「極夜行前」角幡唯介(文春文庫)
太陽のない極夜の北極圏の旅を記録し、大佛
次郎賞を受賞した「極夜行」の準備期間を記
録した本作。
本屋で2022年10月第1刷を見て、思わ
ず「嘘やん」ととても小さく呟く。
本屋に行く頻度は確かに減ってしまっている
が、逃してはいけない書籍を半年以上も見逃
していたという体たらく。
それくらいに角幡さんの探検記録の書籍は楽
しみにしており、サクサク読み終わり、期待
どおりに満足する。
「極夜行」は著者が集大成の旅の記録と自認
するもので、とても面白いが、相当に気負っ
ているという印象があった。
しかし、本書はその準備記録として、文体、
内容ともに気負いなどなく、著者の初期作品
群からのユーモアも見える。
極夜を旅することの意義ではなく、著者にと
って極夜を旅するということは、どういう位
置づけか。
まだ回数をこなしていない、旅慣れていない
頃の記録は、まさしく原点として、確かにこ
こにある。
この新鮮な、著者曰く「若くてガムシャラだ
った」旅は、様々に、あらゆる意味で大切な
瞬間を切り取っている。
作品の性質も方向性も異なるから、本編とど
っちがということはナンセンスであり、どち
らもそれぞれとても面白い。
今や北極圏犬ぞり冒険家(おじさん)となっ
ている、とても素敵な人生の角幡さんの、そ
の色を決めた決定的な作品。
読めば「極夜行」を読みたくなるし、「極夜
行」を読んでいれば、読むと「前」の記録な
のに、なぜか「後」の余韻を楽しめる。
この前なのにアフターな、エピローグなとこ
ろが、とてもいい。
この先、色と位置づけの定まった角幡さんは、
どういった書籍を出していくのかが、今は興
味のあるところである。