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一寸の兎にも五分の魂~展覧会おぼえがき

美術展のおぼえがきと関連情報をすこしばかり。

岩佐又兵衛にも、義太夫三味線にも惚れ直す、映画「山中常盤」の素晴らしさ

2013-09-16 | 文楽
このたびやっと、「山中常盤 牛若丸と常盤御前 母と子の物語」(監督:羽田澄子/カラー/35ミリ 16ミリ/1時間40分/製作:自由工房/2004年)を拝見することができました。





これは、江戸時代初期に活躍した絵師、岩佐又兵衛の作とされる「山中常盤物語絵巻」(MOA美術館所蔵)の各場面を撮影した映像に、古浄瑠璃をもとに復曲した義太夫節をつけて構成した映画で、義太夫を聴きながら美しい絵巻の映像を楽しむことができるという、私のような人間には極楽浄土のような作品です。

「山中常盤物語」は牛若丸とその母、常盤御前を題材にした古浄瑠璃で、現在では上演されませんが、当時は操浄瑠璃で大変人気があった演目だといいます。

(「山中常盤物語」のあらすじは、後日アップしたいと思っています)

同じ岩佐又兵衛の作とされる「洛中洛外図 舟木本」(東京国立博物館所蔵)にも、京の都で「山中常盤」が人形浄瑠璃で上演されている様子が描かれています(「洛中洛外図 舟木本」は10月8日より東京国立博物館の「京都―洛中洛外図と障壁画の美」展で大々的に公開されますので、お楽しみに!)

この映画では、伝えられている詞書をもとに鶴澤清治さんが作曲し、豊竹呂勢大夫さんが義太夫を語っています。

もともと、岩佐又兵衛という絵師に非常に関心があり、辻惟雄先生のご著書『岩佐又兵衛-浮世絵をつくった男の謎』(文藝春秋、2008年)を読んで「山中常盤物語絵巻」が好きだったということに加え、清治さんが作曲されたという義太夫をどうしても聞きたくて、ぜひ拝見したいとずっと思っていました。

このたび、機会をえて拝見することができたのですが、期待にたがわずすばらしい作品でした。

なかなか見ることができない又兵衛の絵巻の細部にいたるまで、実に美しい色で撮影された画面のすばらしさ。

かなり拡大して撮影している場面もあり、着物の柄や調度品、通行人など細部にいたるまで実に細やかに入念に描写された絵巻のクオリティの高さに、あらためてため息がでます。

そして、義太夫のすばらしいこと。

清治さんの作曲、かっこよすぎます。

しょっぱなから、清治さんとツレの清二郎さん(現・藤蔵さん)の三味線が実に歯切れがよく、かっこよさ全開です。

絵巻と同時に義太夫が進んでいくということで、紙芝居的な要素もあり、清治さんの曲も、盛り上がるところの盛り上げ方がはんぱでなく、よりエンターテイメント性を追及しているようにも思われ、義太夫に慣れていない方でも違和感なく楽しめそうです。

でももちろん、義太夫ファン、とくに義太夫三味線をすきな方でこの映画をまだご覧になっていない方はぜひ、ご覧いただきたい……。太棹の三味線に惚れ直します。

そして、又兵衛ファンは又兵衛に惚れ直します。絶対に。

このすばらしい作品をあまり上映の機会のないままにしておくのは、岩佐又兵衛のファンとしても、義太夫三味線のファンとしてもいたたまれません。

なんとか、上映の機会をつくれないものか、と真剣に思案している次第です。

なにかよい案がありましたら、ぜひご教示くださいませ。

よろしくお願いいたします。

おまけ:そして、岩佐又兵衛ファンには朗報があります!お話しできる段階になりましたらアップしますので、いましばらくお待ちください。
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四代目竹本長門太夫著『増補浄瑠璃大系図』について

2013-09-15 | 文楽
前回、2013年8月28日、大阪四天王寺で開催された「初代竹本義太夫師三百回忌記念行事」の際に配られた、

「竹本義太夫墓石修復資金勧進 合わせて 浄瑠璃界先師墓石修復資金勧進事業 事業報告書」

について簡単に紹介しましたが(コチラ)、この報告書に記載されている墓石の図や戒名などの情報は、『増補浄瑠璃大系図』という書籍から転載していると書いてあります。

先日、「9月文楽公演」で国立小劇場の受付脇売店の書籍コーナーを眺めていたら、その『増補浄瑠璃大系図 上・中・下〈演芸資料選書6〉』(四代目竹本長門太夫著、国立劇場芸能調査室刊)がおいてありました。

おもわず手にとって開いてみると、太夫、三味線、人形の歴代の系図が……。

研究者でもなんでもない私にとっては宝のもちぐされのようなものかもしれないのですが、かねてより江戸の昔、実際に生きて活躍していた三業、特に三味線弾きのことを少しでも知りたいと思っていたわたしにとってはちょっと見過ごせない資料でありまして、

つい3冊とも、買ってしまいました。


(『増補浄瑠璃大系図』中央が上巻。竹本義太夫についての記事から「曽根崎心中」の絵番附)

