作「揚羽蝶が壊れる時」。
その他2編。
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「完璧な病室」
余計なものが排除されたような、
整然とした印象を受けた。
食事というとても日常的な行動が
なぜだかすごくグロテスクに感じる。
完璧な病室の安心感とその中で唯一衰えていく弟。
唯一の有機体。
そのバランスが哀しさや苦しさを引き立てているなぁ。
「揚羽蝶が壊れる時」
こわかった。
最初はよくわからなかった。
でも怖かった。
静かなる狂気を感じる。
「冷めない紅茶」
嫌いな話ではないんだけれど、
主人公に対してとてもイラついてしまった。
自分よがりでわがままな様に思えた。
えっ、そこで終わるんだ…、と思わせる話だった。
「ダイヴィング・プール」
何で出てきた言葉だったかな、
幸せであるという不幸、みたいな言葉を
以前読んだことがあって、
それを思い出した。
ひかり園にあふれる不幸の一つでもいいから手に入れたい
と時々考える主人公の感情は
とても自然だと思う。
残酷なほど自然なのだ。