足掛け6年にわたる茨城放送通いは、私の人生にとって大きな学びの機会でもありました。
4月の番組改編の機会に長年お世話になった番組に一応の区切りをつけることになりましたが、突然の東日本大震災で放送が3週間中断し、あれこれ準備していたことがすべて崩れました。
こんな事情で何のお断りも出来ず、4月のアタマに突然のお別れ放送となってしまいました。実に悔しいことでした。
残念であったことは間違いないのですが、この番組のなかでお伝えしたのが復興のライブや慰問などで皆さんと再会するという約束でした。
震災から早くも2ヶ月が過ぎました。
3月に訪ねた茨城は空路も陸路も不自由で、やむなく神戸からクルマを走らせましたが、ガソリンの確保が難しく車内に爆弾並みのガソリンを備蓄しての旅でした。
今回はかなり落ち着いた状況で事前にオファーのあったライブや慰問先訪問が目的でしたから比較的安心感のある茨城行きでした。
そんな中今回ただ一つ、私たちにとって興味深いハプニングが加わりました。
随分前になりますがある日番組にリクエストがありました。
「鉄人27号」のラジオネームの投稿でしたが、単なる音楽のリクエストだけでなく妙に人柄と生き様を感じる不思議なお便りが届きました。
その主が那珂市にあるお蕎麦屋さん「藤兵衛」のご主人であることがわかりました。
IBSのヘビーリスナーでもあり、IBSスタッフもご贔屓の店だとあとで判るのですが、それ以後我々の公開放送やライブにも忙しい中を駆けつけてくださりお付き合いが始まりました。
温かい人柄で特にMasacoさんも大きな励ましをいただいたこともあり忘れられない方です。
人生って摩訶不思議なものです、しばらくお会いしていない間に突然見舞われたお店の火災や今回の地震など、ご主人が駆け抜けた人生そのものがまだ繰り返されているようにも感じます。
お店は再建され営業されていますが身につまされる思いです。
久しぶりに美味しいお蕎麦をいただいき、帰り際にMasacoさんがこのご主人に尋ねました。
「藤兵衛さん、お昼やすみは何時からですか?ちょっとお話したいことがあるんですけど・・・」
このお店のレジにこんな言葉が小さく掲げられています。
「百人のお客様より、一人のそば好きのお客様を大切にしたい」手打ちそば処・藤兵衛 店主
この時、相方のMasacoさんが私に言ったことは、
「いつもレジ横のあの言葉が気になっていた・・ライブではいつも百人以上のお客さんに呼びかけていたけど、今回は一人のラジオ好き、歌好きのお客さん、藤兵衛さん一人の為に歌っていいかしら・・?」
クルマには路上ライブに備えたアンプやマイクがスタンバイされています。
いつでもどこでもOKです。
お店が終わって一息ついた約束の午後4時・・・再び店内に入りました!
そこで初めて今回の主旨「藤兵衛さん一人のためにライブをしたい」と告げました。
一瞬驚いた表情の店主でしたが、観客がたった一人のライブが始まりました。
店の奥の席に一人の観客・・入り口にこれも一人の歌い手が位置し、これまでの茨城の思い出や多くの思いとともに感謝の言葉でつづられました。
世界で一番小さなコンサートが開催されました。
歌い終わってから返礼の店主藤兵衛さんの言葉も大きな感動がありました。
うっすら浮かぶ涙か汗かわかりませんが、二人の表情をみながら私の中でも過去に無い特筆すべきライブであったことは間違いありません。
団塊の世代の私と同じ世代の一人のリスナーを結びつけたMasacoさんの歌の力に感謝したのは言うまでもありません。
これからも一人の為に歌う機会があれば喜んでお伺いしよう・・と心に誓ったのも事実です!
再会を約束し那珂市を離れましたが温かい言葉に励まされ、茨城の旅はまだ続きます。