その概要を下巻に記載されている法月敏彦先生の解題から抜粋すると、

○「本書三冊は、四代目竹本長門(長登)太夫(1814~1890)著『増補浄瑠璃大系図』全22巻の新訂版である」

○「本書は、人形浄瑠璃文楽に従事した、作者・太夫・三味線弾き・人形遣いの師弟関係を系譜の形式に整理した著作物である。その収録範囲は、人形浄瑠璃草創期の頃から、所謂、古浄瑠璃期を含み、義太夫節台頭期から明治初期までが含まれている。当然のことながら、原著者が生きた19世紀後半の人物に関する記述が最も充実している」

○「このように、江戸時代初期から明治初年に至るおよそ300年の人形浄瑠璃従事者について、その膨大な師弟関係が整理され、系統付けられている。本書は、いわば人形浄瑠璃の人物情報源であり、人物事典である」


どうですか、こう書かれると研究者でなくても、素人でも読んでみたくなりませんか??

実際、ぱらぱらっと眺めているだけでも、実にたくさんの、実にバラエティに富んだ名前の太夫さんや三味線弾きさんがいたんだなあ、と当時に思いをはせるのも楽しいものです。

もちろん、「竹本住太夫」や「竹本源太夫」というような、現在に引き継がれる名跡も登場し、そういった名跡の系図が体系だってわかるところも、この本の価値あるところのひとつなのではないかと思われます(素人くさい説明ですみません。でも、実際、素人なので)。

浄瑠璃に詳しい方には基本文献なのだと思いますが、敢えて載せてみました。

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「竹本義太夫墓石修復資金勧進事業報告書」についての簡単なご報告

2013-09-10 | 文楽
2013年8月28日、大阪四天王寺で開催された「初代竹本義太夫師三百回忌記念行事」の際に配られたという、

「竹本義太夫墓石修復資金勧進 合わせて 浄瑠璃界先師墓石修復資金勧進事業 事業報告書」

という文書が、東京の国立劇場小劇場にて開催中の「9月文楽公演 通し狂言 伊賀越道中双六」(初日の報告はコチラ)会場にて配布されております。



少なくとも、初日にはかなりたくさんの量が机においてありました。

8月末の記念行事には行きたいと思いつつも、仕事に絡めとられて足を運ぶことができず残念に思っていたところなので、この報告書だけでもいただくことができてとてもうれしく思いました。

記念行事(法要)の模様はコチラで見られます。

(実は、参加された方のご厚意で、当日配られたという報告書を見せていただいてはいたのでした。本当にありがとうございます!)

この報告書には、中間決算報告として、いくらの寄付金が集まったかとか、どういう支出があったかということが実に事細かにきっちりと記載されており、それについてはすでにツイッターなどで報告もあるのですが、わたしがびっくりしたのは「浄瑠璃(義太夫節)界先師石塔群」についての実に詳しい報告が15ページ近くにわたって記載されていることです。

それぞれの供養等の概略、来歴に加えて、図や写真なども盛り込まれ、墓石や供養塔の説明と同時にそれぞれの人物についても概要がわかるようになっており、とても勉強になります(それらの情報の一部は、『増補浄瑠璃大系図』より転載されたとのこと。この書籍については、コチラを参照)。


(報告書の1ページ)

場合によっては碑文なども書き起こしてあったりして、なんというか、実にマニアックな内容です。

それに引き続き、今回行った墓石の修復経過もたくさんの写真と解説によって報告されており、

「ほほ~、供養塔というのはこういう構造になっていて、こういう風に修理するのか」となかなか興味深いものでした。


(裏表紙)


それにしても、これだけの情報量をまとめるのは、校正含めてけっこう大変だったのではないかと……。

というわけで、関心のある方はぜひ、「9月文楽公演」の会場で手にとってみてください。

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9月文楽公演「通し狂言 伊賀越道中双六」感想@国立文楽劇場 ※追記あり

2013-09-08 | 文楽
※初日を皮切りに何回か通いましたので、感想をまとめました。追記した部分は色を変えてあります(20130922)

2013年、国立劇場の9月文楽公演は「通し狂言 伊賀越道中双六」


(「竹薮の段」より政右衛門 撮影:青木信二)


(「岡崎の段」より、赤ん坊を抱えたお谷さん 撮影:青木信二)


「伊賀越」といえば文楽でも歌舞伎でも「沼津」が有名ですが、今回はその前後の段を含めてストーリー全体を一気に見せようという公演です(もっとも今回の東京公演では、話の発端となる「鶴が岡の段」は割愛されています←11月の大阪公演では上演)。

今回は文楽きっての大曲のひとつといわれる「岡崎の段」もかかるということで大変楽しみに行って来ました。

「伊賀越道中双六」というのは、「忠臣蔵」や曾我兄弟ものと並び、日本の三大仇討ちといわれる「仇討ちもの」で(あらすじについては下記画像参照)、沢井股五郎に父を殺された和田志津馬という若者が、義兄で腕のたつ剣豪である唐木政右衛門の助太刀を得て、仇討ちを果たすという話です。




