現在、東京国際フォーラムにて絶賛上演中、石丸幹二主演ミュージカル『ジキル&ハイド』。原作は言わずと知れたロバート・ルイス・スティーヴンソンの『ジーキル博士とハイド氏』ですが、本日は手持ちの訳書をちょっと紹介します。一昨年、ツイッターでつぶやいたこともありますが、あちらではどうしてもすぐ流れ去ってしまうので、やはりまとめておきたいと思いました。
現在すぐ取り出せない本もあり、うろ覚えの部分も多いので、誤りがあったら、そのつど追記訂正していきます。
ジーキル博士とハイド氏 (新潮文庫) | |
スティーヴンソン | |
新潮社 |
この新潮文庫版が、一般的には最も入手し易いと思います。訳者あとがきも作者スティーヴンソンの生涯や作品など要点を押さえ、入門書としても最適です。
ジキル博士とハイド氏 (創元推理文庫) | |
ロバート・ルイス スティーヴンスン | |
東京創元社 |
フォーラムに於いて2016年も今年も物販コーナーに置いてあるのがこちら。
翻訳はオーソドックスですが、菊地秀行さんの解説が面白い。無声映画時代のジョン・バリモア主演作品に始まる主にホラー映画としての「ジキル&ハイド」映像化の歴史を紹介しています。言及されているのは1996年、ジョン・マルコヴィッチ主演『ジキル&ハイド』まで。なお、そちらの原作はスティーヴンソンではなく、ヴァレリー・マーティン作『メアリー・ライリー ジーキル&ハイドの恋』です。
メアリー・ライリー―ジーキル&ハイドの恋 (文春文庫) | |
ヴァレリー マーティン | |
文藝春秋 |
映画は観ましたが、この原作は未読です。余談ですが、鹿賀丈史さん主演ミュージカル『ジキル&ハイド』初演当時、原作にない女性キャラクターが活躍すると聞いて、私はこの『メアリー・ライリー』がベースだと思っていました。
ジーキル博士とハイド氏 (光文社古典新訳文庫) | |
ロバート・ルイス スティーヴンスン | |
光文社 |
光文社古典新訳シリーズの一つ。実際、2009年出版の比較的新しい翻訳なのですが……それ以前の訳に較べて、なぜか非常に読みづらいです。ベテラン翻訳者さんのはずなのに、日本語として飲み込みにくく難儀しました。
お奨めポイントは、実は本文より東雅夫氏の解説にあります。創元文庫版と同じく映画化作品への言及もなされていますが、映像化の際に一般的となった女性キャラクター登場のルーツが、そもそも初期の舞台化作品にあったことが記されています。
原作が出版されたのは1886年。早くもその翌年の1887年にはアメリカで戯曲化されていたそうです。舞台は好評を博し、1888年には英国でも上演されたとのこと。そしてなんと、当時その英国版舞台をリアルタイムで観ていた日本人記者の手記まで残っているのです!それだけでも史料的価値がありますが、更に驚くべきは、この手記が当時まさにロンドンを恐怖に陥れていた「切り裂きジャック」事件に言及した本邦初の文献でもあるということ。この解説にはその全文が復刻掲載されています。
これについては、別にエントリーを立てるかもしれませんが、舞台や映画化作品に関心あるかた、切り裂きジャック事件との関連に興味あるかたは是非お読みください。
新訳 ジキル博士とハイド氏 (角川文庫) | |
スティーヴンソン | |
KADOKAWA |
現在の最新訳はこの角川文庫版。こちらも訳者自身による解説が面白い。ハイド氏と言うよりジキル博士と友人たちの隠れた「悪徳」、原作に隠された同性愛的要素など、これまでにない視点が興味深いです。
なお岩波文庫版は未読。今年の上演パンフレットにも言及のある話題作『ハイド』もまだ持っていません。後者はそろそろ読みたいと思っています。