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映画・舞台の感想や俳優さん情報等。基本各種メディア込みのレ・ミゼラブル廃。近頃は「ただの日記」多し。

The Propositionの俳優たち

2006-03-24 10:16:36 | DW出演作品レビュー

またも "The Proposition" 関連の話題で失礼します。
3/9、3/10と二回に分けたレビューでは出演俳優さんたちについて触れられなかったので、その話をしたいと思います。カテゴリーはこれで。

まずは、私がこれを観るきっかけとなったデイヴィッド・ウェナムさん。
実は観る前に或る方から聞いていたのですが、本当にああいう「声」での演技だったんですねえ。
でも、それはそれで見識かも知れません。だって、あの役柄で朗々たる、または野太い声なんかで喋られたら、絵に描いたような悪役、日本の時代劇で言う宿場町の顔役みたいになってしまったと思います。おそらくデイヴィッドは(監督も)フレッチャーを単純な悪役にはしたくなかったのでしょうし、実際そうはなっていないと、私は思いました。
「カリカチュアライズし過ぎ」という批判もあり得ると思いますが、私の感じ方としては、このレビューなどに近いです。つまり、ああいう環境での「ヴィクトリア朝風紳士」なんていうものは、そもそも存在自体がカリカチュアなんだから、ということです。また、いかにも上品そうな気障っぽいヤツが強権を揮うあたりに、別の怖さを感じさせる効果もあったと思います。

スタンリーのレイ・ウィンストンは『キング・アーサー』のボースの人と言えば、お判りになるかも。前にちらっと書きましたが、『ナルニア』でビーバーさんの声もなさってるんですねえ。
エミリー・ワトソンも『コープス・ブライド』で声の出演をしていましたし、英国俳優(女優)さんは「声」(または台詞回し)を買われてのお仕事が多いのでしょうか。
でも、少しの風でも折れてしまう薔薇のような妻と、それを必死で守ろうとする中年の夫を、お二人は細やかに演じていました。

また、IMDbでノア・テイラーが出ていると知って期待したのですが、一回観ただけでは判りませんでした。エンドクレジットの「登場順」を見ると、かなり始めの方に出て来るようなので、目をこらして観てみると…
ひ、ひどい…多分あれがそう、と辛うじて判別できる程度にしか顔も写らず、始まって一分も経たずお亡くなりに…
ノア・テイラーという役者の格を考えると、あまりにも信じられないような扱いなので、当初はもう少し出番がある役だったんじゃないかと思いたいです。

さて、アーサー・バーンズ役のダニー・ヒューストン。ニコール・キッドマンやナオミ・ワッツとも共演したことがあるそうなので、豪と縁がない訳ではないようです。
先頃レイチェル・ワイズがゴールデン・グローブ賞とアカデミー賞両方で助演女優賞を取った『ナイロビの蜂』にも出ているとか。
しかし、それよりもっとびっくりしたことが…
これもIMDbによると、この人なんと、往年のアメリカ映画の名監督にして俳優でもあったジョン・ヒューストンの息子さんだったんですね!(アンジェリカ・ヒューストンの異母弟)

ジョン・ヒューストンも様々なエピソードに事欠かない人だったようですが、その中で、以前雑誌か映画関係の本で読んで印象に残っている話があります。
ハンフリー・ボガート、キャサリン・ヘップバーン主演『アフリカの女王』のロケを実際に現地で行なっていた時、彼は「象を撃つ」ことに取り憑かれていたそうで、いくら1950年代初めでも、野生動物をむやみに殺傷することなど認められる筈もなく、スタッフも「それは罪(crime)になるからやめてくれ」と止めたのですが、それに対して彼はこう答えたそうです。
「それは"crime"ではなくて"sin"だ」
だから(それでも、だったか?)自分はそうしたいのだ、と。

この言葉と、ダニー・ヒューストン演じるアーサー・バーンズのイメージが、私の中では直結しました。
アーサーの数々の所業も"crime"ではなく、既に"sin"の域にあることだと思います。
人は人の"crime"は裁けても"sin"は裁けないし、それを贖うことは誰にもできない。などということまで考えてしまいました。

ジョン・ヒューストンには、その他にも、周囲の顰蹙を買うほど娘アンジェリカや子どもたちを溺愛していた等の話もあり、"The Proposition" のスタッフは、それらのジョン・ヒューストン伝説からアーサー・バーンズの人物像を造って行ったのではないかという気さえするほどです。
ジョン・ヒューストン本人はともかく、その監督作品の登場人物たち、中でも『白鯨』のエイハブにはアーサーと通じるものがあるように思います。この世界の美しさも知りつつ、地獄の底を這い回っているような所が。

"The Proposition" 関連サイトに、もう二件リンクしておきます。
まず、前にも紹介した、画像やプレス用資料をダウンロードできる所。
画像一覧及びプレスノートは "Stills" でなく、タイトル下の "Press" からどうぞ。
"Stills" の方を見ると、ノア・テイラー単独画像(顔もちゃんと出ている)もあるのが悲しいです…うっう…
The Proposition

次に、以前他サイト様でご紹介下さった、ロケ地にあるモーテルのサイト。
ここで撮影に使われたセットや、ロケ風景、その合間のスタッフ、キャストの様子を捉えた画像が見られます。
サイト内 "Photos" から "Hollywood in Winton" をクリックしてもいいですが、下記インデックスページからも直行できます。
Winton Outback Motel

撮影はとにかく暑くて、無数のハエが飛び交う中で行なわれた、という記事も読んだことがありますが、ビニールプールで夕涼み(?)している皆さんや、映画の中では一度も笑顔を見せることのなかったガイ・ピアースがニコニコとマイクを持っている姿などを見ると、本編を観終えた後ではなぜかホッとします。
あの凄絶で悲痛な物語も「お話」だったんだよ、と思えて…

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2 コメント

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悪役 (ふらっと)
2006-03-26 00:25:32
デイヴィッドの役が悪役かどうかは私にはちょっと…と以前申し上げたかと思いますが、私自身は「あの時代のああいう人(地主)はああいうものだろう=彼の行動はかなり当然だろう」と大変自然に得心しましたので特に悪い奴とは思いませんでした。考え方や振舞いが「リアル」だと感じました。それと同時にその振舞い自体がまるでギャグのようにも見えるというのは正にカリカチュアなのでしょうが、それがイコール「リアル」に見えるということがお挙げになっているレビューで書かれてもいて私も大いに賛同するところです。(役まわりの振り分けというか、分類上の名付けとしての「悪役」というのは分かります。)

それにしても倫理というのも難しいですね。正義は勿論ですが悪も罪もやはり相対だろうか、前提(時代背景)でどうとでもなるように思われます。
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善悪の彼岸 (Q)
2006-03-27 00:22:41
こんにちは。

そうなんですよ。私もフレッチャー氏については、あの時代でああいう地位や立場の人なら、ああいう言動も特に悪人だからという訳ではなくて、理解の範囲のことだと思いました。

カリカチュアにしかなり得ない人物像をカリカチュアとして描出するという方法も納得できるものでしたし。



ニック・ケイヴやヒルコート監督が実際に信仰を持っているかどうかは知りませんが、根っこの部分にはどうしてもキリスト教の存在を感じずにはいられません。

「あまつみくに」(Happy Land)は地上にはなく、人は人を裁くことも救うこともできない。神という絶対の前では、たかが人間のすることなどはすべて相対的なものでしかない…というような。
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