文楽でも歌舞伎でも人気がある「沼津」は、政右衛門も志津馬も登場せず、仇討ちの本筋とはちょっと離れ、呉服屋の十兵衛とその実父・平作を中心にしたストーリー。


幼いころに別れた親子が偶然再会できたにもかかわらず、実はそれぞれが仇討ちの敵味方にかかわっているために素直に親子と明かすことができず、結果的に父の死を招いてしまう悲劇。通してみると、仇討ちという全体のストーリーのなかでの悲劇性がより鮮明に浮かびあがり、無念さを痛感します。

正直いって「沼津」だけ見ていたときは(特に歌舞伎では何回も見たのですが……)、あまりよさがわからなかったのですが、今回の「沼津」ははじめて心にしみて、いい演目だな、と実感できました。

歌舞伎だと十兵衛がなんとなくちゃらちゃらしがちで、一方の平作がこれまたやたらとじじむさい感じで、特に最初の荷物を持つところがなんだかだらだらしてしまっていまひとつ好きになれなかったのですが、文楽ではそこらへんの演技過剰がなく、軽快な三味線にのって十兵衛が足取り軽く歩く感じもほほえましくて、同じ場面でもまったく印象が違います。

今回の「沼津」全編を通じて十兵衛と平作の人柄のよさが特に印象に残りました。それだけに、2人ともああいう最期を遂げてしまうのが哀しい……。

ここまで人を巻き添えにしてまでやる意味のある仇討ちなのか……と、つい思ってしまいます……。

そして「岡崎の段」。

文楽きってといわれる大曲で、前半はそれなりにくだけた場面もあって笑わせるのですが、離縁した夫、政右衛門を追って赤ん坊を抱えたお谷が登場するあたりになると、話ががぜん暗くなり、緊迫感が漂います。

このあたりの、雪の中、行き倒れになる母と子のイメージは、作者である近松半二が以前書いた「奥州安達原」とかぶります。なんだかこう、これでもか、これでもか、という感じの過酷なシーン。

仇討ちを成就させるために妻を離縁した政右衛門ですが、雪のなかで瀕死の妻と再会し、仇討ちが成就して迎えに行くまで(ということなんだと思います)「必ず死ぬるな」と抱き起こすシーンはさすがに感動もので、いろいろひどい仕打ちをしたけれど、やっぱり政右衛門はお谷さんのことを愛しているのか!、と嶋大夫さんの語りに胸をはっとつかれるような思いでした。

「岡崎の段」での政右衛門の心のゆれ、愛してはいても守れない、むしろ傷つけて追いつめなければならない女房に対する思い、やっと会えたわが子を殺す前の一瞬のためらい、ものすごく複雑で激しい感情がどちらかというとおさえ気味にじわじわと伝わってくるあたりが嶋大夫さん、千歳大夫さんの語りのすごいところという印象です。

(茶色字は追記:20130922)ちなみに、千歳大夫さんが語る政右衛門は胆力があって威勢もよく、とってもかっこいいです。「岡崎の段」のラスト近く、「まだ、お手の内は狂いませぬな」というあたり、玉女さんの動きとともにこれぞ!というかっこよさです。

これはものすごい段なので、もう一度夜の部だけじっくり聴かせていただくのが楽しみです。そのあと、もう一回昼夜通します。

(緑字は追記:20130916)
嶋大夫さんの語りはもちろんですが、富助さんの三味線もすばらしく、最初の「すでにその夜もしんしんと」と雪が降り積もる夜の静けさがなんだかすごく感じがでてるなぁと思っていたら、やはりこの場面は「雪の夜の更け行く静けさを十分に描写し、太夫の語り口と三味線の音色で雪の夜の身の引き締るような感じを与えねばなりません」と『国立劇場上演資料集 伊賀越道中双六』に収録されている豊竹山城少掾の芸談にもあります。

幸兵衛の妻の糸繰り唄の三味線も美しかったし、さきほど書いたお谷が生き絶え絶えの場面では、嶋大夫さんのお谷の苦しい息づかいと、富助さんの三味線の緊迫感がとても真に迫っていて、いてもたってもいられないような気持ちにさせられました。

やっと2回目でここまで聴き取れたので、あともう一回じっくり聴かせていただくのが楽しみです。


それにしても、恋女房のはずなのに、みんなの目の前で恥をかかせるような形で一方的に離縁したり、雪の中死ぬ思いで連れてきた赤ん坊を殺しちゃったり、仇討ちを成就させるためとはいえ、政右衛門がお谷さんにする仕打ちは、やっぱり相当ひどい……。

それでも政右衛門にこんなこと言われるとお谷さんとしては女房冥利につきるんでしょうねえ。こういう男にほれると、女はつらいなあ……、お谷さん。

ちなみに、「唐木政右衛門屋敷の段」で政右衛門がお谷の目の前で新しい花嫁を迎える場面のしつっこさは、「妹背山婦女庭訓」でお三輪が官女たちにえんえんといじめられるシーンのしつっこさに通じるものがあるという印象なのですが、さきほどの雪のシーンといい、「奥州安達原」といい、半二は女性をぎりぎりっ、じわじわっといじめるのが好きなんでしょうか……。

全体的な話の筋としてはちょっと荒っぽいといいますか、無理を感じるところもなくはないのですが、疑問に思った点はほぼ、『国立劇場上演資料集』に掲載されている内山美樹子先生の論考で解決しました。

話の筋がなかなか複雑で、見どころも多岐にわたっているようなので、今回はとくにこの上演資料集が役に立ちました。国立劇場受付脇の売店で1500円で販売していますので、筋書きと一緒にぜひお買い求めください。


(くろごちゃんの左手が『上演資料集』、後ろが今回の筋書き。手前が会場にていただける「竹本義太夫墓石修復資金勧進事業報告書」→簡単な報告はコチラ

そのほかの聴きどころ、見どころについてざっと。

仇討ちものにふさわしく、立ち回りが多いこの演目。記憶しているかぎりでも、3~4回は敵味方入り乱れて戦うシーンがあります。

特に、政右衛門の立ち回りは玉女さんの動きがダイナミックで非常にかっこいいので、見ごたえがあります(なかでも、「誉田家大広間の段」)。

戦うシーンでは、適宜、御簾内で三味線のメリヤスも流れ、そちらも切れ味のよいてきぱきとした演奏ですので、耳を傾けてみてください。

(茶色字は追記:20130922)
個人的には、「円覚寺の段」での文字久大夫さんと藤蔵さんがとてもよかったと思います。

文字久大夫さんの声よし、声量よし、緊迫感にあふれる語りと藤蔵さんの力強い三味線の息があっていて、又五郎の母なるみと、丹右衛門が相討ちする場面には思わずひきこまれました。

また、夜の部の最初、「藤川新関の段」の三輪大夫さんの語りもなかなか楽しいです。

奴の助平(すけへい)という三枚目が登場するチャリ場なのですが、遠眼鏡を見ながら縁ある女性の浮気を発見して大騒ぎする助平のこっけいさを三輪大夫さんのおもしろおかしい語りと勘十郎さん(東京公演では、紋壽さんの代役)の人形のこっけいな動きが盛り上げてくれ、大うけでした。

「伏見北国屋の段」では、志津馬とその一行が仮病をつかって又五郎のおじ、林左衛門をだまし、又五郎の居場所をつきとめる場面ですが、按摩のふりをしたり、眼医者のふりをしたり、あの手この手を使って林左衛門をだまそうとする一連のストーリーがおもしろく、英大夫さん、清介さんの床もテンポよく進み、人形の動きもおもしろく、だれないので飽きません。

最後の「伊賀上野敵討の段」は10分前後で終わってしまいますが、最初から最後までほぼ戦闘シーンなので、ふだんは物静かな印象の團吾さんがめずらしく(?)バシバシたたきまくって新鮮!

というわけで、「沼津」「岡崎」以外にも見どころ、聴きどころはたくさんありますので(このほかにもいろいろ書きたいことはありますが、きりがないのでとりあえず……)、これからの方はぜひ体調を万全に整え、一度は昼と夜とを通してご覧になることをおすすめします。


ちなみに、「通し狂言 伊賀越道中双六」は通してみると約10時間ですが、国立劇場では昼の部と夜の部を両方みた方には懐中稽古本(復刻版)のプレゼントがあります。

1日のうちに通してみなくても、昼の部と夜の部のチケットがあればいただけますので、どちらかしかみない方でも、チケットは2枚もってこられることをおすすめします。



明治時代、素人さんが浄瑠璃を語ることを楽しんだ時代には、こういうポケットサイズの床本を懐に忍ばせて、いつでもどこでもちょっと時間があるときにうなったり語ったりしたようです。雰囲気でてますね。



(茶色字は追記:20130922)
さて、11月はいよいよ本拠地、大阪での公演。こちらは大序「鶴が岡の段」からなので、より本格的な「通し」になるようです(それでも、東京、大阪ともに「郡山宮居の段」は割愛)。

1か月のブランクがあるとはいえ、東京公演を経たあとですからより充実した公演になること必至ですし、やる気まんまんでしょうから、関西の方は楽しみですね。

それにしても、いま若手とかイケメンとかでもてはやされている技芸員たちの誰が、「岡崎」の切をまかされる器に成長するのでしょうか。

いやほんとに数十年後、「伊賀越」の通しを生で聴けたなんて夢みたい、ということにならないように、頑張ってもらわないといけないし、優れた演者はファンが育てる要素もある以上、我々も気を引きしめなければ、と自戒をこめてしみじみ思いました。
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三谷文楽「其礼成心中」DVDでおもしろさをあらためて実感

2013-08-18 | 文楽
今年、二度めの上演を果たした三谷文楽「其礼成心中」。

会場でDVDを買ってきたので早速見てみました。


(三谷さんの缶バッジは会場でもらったおまけです)

収録されている公演は去年2012年のものです。

先日、今年バージョンを見たばかりなのですが、ちょこちょこと細かいところが改善されているような印象はあるものの、おもしろさは変わらず。

文楽のDVDなので、カメラが人形に集中するのは文楽DVDの常ではありますが、適宜太夫&三味線もちゃんとうつります。

それに、舞台では人形の動きをここまでアップで細かくは見られないので(人形にだけ意識を集中していたらもしかしたら目で追えるのかもしれませんが、私はただでも床に意識が集中するので……)、やっぱりおもしろいです。

しかしなんといっても、あの語りと三味線が家で何度でも聴けるのがうれしい。

今回、あらためて床本を見ると、古典的な作品のそれとは違って登場人物のセリフが多いし、長い。

これをよく、あれだけおもしろく「語れる」なあ、と太夫の技にあらためて驚嘆します。

とくに「第三場 繁盛曾根崎饅頭 ライバル出現の段」の呂勢大夫さんの語りのおもしろさは、ちょっと筆舌に尽くしがたい。

「はい、今日はそこまで。饅頭買うて帰ってや。お代は向こうで払うてな」 

の歌うような語調のおもしろさは耳から離れません。

半兵衛のがしゃがしゃした語り口と妻のおかつさんの落ち着いた穏やかな語り口とが、息つく間もなく入れ替わり、観客を飽きさせないテンポで進みます。

三味線も、よく聴いてると語りにあわせて、なんだかすごく変な音をだしたりして、笑いに大いに一役かってます。

今回は清介さんの作曲ですが、曲としても聴き応えのある、楽しい場面がたくさんあります。

人形でも、おふくちゃんの悶絶シーンや、淀川での水中シーンなど、チャレンジにあふれたこの作品。

やっぱり「其礼成心中」は、文楽の新しい扉を開いた記念すべき作品として記憶に残るだろうなあと実感しました。


とにかく、こんなにおもしろいものがあるということをもっと多くの人に知ってほしい。

文楽鑑賞教室にいけない学校なんかで上映会をしたら、面白がってもらえるのでは、と思ったり。

「其礼成心中」を舞台で見られた方も、見ていない方も、このDVDはぜひ見て(聴いて)いただきたいです。

これから何度も上演されるかもしれませんが、何年も何十年もたってみたら、感慨もひとしおだろうなあ。

ちなみに、ブルーレイBOX(7350円)のほうは特典映像「三谷幸喜の文楽ガイド&舞台裏探訪(20分)」もつくようです。いいな~。うちはいまのところ、ブルーレイはみられないのでこれは断念。

というわけで、ほどなく一般売りも開始されるようですので、ぜひお買い求めください。

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三谷文楽「其礼成心中」の「人形小割帳」

2013-08-18 | 文楽
昨年に続き、今年もPARCO劇場をわかしている、三谷幸喜による新作文楽「其礼成心中(それなりしんじゅう)」。

公演2日めに続いて、2度目に行ったらロビーに「人形小割帳」が飾ってありました。



今回の公演では人形遣い(主遣い)は顔を出しませんが、カーテンコールでは人形をもって挨拶するので誰がどの人形を遣ったかはわかるのですが、左遣いや足遣いまではわからないので、こうしてみると参考になります。


(拡大したところ)

開演前に三谷さんを模した人形がでてきて挨拶するのですが、そのときに「文楽をはじめて見る人」と「5回以上見に行ったことがある人」とそれぞれ挙手を求められます。

最初に行ったときは「5回以上」の人が多かったのですが、2回目のときは前のブロックでは「文楽はじめて」の人がかなり多かったのでうれしく思いました。

実際、お客さんも比較的若い人が多かったような。

わたしの隣の席の20代とおぼしきカップルも、開演前に男の子が「寝ちゃうかも」と言い、女の子のほうが「寝てもいいけど、いびきだけはかかないでね」などと言っていたのですが、いざはじまってみると男の子が最後まで大笑いして寝るどころではなかったようです。

よかった。

これをきっかけに文楽に興味をもってくれる人が少しでも増えることが、三谷さん、技芸員、スタッフ、文楽ファンの切なる願いだと思います。

少し時間はかかるかもしれないけれど、三谷文楽の第二弾、第三弾や、ほかの作家による新作文楽の企画も実現していってほしいと思います。

さて、その公演も本日が千秋楽。最後は盛り上がるだろうなあ……。

皆様、今回も素敵な公演をありがとうございました。

暑い中、本当にお疲れ様でした。

また来月、東京への揃ってのお越しをお待ちしております。

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三谷文楽「其礼成心中」舞台はもちろん、手ぬぐいもおすすめ@PARCO劇場

2013-08-11 | 文楽
PARCO劇場にて、今夏も絶賛上演中の三谷文楽「其礼成心中」

会場では昨年の公演を収録したブルーレイ・DVD、筋書とともに手ぬぐいも2種類販売しております。

私が購入したのは、舞台となっている曽根崎の森を描いた柄。紺地ですが両端が黒で、漆黒の闇にうかびあがる曾根崎天神が幻想的です。







この染めは、なかなか手がかかっているのではないかと思います(1000円は安いぞ)。

もうひとつの柄は、三谷さんの顔。こっちはまあ、三谷さんのファンの方はどぞ!


(白地にこの顔が……)

肝心の舞台は……、今年もおもしろかったです! 

呂勢大夫さんの捨て身の演技力といいますか、語り力(こんな言葉あるんかいな)に座布団10枚!

書いているのが三谷さんなので当然、言葉(セリフ)で笑わせてくるのですが、呂勢大夫さんはそれに頼らず、語り方でも笑わせてくれます。

その笑わせ方も、いわゆるチャリ場(こっけいな場面)のノリとはやっぱり違って、より「お笑い」のノリに近いので、ふだんとはずいぶん違う工夫が必要だったと思うのですが、もう割り切って「この作品を最高におもしろく聴かせるためには、ここまでやったる!」というような、作品の真髄を表現しようとする潔さを感じました。


若手・中堅の人形遣いも大奮闘。コメディなので人形の動きもやっぱり通常よりコミカルで、文楽の人形がこんな動きをするなんて……と軽いカルチャーショックを受けますが、おもしろいです。

やっぱりそれも、基本を押さえているからできることかと。

最後の泳ぐシーンなど、びっくりです。

ストーリーが明快なのと言葉が現代語なので聞き取りやすいということで、文楽初体験の方におすすめですが、そういう意味では文楽通にも見ていただきたい作品。でもまあ、文楽好きな方は私が言わなくてももうご覧になっていることでしょう。

個人的には紋秀さんのお福ちゃんに座布団6枚!

お三味線チームは初日2日めはちょっとおとなしい感じでしたが(蝠聚会疲れかな??)、終盤に向けてノってくるのではないかと思います。去年も千穐楽はノリにノってました。

あの楽しいエンディングテーマ(家で曲を思い出しながら、お三味線でマネしてみた!一部だけどできたよ!)を何度も何度もリフレインして、とっても盛り上がってましたものね。

作曲された清介さん、すばらしい! 僭越ながら、座布団10枚!

あー、最終日も行きたいなあ。でも、今年は仕事も佳境でそのころはとてもあわただしくしているのであきらめます。

やっぱり、DVD買おうかな。うん。買おう。

というわけで、当日券も少しは出ているみたいなので、ぜひ楽しんできてください。

追記:とかなんとか言って、チケットが手に入ってしまったので今週末、もう1回行ってくることにしました。昼間「えびかい」、夜「三谷文楽」! 


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あぁ、おもしろかった夏休み文楽特別公演@国立文楽劇場

2013-07-21 | 文楽
2013年は7月20日(土)に初日を迎えた夏休み文楽特別公演


(チラシ表「夏祭浪花鑑」団七九郎兵衛 撮影:青木信二)


(配役表)


(チラシ表「妹背山婦女庭訓」お三輪 撮影:青木信二)


(解説)

初日に行ってまいりました。



一部の「金太郎の大ぐも退治」は最後に金太郎(幸助さん)と鬼童丸(玉佳さん)の宙乗りもあるスペクタクルで、清介さん補曲の三味線がダイナミックでかっこよく。

二部の「妹背山婦女庭訓」は言わずと知れた義太夫を代表する名作中の名作。

お三輪の一途な恋心(でも報われない!)がいとおしく見所なのですが、個人的には鱶七の豪胆さが気に入っていて、何度見ても見飽きない(聴き飽きない)演目です。

今回は、文楽劇場では1994年以来という「井戸替の段」がかかり、諸肌脱いだ男たちが威勢良くかけごえをかける幕開けから、夏らしい雰囲気が味わえるのも、この季節ならでは。

初日には、この演目にちなんだ「杉玉」を桐竹勘十郎さんとお三輪(の人形)が、三輪明神大神神社の権禰宜様から授かるというイベントがあったのですが、このときのお三輪のお辞儀をする様子とか、ちょっと控えめに立つ姿とかが、もうほんとうに清楚で愛らしく、さすが勘十郎さんと、そういう意味でも拍手喝采なのでした。

三部の「夏祭浪花鑑」は今まさに夏真っ盛りの大阪で繰り広げられるということもあり、舞台も迫力の大熱演。

玉女さんの団七がかっこいいのはいつもながらですが、文司さんの一寸徳兵衛がこれまた素敵で、二人が喧嘩してから和解する「住吉鳥居前の段」は、人形なのに人間よりかっこいい、ほれぼれするような二人でした。

「釣船三婦内の段」では住大夫師匠が、お辰の身をはった女伊達ぶりと三婦の粋も甘いも噛み分けた渋い魅力をさらりと爽やかに語られていて、団七や徳兵衛の若さでごり押しするかっこよさとはまた別の魅力を発見できます。

そして「長町裏の段」、千歳大夫さんの団七がもうノリにのって、かっこよさとみじめさと色気が混在して爆発する「夏祭」の世界を体現。

肩衣も柿色の団七格子で、決まってます。

この段は三味線が黙っていなければならない時間が長いので、三味線フリークとしてはちょっと残念なのですが、最後の最後、「八丁目、差して」のところで藤蔵さんがためにためていたパワー全開でぶったたきますので、びっくりなさいませんように。

ちょっと無理をして1日に3部通してしまいましたが、最後まで見られて(聴けて)よかったと大満足の1日でした(っていうか、また来られないのが残念でしかたない)。

そして個人的には今回、一番期待していた「瓜子姫とあまんじゃく」については、別に項目をもうけてお話します(コチラ)。
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フジテレビの「what's 文楽?」文楽のおもしろさと厳しさを実感!

2013-06-01 | 文楽
2013年5月30日(木) 02:25~03:25、フジテレビで文楽をとりあげた番組が放映されました。

放映が真夜中なので録画しまして、さきほど拝見しました。

「what's 文楽? 受け継がれる300年の伝統」

広告があるとはいえ、1時間枠で文楽のみとりあげるというのはテレビ、しかも民放ではなかなかめずらしいこと。

盛りだくさんの1時間です。

見られなかった方にもご参考になれば、と主な内容をご紹介します(まあ、厳密さには欠けるかもしれませんが、だいたいの内容ということで御容赦くださいませ~)。

○人形と人形遣いの技の紹介

○今年の春、表参道ギャラリー5610で開催された「渡邉肇 × 堀部公嗣『人間・人形 映写展』」の紹介
→「エアー人形」の撮影現場もあり。実際の映像作品(「曾根崎心中」の心中場面)も、かなりたっぷり放映してくれています。

○義太夫節および人形浄瑠璃の歴史について

○筋金入りの文楽ファンの紹介(「神宗」八代目社長の尾嵜彰廣さんと四日市文楽公演の主催者の人見春代さん)

○豊竹咲寿大夫さんの密着取材

「竹本義太夫300回忌追善・勧進特別公演」の紹介

○主に紹介されている文楽技芸員(いちおう登場順のつもり。漏れがあったらゴメンナサイ)
吉田蓑助さん(人形遣い)
桐竹勘十郎さん(人形遣い)
吉田蓑之さん(人形遣い)※インタビューあり
豊竹咲大夫さん(太夫) ※インタビューあり
豊竹咲寿大夫さん(太夫)※インタビューあり


咲寿大夫さんの密着取材では、楽屋ですとか、床の裏を見ることができて、とてもおもしろいです(床がぐるっとまわって太夫&三味線が交代する場面も、舞台裏から見られます)。

お弟子さんがお師匠様のお世話をする大変さとともに、有難さも伝わってくるよいドキュメンタリーになっています(編集の仕方もうまい!)。

文楽という伝統芸能のおもしろさはもちろんですが、修業を積んで芸を引き継ぐということの厳しさ、緊張感が伝わってくるという点が、非常にすばらしいと思います。

若者であっても、常に緊張感と敬意をもって芸にのぞんでいるということが、画面から伝わってきます。

文楽入門の形式はとっていますが(近松門左衛門の電話相談室コーナーなど)、実際には文楽にそれなりにはまっている人は、より楽しめるかもしれません。

また、以前このブログでも取り上げたパンフレット「近松が描いた上方」シリーズは、「神宗」八代目社長の尾嵜彰廣さんが「自腹で」作られたもの、と紹介されていました。

単に文楽を好きというだけでなく、積極的に応援する具体的な方法として、こうした優れた解説パンフの作成・配布を実践なさっているのですね。

感服いたします。

最後に紹介されている「勧進公演」の紹介では、お稽古から撮影が入っていて(ここでちょっとだけ三味線がクローズアップ)、実際の舞台を拝見した者としては、おもしろさもひとしお。

しかし! しかしですね。「文楽といえば三味線」派のわたくしとしては、三味線の取り上げ方があまりに少ないのがかなり残念。

えー、もう終わっちゃうの!? といいたい。

もう少し取り上げてもいいのでは……。

まあここは欲張らず、またいずれ、文楽の三味線がクローズアップされた番組が作られることを期待しつつ。

今回はこういう番組をフジテレビが放映してくれたことに感謝したいと思います。

最後に印象に残った言葉。

「一にも二にも好きにならないと。この世界は。うち(文楽)の世界は24時間と違うて25時間この世界に浸かっていないとしようがない」(豊竹咲大夫)




ということで、ぜひ「文楽」体験しちゃいましょう。

6月の文楽公演は、国立文楽劇場(大阪)での「文楽鑑賞教室」



2013年6月7日(金)から06月20日(木)まで。10日(月)と19日(水)は「社会人のための」と銘打ち18時30分から。

演目
「日高川入相花王(ひだかがわいりあいざくら)より 渡し場の段」(←有名な安珍・清姫の物語より清姫が大蛇になっちゃう場面です)
「解説 文楽へようこそ」(←技芸員がでてきていろいろ解説してくれます)
「絵本太功記(えほんたいこうき)より尼ヶ崎の段」(←三味線が超かっこいい曲)。

まだ、席はあるようです。お早めに~。

ちなみに16日(日)は、大阪市主催の「文楽デー」だそうです。

この日は特別に、「三業体験コーナー」(太夫、三味線、人形をそれぞれ体験できるコーナー)もあるようです。

それから6月22日(土)、23日(日)は「文楽若手会」も開催されます。



若手(20~40代)の技芸員が「大役に挑み、その経験が今後の技芸向上につながることを目指して」開催されます。

演目は、
「二人禿」「絵本太功記より 夕顔棚の段、尼ヶ崎の段」「新版歌祭文より 野崎村の段」

いずれも名作ばかり。若手の奮闘が期待されます。

東京は、9月の文楽公演「伊賀越道中双六」までしばしお待ちを!



あ、その前に8月はPARCO劇場で三谷文楽「其礼成心中」(8月8日~18日) が再演されます。昨年話題になり、チケットがとりづらかった公演。くれぐれもお見逃しなく!

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5月文楽公演第一部「熊谷陣屋」と「曾根崎」名作で攻める@東京・国立劇場

2013-05-20 | 文楽
連日満員御礼の国立劇場、5月文楽公演


(今日も満員御礼)

初日から1週間がすぎ、ようやく第一部に行って参りました。

「熊谷陣屋」と「曾根崎心中」の二本立てですが、個人的には時代物が好きなので、「熊谷陣屋」に期待していきました。

いやー、いいですね、「熊谷」。三味線も荘重かつ激しくて、うっとりします。

「熊谷陣屋の段」の「前」は、呂勢大夫さんの語りでしたが、低めの荘重な入り方で引き込まれました。赤坂花形文楽のときに、5月は大きい演目で相当稽古された(いつもそうなのでしょうが)、というようなことをちらりとおっしゃっていたので、期待していったのですが、期待にたがわず!



熊谷次郎直実のかしらは「文七」。肌の色も真っ白でなくて少し日焼けした感じが武将っぽくて、キャラとしてはかなり濃いめですがいい感じです。

「熊谷陣屋」の前半で着ている衣装は、朱色と黒の鮮やかなもので、鳥さんの紋の刺繍がかわいいです。


(5月文楽公演のチラシより。「熊谷桜の段」の熊谷次郎直実。撮影:青木信二)

ただ、前から気になってはいたのですが、この熊谷次郎直実という男は、いまひとつつかみにくいです。わたくしには。

「熊谷陣屋の段」で登場してまもなく、はるばる陣中に尋ねてきた妻、相模に対して

「何をしに来たんだ? 陣中へは手紙もよこすなと言ったじゃないか。そのうえ女の身で陣中に来るなんて、不届き千万」というような言葉を投げつけ、とりつくしまもない。

でもまあ、これはわかるんです。陣中ですし。ちゃらちゃら女房に来られると、部下の士気もさがるとか、まあいろいろと懸念材料はあるのでしょう。

ここから連想されるのは、謹厳実直な、堅物のイメージ。

でも、実は熊谷は若かりし頃、京の御所で相模と馴れ初めて「不義の罪に問われるところを藤の方(敦盛の母)に助けられた恩義がある」(『文楽ハンドブック』)。

その馴れ初めで、一子小次郎君が生まれたというわけのようです(「熊谷陣屋」の段では、この小次郎君が、敦盛の身代わりに殺されたことになっている)。

んー、別につきあうのが悪いと言うつもりはないですし、熊谷と相模はちゃんと結婚してけじめもつけているのでとやかく言う筋合いはないのですが、でもなんだかその馴れ初めは、後半のやたら堅い熊谷のイメージとちょっと違うような気が……。

とにかく「熊谷陣屋の段」そのものが、全体的にやたらと荘重で毅然とした雰囲気に包まれているので、いくら過去のこととはいえちょっとお色気っぽいエピソードが浮いちゃうように思えるのは、わたしだけでしょうか。

いつもながら、枝葉末節に気が散って、演目の本筋を掴んでいなくて申し訳ありません。

(なにぶん、本筋についてあれこれ言うほどの鑑賞力が育っていないもので……はい)

幕間には、国立劇場のゆるキャラ、「くろごちゃん」登場。



こんなポーズもとってくれました。



握手して、名刺もらっちゃいましたよ。




そして、NPO法人人形浄瑠璃文楽座のグッズ「つめやん」のストラップ最新バージョン「官女」と「軍兵」をゲットして帰ってきました。←国立劇場小劇場売店で売ってます。入ってすぐ左のほうの売店です。各800円。



そして「曾根崎心中」。

これをお目当てにいらした方も少なくないことでしょう(先日、皇后陛下も「曾根崎心中」をご覧にいらっしゃったそうです)。

ここのところ「曾根崎」はよくかかるので、何度もうかがっていますが、いつも床に気持ちが集中していたわたくし。

しかし今回はわたしも、道行の人形に意識を集中しました。

前にもご紹介した渡邉肇 × 堀部公嗣「人間・人形 映写展」で見た心中場面があまりに美しかったので、今度舞台でかかったら、ぜひちゃんと見ようと思っていたので。

おりしも、道行の真っ最中に地震が。かなり長時間ゆらゆらしましたが、舞台の蓑助さんと勘十郎さんはまったく気に留めず、お初と徳兵衛に集中されています。

心中の場面は、確かにものすごい緊張感が舞台にみなぎります。目を閉じたお初は、「覚悟の顔の美しさ」という通り、本当に彼岸を思わせる美しさです。

が、すぐに幕がひかれててしまい、お客さんも立ってしまうので、いまひとつ余韻にひたれないのがちょっと残念(わたしも立ちましたけど)。

この日は昼夜通しだったので、かなりハードでしたが、2回目の第二部もやはり見ごたえ(聴きごたえ)がありました(第二部の感想はこちら)。

第二部の「心中天網島」について、咲大夫さんのコメントが国立劇場HPで公開されています。

そうそう、劇場でははやばやと9月文楽公演のチラシも置いてあります。



「伊賀越道中双六」の通しです。

これはなかなかかからない! またもやチケット争奪戦か!?

8月には三谷文楽もパルコ劇場で再演されます。


(国立劇場内に貼られた三谷文楽のポスター。写真が見づらくて申し訳ありません)

なんだかんだ言って、文楽、攻めてますね。

そうでなくちゃ。







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